険・嶮(読み)けわしい

精選版 日本国語大辞典 「険・嶮」の意味・読み・例文・類語

けわし・い けはしい【険・嶮】

〘形口〙 けはし 〘形シク〙
① 山や坂などの傾斜が急で、登るのに困難である。道が急峻である。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
今昔(1120頃か)五「其の道嶮(けは)しく難堪き事无限し。水无くして咽乾て既に死なむとす」
② 克服するのが困難である。てきびしい。また、危険である。
※源平盛衰記(14C前)三五「度々の戦に合たれども、是程軍立のけはしき事に合はず」
浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)三「我けはしき事に出合しは、四十三度、一たびも手をおはざりしに」
③ 自然の現象や風景が人を受けつけないさま。荒々しい。猛烈である。はげしい。
源氏(1001‐14頃)総角「夜の、気色いとどけはしき風の音に、人やりならず、なげき臥し給へるも、さすがにて」
④ 人が他を受け入れないさま。つけいる余地のないさま。
(イ) きびしい。きつい。
海道記(1223頃)蒲原より木瀬川「人の心は此水よりも嶮しければ」
(ロ) 性格や目つきや口調などがとげとげしい。
日葡辞書(1603‐04)「Qeuaxij(ケワシイ) ヒト」
⑤ 余裕のないさまにいう。あわただしい。せわしい。けたたましい。忙しい。
※浮世草子・好色一代男(1682)五「手飼の鶯を取放させ、庭山にけはしく、申々と声を立る」
⑥ 程度がはなはだしい。勢いが強い。
※アパアトの女たちと僕と(1928)〈龍胆寺雄〉四「けはしい息をして、ぢッと僕を見つめて居るうちに」
[語誌]→「さがし」の語誌。
けわし‐げ
〘形動〙
けわし‐さ
〘名〙

さがし【険・嶮】

〘形シク〙
① 山や坂がけわしい。平坦でない。険阻である。
※古事記(712)下・歌謡「梯立(はしたて)の 倉梯山は 佐賀斯祁(サガシケ)ど 妹(いも)と登れば 佐賀斯玖(サガシク)もあらず」
※源氏(1001‐14頃)浮舟「さかしき山越えいでてぞ、おのおの馬には乗る」
② 危険なさまである。あぶない。
落窪(10C後)二「女君いとさがしき事なりとて、笑ひ給ふ」
[語誌](1)語源は、ネタム━ネタマシ、ヤス━ヤサシ、ユク━ユカシなどと同様に、動詞サグ(下・提)に由来する再活用語とする説がある。
(2)平安朝に派生した用法として②があるが、「風急に波(ハケシ・サカシ)。水の黒こと墨の如し」〔観智院本唐大和上東征伝院政期点〕のように波の高いさまを形容する用法もある。
さがし‐さ
〘名〙

けん【険・嶮】

〘名〙 (形動)
① けわしいこと。また、その所。難所
※続日本紀‐宝亀一一年(780)一二月庚子「深溝作険、以断逆賊首鼠之要害者」
史記抄(1477)一五「山の険によりて、ついぢを高くつくぞ」 〔春秋左伝‐成公一六年〕
② むずかしいこと。困難なこと。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉七「中古以来、商賈の険を冒(おか)し危きを凌ぎ」
③ よこしまなこと。悪いたくらみ。〔阮籍‐大人先生伝〕
④ (「権」「慳」と書くこともある) 性格がとげとげしいこと。顔つきや物言いなどにとげとげしさのあること。
※寛永刊本江湖集鈔(1633)一「人心ほど険な物は無ぞ」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)三「ちっと権(ケン)があるよ。あれで愛敬がありゃア鬼に鉄棒(かなぼう)さ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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