鈴木其一(読み)すずききいつ

改訂新版 世界大百科事典 「鈴木其一」の意味・わかりやすい解説

鈴木其一 (すずききいつ)
生没年:1796-1858(寛政8-安政5)

江戸後期の琳派画家。名は元長,字は子淵,通称は為三郎。庭柏子,必庵,噲々,菁々,祝琳と号す。酒井抱一内弟子となって絵を学ぶ。酒井家家臣で抱一の付人であった鈴木蠣潭れいたん)の姉と結婚し,鈴木家を継ぐ。抱一の雨華庵の真向かいに住み,師の代作なども務めたが,その没後,独自の画風を確立して名声を高めた。抱一様式を基礎としつつ,幕末の美意識に裏打ちされた明晰な装飾性に新生面をひらいた。代表作に《夏秋渓流図屛風》(根津美術館),《白椿・薄野図屛風》(フリア美術館),《群鶴図屛風》などがある。
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朝日日本歴史人物事典 「鈴木其一」の解説

鈴木其一

没年安政5.9.10(1858.10.16)
生年寛政8.4(1796)
江戸後期の画家。名は元長,通称為三郎,字は子淵,号に必庵,庭柏子,錫雲,為三堂,祝琳斎などがある。紫染家業とする江戸の町家に生まれ,文化10(1813)年酒井抱一に画才が認められ,内弟子となる。同14年同門の鈴木藤兵衛(蠣潭)が急死したのち,鈴木家の家督を継いで抱一付きの酒井家の臣となる。40歳前後より師風を脱し,特有の色感と形態感覚および奇抜な発想と大胆な構成とによって独自の世界を形成する。代表作に「夏秋渓流図屏風」(根津美術館蔵),「白椿・薄野図屏風」(フリア美術館蔵)や「柳に白鷺図屏風」(心遠館コレクション)などがある。幕末期江戸のやや退廃的市民感情を共有しつつも,写実的な自然描写と装飾性との新たな調和を目指した作品には,明治期の日本画へと繋がる新鮮な内容もみられる。<参考文献>山根有三ほか編『琳派絵画全集 抱一派』,河野元昭「鈴木其一の画業」(『国華』1067号)

(仲町啓子)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鈴木其一」の意味・わかりやすい解説

鈴木其一
すずききいつ
(1796―1858)

江戸後期の画家。名は元長、字(あざな)は子淵(しえん)。噌々(かいかい)、菁々(せいせい)、庭柏子(ていはくし)、祝琳斎(しゅくりんさい)などを号す。近江(おうみ)(滋賀県)出身の染屋の子として江戸に生まれる。幼少のころから酒井抱一(ほういつ)の内弟子として仕え、のち同門の鈴木蠣潭(れいたん)が没するとその跡目を継いで鈴木姓を名のる。画業は抱一に師事し、初め師風を忠実に習ってしばしばその代作を勤めたとされる。1828年(文政11)に抱一が没したのちは、しだいに師風を離れ、画面から叙情的な要素を払拭(ふっしょく)して大胆かつ斬新(ざんしん)な装飾画風に傾斜。花鳥画をもっとも得意とするが、対象の形態を明晰(めいせき)に追究する独特な造形感覚をもって琳(りん)派の流れに特異な存在を示す。代表作に「夏秋渓流図屏風(びょうぶ)」(東京、根津美術館)、「薄椿(すすきつばき)図屏風」(ワシントン、フリアー美術館)などがある。

[村重 寧]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鈴木其一」の意味・わかりやすい解説

鈴木其一
すずききいつ

[生]寛政8(1796)
[没]安政5(1858).江戸
江戸時代後期の画家。通称は為三郎,号は噌々,菁々。若くして酒井抱一の内弟子となり,のち酒井家の家臣鈴木蠣潭の養子となって抱一に仕え,門下の逸材として絵の助手をつとめた。その作風や技法は抱一の影響が大きく,なかには師をこえていかにも明治期を予測するような新しい感覚を示す作品もみられる。主要作品『梅に椿図屏風』 (ホノルル美術館) ,『花木図屏風』 (根津美術館) 。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「鈴木其一」の解説

鈴木其一 すずき-きいつ

1796-1858 江戸時代後期の画家。
寛政8年4月生まれ。琳(りん)派の酒井抱一(ほういつ)の内弟子となり,同門の鈴木蠣潭(れいたん)没後,鈴木家をつぐ。大胆な装飾的画風が特色。安政5年9月10日死去。63歳。江戸出身。名は元長。字(あざな)は子淵。通称は為三郎。別号に噲々,菁々,祝琳斎。作品に「夏秋渓流図屏風」「薄(すすき)椿(つばき)図屏風」。

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