酢酸鉛(読み)さくさんなまり(英語表記)lead acetate

精選版 日本国語大辞典 「酢酸鉛」の意味・読み・例文・類語

さくさん‐なまり【酢酸鉛】

〘名〙 化学式 Pb(CH3COO)2 で表わされる化合物。三水塩は単斜晶系無色結晶で、甘味があるため鉛糖とも呼ばれるが劇薬医薬品鉛化合物原料メッキなどに利用される。ほかに Pb(CH3COO)4 をさすこともある。水溶液を浸みこませた濾紙酢酸鉛紙)は、硫化物イオンの検出に用いられる。

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デジタル大辞泉 「酢酸鉛」の意味・読み・例文・類語

さくさん‐なまり【酢酸鉛】

鉛化合物で、ふつうには酢酸鉛(Ⅱ)Pb(CH3COO)2のこと。酸化鉛を温希酢酸に溶かし、冷却して得られる無色の結晶。三水和物Pb(CH3COO)2 ・ 3H2Oは鉛糖えんとうとよばれ、水溶液は甘味があるが有毒。医薬染色・鉛めっきなどに利用。ほかに酢酸鉛(Ⅳ)Pb(CH3COO)4があり、強酸化剤として用いる。

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改訂新版 世界大百科事典 「酢酸鉛」の意味・わかりやすい解説

酢酸鉛 (さくさんなまり)
lead acetate

鉛の酢酸塩。酢酸鉛(Ⅱ)と酢酸鉛(Ⅳ)とがある。

化学式Pb(CH3COO)2。無水和物,3水和物,10水和物があり,市販品は3水和物で,鉛糖とも呼ばれる。酸化鉛(Ⅱ)を温希酢酸に溶かしてから冷却すると3水和物が得られ,これをおだやかに熱すると無水和物が得られる。無水和物,3水和物ともに無色の結晶または粉末で,やや酢酸臭がある。無水和物は融点204℃,3水和物は75℃で無水和物に変わる。水,エチレングリコールによく溶け,アルコールにもわずかに溶ける。加水分解しやすく,いろいろな組成の塩基性酢酸鉛を生ずる。空気中からCO2を吸収しやすいので密封して保存する。渋い甘味をもち,有毒。食器類への顔料塗料としての使用は避ける。また塵埃じんあい)などとして吸入しないよう,マスクを用いるといった注意が必要である。各種鉛塩の製造原料,染色用に用いられるほか,重合触媒,医薬(収れん剤)などにも用いられる。医薬に用いる場合は,急性鉛中毒を起こすおそれがあるので,長期使用はできない。

四酢酸鉛ともいう。化学式Pb(CH3COO)4。四酸化三鉛Pb3O4を温氷酢酸に溶かして冷却すると無水和物の結晶が得られる。融点175℃の無色の結晶。水やエチルアルコールでは分解する。クロロホルム,熱酢酸に溶ける。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「酢酸鉛」の意味・わかりやすい解説

酢酸鉛
さくさんなまり
lead acetate

酢酸と鉛がつくる塩。酢酸鉛(Ⅱ)と酢酸鉛(Ⅳ)がある。一般に市販されているものは酢酸鉛(Ⅱ)三水和物で、甘味があるので鉛糖とよばれることがあり、昔は甘味料としてワインなどに用いられていたといわれているが、非常に有毒である。

 酢酸鉛(Ⅱ)は酸化鉛(Ⅱ)を温希酢酸に溶かして冷却すると析出する。有毒なので取り扱うときは粉末を吸わないように防塵(ぼうじん)マスクを使用し、十分注意する必要がある。各種鉛塩の製造に用いられるほか、収斂(しゅうれん)剤として湿布に使用される。

 酢酸鉛(Ⅳ)(CH3COO)4Pbは四酢酸鉛ともよばれ、分子量443.4、融点175℃、比重2.228。四酸化三鉛Pb3O4を少量の無水酢酸と反応させることによって合成する。ベンゼン、クロロホルムに溶けるが、水に触れると分解して酸化鉛(Ⅳ)となる。有機合成反応で選択的酸化剤として重要で1,2-ジオールの炭素‐炭素結合(C-C)の切断などに用いられる。

[佐藤武雄・廣田 穰]

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化学辞典 第2版 「酢酸鉛」の解説

酢酸鉛
サクサンナマリ
lead acetate

酢酸鉛(Ⅱ),(Ⅳ)がある.単に酢酸鉛というときはPb(CH3COO)2・3H2O(鉛糖)をいう.【】酢酸鉛(Ⅱ):Pb(CH3COO)2(325.29).酸化鉛(Ⅱ)に温希酢酸を加えて溶かし,冷却すると三水和物が得られる.三水和物を75 ℃ で熱すると無水物が得られる.無水物は白色の結晶.融点204 ℃.密度3.12 g cm-3.三水和物は無色の単斜晶系結晶.密度2.54 g cm-3.融点75 ℃.いずれも水,グリセリンなどに易溶.鉛塩の製造原料,鉛めっき,防水加工,ワニス製造,顔料製造,染髪剤,分析試薬,医薬品,染色用に用いられる.有毒.[CAS 301-04-2:Pb(CH3COO)2][CAS 6080-56-4:Pb(CH3COO)2・3H2O][CAS 1335-32-6:Pb(CH3COO)2・2PbO・2H2O]【】酢酸鉛(Ⅳ):Pb(CH3COO)4(443.38).四酢酸鉛ともいう.四酸化三鉛を氷酢酸に溶かし,冷却すると得られる.無色の単斜晶系の結晶.融点175 ℃.密度2.23 g cm-3.熱酢酸,クロロホルムに溶けるが,水には分解して酸化鉛(Ⅳ)となる.有機合成で強酸化剤として用いられる.[CAS 546-67-8]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「酢酸鉛」の意味・わかりやすい解説

酢酸鉛
さくさんなまり
lead acetate

(1) 酢酸鉛 (II)  酢酸第一鉛ともいう。俗称は鉛糖。化学式 Pb(CH3COO)2・3H2O 。無色の結晶。甘味があり,いくぶん風解性がある。有毒。比重 2.55,融点 75℃ (脱水反応) 。木綿の染色,顔料 (クロム黄) の製造,分析試薬などに用いられる。局所収斂剤として医用に供されるが,微粉の吸収は危険である。 (2) 酢酸鉛 (IV)  酢酸第二鉛,四酢酸鉛ともいう。化学式 Pb(CH3COO)4 。単斜晶系,無色の結晶,融点 175℃。 >C(OH)-C(OH)< の結合をもつ有機化合物を定量的に酸化するので,このような結合の存在の有無を知るために利用される。

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百科事典マイペディア 「酢酸鉛」の意味・わかりやすい解説

酢酸鉛【さくさんなまり】

(1)二酢酸鉛Pb(CH3COO)2。比重3.25,融点280℃。無色の結晶。水溶液からは3水和物Pb(CH3COO)2・3H2Oが得られ,これを普通に酢酸鉛または鉛糖といっている。比重2.540,融点75℃(脱水)。無色の結晶。水に易溶。わずかに甘味があり,有毒。染色,医薬品の製造に使用。一酸化鉛PbOを酢酸に溶かしてつくる。(2)四酢酸鉛Pb(CH3COO)4。比重2.228,融点175℃。無色の結晶。四酸化三鉛Pb3O4を温氷酢酸に溶かしてつくる。有機合成で酸化剤として使用。

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