雁・鴈(読み)かり

精選版 日本国語大辞典 「雁・鴈」の意味・読み・例文・類語

かり【雁・鴈】

〘名〙
① (その鳴き声からの称という) =がん(雁)(一)《季・秋》
※古事記(712)下・歌謡「たまきはる 内の朝臣 汝こそは 世の長人 そらみつ 大和の国に 可理(カリ)(こ)(む)と聞くや」
伊勢物語(10C前)六八「鴈なきて菊の花さく秋はあれど春の海辺にすみよしの浜」
② かやの四すみにえがく雁(がん)の絵。または、四すみにはりつける雁の形の紙片。蚊がはいらないように、まじないとして行なうもので、中国で古く行なわれたコウモリの絵をえがく風習転化か。雁金
※雑俳・柳多留‐初(1765)「お袋はぶきな姿に厂を書」
③ 「かりくび(雁首)」の略。
※評判記・もえくゐ(1677)「しぼめるれきの。かりなくて。にほひのこれるがごとくなるをも」
譬喩尽(1786)二「亀頭(カリ)。閨中の語也。男根の頸の周り高所を云り」
④ 皮膚病の痒疹(ようしん)、または痒疹性湿疹の俗称。雁が渡って来る頃にでき、帰る頃になおるところからいう。がんがさ。
⑤ 香木の名。分類は真名蛮(まなばん)。古銘として伝えられる。
⑥ 雁の鳴き声。
※後撰(951‐953頃)秋下・三六三「秋ごとにくれど帰れば頼まぬを声にたてつつかりとのみ鳴く〈よみ人しらず〉」
[語誌](1)「万葉集」ではもっぱら飛来する姿や声が詠まれ、秋を告げる鳥。平安時代になると「春霞立つを見捨ててゆくかりは花なき里にすみやならへる〈伊勢〉」〔古今‐春上・三一〕のように北方故国に旅立つ「帰雁」も注目されて春の景物となる。
(2)雁の声は「かりがね(雁音)」の①に引いた「万葉‐一五一三」のように寂しいもの、聞くと悲しく感じるものと考えられ、平安の恋に寄せる歌の多くは「人を思ふ心はかりにあらねども雲居にのみもなきわたるかな」〔古今‐恋二・五八四〕のように鳴き声を絡ませている。「かりがね」が後に雁の異名となったのは、鳴き声が雁を象徴するほどに特徴あるものだったからであろう。

がん【雁・鴈】

[1] 〘名〙 (鳴き声に由来するという) カモ科の大形の鳥の総称。カモに似ているが、ガンの方が大きくて、相対的にくびと脚が長い。羽色は種類によって異なり、雌雄同色で、夏冬ともに同色。飛ぶときは横列またはかぎ形をなすことがある。日本に渡来する種はマガンサカツラガンヒシクイなどで、湿原や湾などに群生。趾に水かきをもち泳ぎが巧みで、生活状態はカモ類に似ている。一般にはマガンをさすことが多い。多くは北半球の北部で繁殖し、秋に南方へ渡る。かり。かりがね。かわがり。《季・秋》
※御湯殿上日記‐文明一七年(1485)正月六日「みんふ卿よりかん一は、たる一かまいる」
[2] (雁) 小説。森鴎外作。明治四四~大正二年(一九一一‐一三)「スバル」に発表。高利貸しの妾お玉と大学生の岡田との淡い恋が、偶然の重なりによって結ばれずに終わる話。鴎外の小説中で特に完成度の高い作品。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android