離・放(読み)はなれる

精選版 日本国語大辞典 「離・放」の意味・読み・例文・類語

はな・れる【離・放】

〘自ラ下一〙 はな・る 〘自ラ下二〙
① 他のものにくっついていた状態のものが別れた状態になる。移動して、間に間隔を置くようになる。
古事記(712)下・歌謡大和へに 西風吹き上げて 雲婆那礼(バナレ) 退(そ)き居りとも 我忘れめや」
山家集(12C後)下「帰りゆく人の心を思ふにもはなれがたきは都なりけり」
② 人が、ある人、ある思い、ある地位、ある立場などから遠ざかる。関係を絶つ。
(イ) ある人のもとから遠ざかる。別れてゆく。
万葉(8C後)五・八八六「うちひさす 宮へ上ると たらちしや 母が手波奈例(ハナレ) 常知らぬ 国の奥かを 百重山 越えて過ぎゆき」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉四「吾等が、弟妹にはなれて、始めて学校に入るは」
(ロ) 夫婦・親子などの関係にある者が別れる。離縁して一人になる。死別して生き残る。
※竹取(9C末‐10C初)「これを聞て、はなれ給ひし元の上(うへ)は腹を切りて笑ひ給ふ」
※浮世草子・好色二代男(1684)二「去御方の奥様なるが、御つれあいに離れさせ給ひて」
(ハ) 信頼・情愛などの関係が絶ち切れる。
書紀(720)欽明二年四月(寛文版訓)「其の卓淳は、上下携(ハナレ)弐(ふた心)あり」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後「丹次郎もまた、米八とははなれぬ契りと推量(おしはかれ)ば」
(ニ) ある事柄に対する思いが失われた状態になる。
※源氏(1001‐14頃)賢木「御行なひしめやかにし給ひつつ後の世の事をのみ思すに頼もしく、むつかしかりし事はなれておぼさる」
※朝の悲しみ(1969)〈清岡卓行〉一「欲得を離れた文学の創作にも折込みたいと望んだりしている」
(ホ) 役職から去る。地位を辞する。また、本来の立場を無視したり捨てたりする。
※大和(947‐957頃)一一三「兵衛尉はなれてのち、臨時の祭の舞人にさされて行きけり」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉初「ヱモシあの娼妓(らん)はあなたにゃアつとめをはなれた仕うちでげスぜ」
③ 閉ざされたり固定されたりした状態から解放される。
(イ) 捕えられたりつながれたりしている動物などが自由になる。逃げ出す。
※拾遺(1005‐07頃か)物名・四一九「鷹飼ひのまだも来なくにつなぎ犬のはなれていかむなくるまつ程〈藤原輔相〉」
(ロ) 戸格子などが開いた状態になる。
※狭衣物語(1069‐77頃か)二「格子を探り給へば、はなれたる所もありけり」
(ハ) 苦しみや嫌疑から解きはなされる。
※仏足石歌(753頃)「四つの蛇五つの鬼の集まれる穢き身をば厭ひ捨つべし波奈礼(ハナレ)捨つべし」
④ ある地点から一定の距離を置いた場所にある。へだたっている。
※万葉(8C後)一五・三六〇一「しましくも独りあり得るものにあれや島のむろの木波奈礼(ハナレ)てあるらむ」
※源氏(1001‐14頃)梅枝「大臣(おとど)は寝殿にはなれおはしまして」
⑤ 除かれる。除外する。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「琴の音をはなれては、何事をか物調へ知るしるべとはせむ」
⑥ 他の物事との間に差異が生じる。また、関係がうすい状態にある。
※咄本・軽口御前男(1703)一「西は千日みなみは墓、煩悩即菩提で、離(ハナ)れたものではないはさて」

はな・す【離・放】

〘他サ五(四)〙
① くっついている状態のものを解いて分ける。対象としてとらえているものを解いてはずす。
※万葉(8C後)一四・三四二〇「上つ毛野佐野の舟橋取り波奈之(ハナシ)親は放(さく)れど我は放(さか)るがへ」
※虎明本狂言・茫々頭(室町末‐近世初)「物じゃ、先手をはなせと申てはなさせて、ふところへ手をいれて」
② 人や物などを、一定の場所や位置などから遠ざける。
(イ) 手放す。
※幸若・くらま出(室町末‐近世初)「いつも御身をはなされぬ、金作りの御帯刀」
(ロ) 放置する。遠くへやる。
※玉塵抄(1563)六「のちにはなしすてられた北の国の此よりさきはないと云北の国へはなされたぞ」
(ハ) 捕えたり、つないで置いたりした動物や罪人などを自由にしてやる。逃がす。
※平家(13C前)六「桂の鵜飼が鵜の餌にせんとて、亀を取って殺さんとしけるを、着給へる小袖を脱ぎ、亀に換へ、はなされたりしが」
③ 物がある地点から一定の方向に離れていくように、または広がっていくようにする。
(イ) 矢や弾丸などを発射する。
日葡辞書(1603‐04)「ヤヲ fanasu(ハナス)
(ロ) 物を飛び散らす。ふりかける。
※虎明本狂言・宗論(室町末‐近世初)「よくにすまひて、ゆがうとなどをはなひて、たぶる所で」
④ 除外する。のぞく。
※改正増補和英語林集成(1886)「コレヲ hanashitewa(ハナシテワ) ホカニ ナイ」
⑤ 気を許す。うちとける。
洒落本・魂胆惣勘定(1754)中「女郎のつつしむことあり、又放(ハナス)ことあり。遊びなればつつしむことはなきなどといふは非なり。客のつつしむことあり、放ことあり」
⑥ ある地点から一定の距離を置く。「一〇メートル離してゴールイン
⑦ はがす。
※仮名草子・尤双紙(1632)下「まことなる物の品々〈略〉ももをつき、ゆびをきり、つめをはなし、なみだにせきあへぬは、しんじちの恋慕なるべし」
⑧ 放屁する。
※咄本・かの子ばなし(1690)上「みなみなはききやるまひの、今すいとはなしたが大かたていしゅもしるまひといわれた」
[語誌](1)上代には「はなつ」が一般的であるのに対して、「はなす」は東国方言にのみ認められる。
(2)鎌倉時代頃から「はなす」の例が増え、室町時代の抄物・キリシタン資料では「はなつ」が「はなす」にほぼ取って代わられた。特に②のような「束縛から解く」意のものがまず「はなす」に移行したらしい。③のような「強い力で遠くへやる」意のものは「はなす」への移行が遅れ、現代でも「はなつ」を用いるのが普通。

さ・く【離・放】

[1] 〘他カ下二〙
① 間を離す。ひきはなす。
※書紀(720)允恭八年二月・歌謡「細絞形(ささらがた) 錦の紐を 解き舎気(サケ)て 数(あまた)は寝ずに ただ一夜のみ」
② 二人の仲を隔てる。ひきさく。
※万葉(8C後)一四・三四二〇「上毛野佐野の舟橋取り放し親は佐久礼(サクレ)ど吾は離るがへ」
③ (他の動詞の連用形に付いて、その動作をすることによって) 思いをはらす。気を紛らす。
※続日本紀‐宝亀二年(771)二月二二日・宣命「誰にかも我が語らひ佐気(サケ)む、孰にかも我が問ひ佐気(サケ)むと」
④ 遠方に目を放つ。遠くを見やる。
※万葉(8C後)一・一七「しばしばも 見放(さけ)む山を 情(こころ)なく 雲の 隠さふべしや」
[2] 〘他カ四〙 (一)に同じ。
※万葉(8C後)三・四五〇「行くさには二人わが見しこの崎を独り過ぐれば情(こころ)悲しも 一云見も左可(サカ)ず来ぬ」

はなれ【離・放】

〘名〙 (動詞「はなれる(離)」の連用形の名詞化)
① 離れること。別れること。〔羅葡日辞書(1595)〕
② 俳諧で、前句と付句との付合が不適当でしっくりしていないこと。
※くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉一「奥様のお吉は病気だと云って離室(ハナレ)の蓐(とこ)に就き」
④ (「ばなれ」の形で名詞に付けて)
(イ) 離れること。関係や関心などのなくなる意を表わす。「親ばなれ」「床ばなれ」など。
(ロ) それからはなはだしくかけ離れている意を表わす。「素人(しろうと)ばなれ」など。

はな・る【離・放】

[1] 〘自ラ下二〙 ⇒はなれる(離)
[2] 〘自ラ四〙 =はなれる(離)
※万葉(8C後)二〇・四四一四「大君の命(みこと)畏み愛(うつく)しけ真子が手波奈利(ハナリ)島伝ひ行く」
[補注](二)は用例から、下二段活用より古い活用とも、上代東国方言ともいわれる。

さか・る【離・放】

〘自ラ四〙 離れる。へだたる。間遠くなる。遠ざかる。
※古事記(712)上「奥疎神 奥を訓みておきと云ふ。〈略〉疎を訓みて奢加留(ザカル)と云ふ」
※万葉(8C後)一五・三六八八「大和をも 遠く左可里(サカリ)て」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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