日本大百科全書(ニッポニカ) 「阿漕(三重県)」の意味・わかりやすい解説
阿漕(三重県)
あこぎ
地名で三重県の阿漕浦のことで、伊勢(いせ)神宮の御膳(ごぜん)調進の場として禁漁区であった。病母のために密漁して処罰された男の伝説があり、古来「逢ふことをあこぎの島に曳(ひ)く網のたびかさならば人も知りなん」(古今六帖)など、諸書に詠まれている。転じて、同じ事のたび重なること、またそれによって広く知れわたることをいう。「重ねて聞食事の有りければこそ阿漕とは仰せけめ」(源平盛衰記)。さらに、どこまでもむさぼる、あつかましく、しつこいことを表すようになった。「あこぎやのあこぎやの、今のさへやふやふと舞れた、最早(もはや)ゆるしてたもれ」(波形本狂言『比丘貞』)、「我々が口を利くのだ、奴も然(そ)う阿漕なことは言ひもすまい」(尾崎紅葉作『金色夜叉(こんじきやしゃ)』)などの用例がある。
[岡田袈裟男]