鞍馬天狗(能)(読み)くらまてんぐ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鞍馬天狗(能)」の意味・わかりやすい解説

鞍馬天狗(能)
くらまてんぐ

能の曲目。五番目物。五流現行曲。宮増(みやます)の作。鞍馬山西谷の寺からの使いに迎えられて、東谷の僧(ワキ、ワキツレ)が大ぜいの稚児(ちご)を連れて花見の宴をしていると、魁偉(かいい)な山伏(前シテ)が闖入(ちんにゅう)する。同座を嫌がって人々が去ったあと、平家一門の稚児たちのなかで孤立の身を嘆く牛若丸(子方)と山伏が残され、牛若丸に同情した山伏は花の名所へといざない、自分はこの山の大天狗であることを明かし、兵法を伝え平家を討たせ申そうと約して雲に消える。この2人の場面には、中世特有の同性間の愛情のおもかげも残る。アイ狂言の木の葉天狗が出て兵法稽古(けいこ)の場面のあと、花やかに武装した牛若丸が登場。本体を現した大天狗(後シテ)は、中国の張良の故事を物語り、平家討滅を予言して終わる。能の豪快な演技、演出が可能とした一つの世界であり、古来の人気曲である。最初に出る大ぜいの花見の稚児で初舞台を踏むのが、能役者の家の子のしきたりである。

増田正造

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百科事典マイペディア 「鞍馬天狗(能)」の意味・わかりやすい解説

鞍馬天狗(能)【くらまてんぐ】

能の曲目。五番目物。五流現行。宮増の作という。多くの天狗物は力を誇示しながら他愛なく敗退するが,この曲だけは実力ある超人として描かれている。鞍馬山の花の下,孤独な牛若丸と山伏(実は大天狗)の恋情を扱った前段に対し,大天狗が偉容を見せ平家討滅の兵法を授けるのが後段。童話風の能。
→関連項目切能物

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