集権分権(読み)しゅうけんぶんけん

改訂新版 世界大百科事典 「集権分権」の意味・わかりやすい解説

集権・分権 (しゅうけんぶんけん)

集権分権とは,組織内において権限配分が集中的になされているか,分散的になされているかの区別であるといわれる。経営学においては,たとえば,職能別組織において,トップ・マネジメントが製造・販売・研究開発などの活動に関する決定の権限を集中して所有していればいるほどその組織は集権的であるといわれ,反対にそのような権限が各下位単位に委譲されていればいるほど分権的であるといわれる。また権限をもつということは,同時に目的遂行に必要な資源をみずからの決定のもとに保有することを意味する。したがって自己充足的な事業部を複数所有する組織は,他の条件が等しければ,それぞれが相互依存的な関係にある職能部門から構成される職能別組織よりも分権的であると考えられる。しかし,集権・分権の考え方はさまざまであり,上述のような権限の分布という以外にも,意思決定や情報処理という視点から区別されることがある。

 たとえばH.A.サイモンによれば,意思決定が相対的に組織の高いレベルで行われている場合に集権化されており,重要な意思決定を行う自由裁量と権限が低い階層に委譲されている場合に分権化されていると考えられる。このような集権・分権という概念は,M.ウェーバー官僚制論から出発し,おもに社会学者によって展開されてきた官僚制研究により,しばしば操作化されて使用されてきている。イギリスのアストン大学の研究者グループによるアストン研究では,〈集権化〉は決定権限が上位の階層に集中される程度と定義され,ヘイグ=エイケンの研究では,社会的地位間への権力の分布を示す次元であるととらえられた。いずれにせよ,集権・分権という概念は,組織構造を記述するために,〈公式化〉〈複雑性〉とならんで,主要な概念であるという合意が,研究者の間でほぼ達成されつつあるといえる。

 集権・分権の差異およびその有効性の相違は,その組織の直面している環境によって規定されると考えられる。そこで集権・分権の概念を情報処理という視点からとらえるなら,分権とは,市場の多様性を削減するために組織が最少有効多様性を創造することであると定義される。すなわち,組織の直面する市場が多岐にわたり,それらの間の異質性が高ければ,それだけ組織の情報・意思決定の負荷は増大し,組織は情報処理構造を多様化しなくてはならなくなる。つまり分権化しなくてはならなくなる。反対に組織が同質的市場に直面し,同一の情報処理構造のなかで情報の調整あるいは統合が可能であればあるほど,組織は集権化を志向すると考えられるのである。実際,日米の大規模企業の比較研究によると,平均的に不確実性の低い環境に直面しているアメリカ企業は,不確実性の高い環境に直面している日本企業より集権化された組織構造をもっている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android