電波天文台(読み)でんぱてんもんだい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「電波天文台」の意味・わかりやすい解説

電波天文台
でんぱてんもんだい
radio observatory

宇宙からの電波によって宇宙・天体を直接観測する電波望遠鏡を備え、運用・観測し、関連装置の開発などを進めて天文学の研究を行っている組織。1930~1940年代の宇宙電波・太陽電波の発見を背景に、イギリス・マンチェスター大学ジョドレルバンク天文台ケンブリッジ大学のムラード天文台、オーストラリアCSIRO(連邦科学産業研究機構)のパークス天文台、アメリカ国立電波天文台(NRAO)をはじめ、1950年代から1960年代に欧米各国で大規模な電波天文台が創設された。電波技術の開拓時代には長波長(波長10メートル~0.1メートル)の電波観測を目ざしてさまざまな試みがなされ、単一パラボラ型と電波干渉計の2種類の電波望遠鏡がそれぞれ大型化した。1970~1980年代には波長が短いミリ波帯で星間分子の電波分光観測が進展し、電波望遠鏡は大型パラボラ、干渉計ともに高精度化が進んだ。その先頭を切った一つが、日本の野辺山(のべやま)宇宙電波観測所(当時は東京大学東京天文台)である。こうした大型化・高精度化の傾向は、電波望遠鏡が集めた電波を受信し分析する観測装置の著しい発達とともに現在まで続いている。

 電波望遠鏡の設置場所も、大型化・国際化が進むにつれ、より観測環境が優れた乾燥高地や電波雑音レベルが低い砂漠地域、さらに極域などへと移り、建設や運用の国際的共同、また都市部においた天文台本部や拠点からのリモート観測が進みつつある。なお宇宙空間(スペース)軌道に打ち上げた電波望遠鏡による観測は、日本、ロシアなどでVLBI(超長基線電波干渉法)の若干の実績があるものの、宇宙空間での電波望遠鏡の大型化は困難であり、まだ本格化していない。

 大型電波望遠鏡の設置形態はさまざまで、大学付置、大学連合による運営、国立かそれに準じる研究機関の運営、国際共同組織による運営などがある。大規模なものは人員数十人から数百人、中核となる電波望遠鏡の共同利用運用とともに、独自の観測装置の開発などを行う。

 2017年時点で活動しているおもな電波天文台と設置年、所属機関、おもな望遠鏡を以下にあげる(設置年は天文台または主要望遠鏡の成立時。天文台の日本語呼称は、国際的に区別がつきやすい形にしてある)。

ジョドレルバンク天体物理センター(1945、マンチェスター大学):ジョドレルバンク76メートル電波望遠鏡、MERLIN電波干渉計
アメリカ国立電波天文台NRAO(1958、AUI):VLA電波干渉計、グリーンバンク100メートル電波望遠鏡、VLBA電波干渉計(VLBI)
オーストラリア国立電波天文台ATNF(1961、CSIRO):パークス64メートル電波望遠鏡、ATCA電波干渉計、オーストラリアSKA試験望遠鏡 ASKAP
アレシボ天文台(1963、SRI/USRA):口径300メートル固定球面型電波望遠鏡・惑星間レーダー
マックス・プランク電波天文学研究所MPIfR(1966、マックス・プランク協会):エッフェルスベルグ100メートル電波望遠鏡
野辺山電波観測所NRO(1978、国立天文台NAOJ):野辺山45メートルミリ波電波望遠鏡
ミリ波天文学研究所IRAM(1979、ドイツ・フランス・スペインの共同):ピコ・ベレタ30メートルミリ波望遠鏡、ビュール高原NOEMAミリ波干渉計
水沢VLBI観測所(2002、国立天文台NAOJ):VERA(ベラ)(VLBIネットワーク)
韓国VLBIネット(2009、韓国天文宇宙研究所KASI)KVN(VLBIネットワーク)
ALMA(アルマ)天文台(2013、NRAO(アメリカ)+ESO(イーソ)(ヨーロッパ)+NAOJ(日本)):アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計ALMA
 2017年時点で建設・立ち上げ中の電波天文台としては、以下がある。

LMT(2013、メキシコ国立天文宇宙研究所+アメリカマサチューセッツ大学):口径50メートルアルフォンソ・セラーノ・ミリ波望遠鏡(LMT)(当初は内側の口径37メートルを使用)
SKA(2013、SKA機構(本部はイギリス・ジョドレルバンク)):一平方キロメートル電波望遠鏡SKA(SKAオーストラリア・低周波電波観測用-第1フェーズ、SKAアフリカ・中・高周波電波観測用-第1フェーズ)
FAST(2016、中国国立天文台NAOC):口径500メートル固定球面型電波望遠鏡FAST
[海部宣男 2017年7月19日]

『赤羽賢司・海部宣男・田原博人著『宇宙電波天文学』(1988/復刊・2012・共立出版)』『中井直正他編『宇宙の観測2 電波天文学』シリーズ現代の天文学16(2009・日本評論社)』『国立天文台編『理科年表』(2017年版 丸善出版)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「電波天文台」の意味・わかりやすい解説

電波天文台 (でんぱてんもんだい)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の電波天文台の言及

【天文台】より

…また上に述べた歴史の古い天文台でも,位置天文学のほかに,天体物理学の観測が盛んに行われるようになった。 さらに20世紀の後半に入ってからは,電波天文学の発展に伴って,電波望遠鏡の建造が各地で進められ,電波観測を主とするいわゆる電波天文台もいくつか建設されている。1970年代以降には,人工天体に望遠鏡や測定器を積み込んだ空飛ぶ天文台orbiting observatoryが実現し,とくに地上からは観測できない紫外線やX線および赤外線の波長域での観測に大きい成果をあげるようになった。…

※「電波天文台」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android