預・与(読み)あずかる

精選版 日本国語大辞典 「預・与」の意味・読み・例文・類語

あずか・る あづかる【預・与】

[1] 〘自ラ五(四)〙 (現代では「与」と表記することが多い)
① 関係する。かかわる。参与する。
※続日本紀‐宝亀三年(772)三月二日・宣命「謀反の事に預(あづかり)て、隠して申さぬ奴等(ども)
徒然草(1331頃)七五「ことにあづからずして心をやすくせんこそ、蹔(しばらく)たのしぶとも言ひつべけれ」
② 願わしいことにかかわったり、その恩恵を受けたりする。ありつく。
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「玄奘幸に文明の化に遭ひ、早に息心の侶に預(アツカレ)り」
源氏(1001‐14頃)若菜下「賤しく貧しきものも、高き世に改まり、宝にあづかり」
目上の人の配慮や、手紙、言葉などを受ける。
※申楽談儀(1430)田舎の風体「子細なき御意に預候事」
※滑稽本・七偏人(1857‐63)四「然(しから)ば御高覧に預りやせうか」
④ 目上の人が配慮して、あることをして下さる。
平家(13C前)四「のって事にあふべき馬の候つるを、親しいやつめに盗まれて候。御馬一疋くだしあづかるべうや候らん」
[2] 〘他ラ五(四)〙
① 人の身柄や、金品物事などを引き受けて守る。物事を任されて保管、管理する。
※土左(935頃)承平五年二月一六日「中垣こそあれ、ひとつ家のやうなれば、望みてあづかれるなり」
※制度通(1724)二「兼て勧農の事を管(アヅカ)る」
破戒(1906)〈島崎藤村〉一「自分等の預って居る生徒の」
② もめごと、あらそいごとなどで決着のつきにくいとき、両者の間に入ってその処置を任せてもらう。とりさばきを一任してもらう。相撲などで勝負のつかない時、引き分けにする。
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)二「コリャお前のが至極御尤じゃが、今言ふと悪い。〈略〉殊に客衆も来てじゃ。マア何で有ふと、今日はわしが預ります」
③ 物事を中途でやめたり、発表しないで保留しておく。特に、芝居、演劇等で、都合上その一部の上演を中止する。
※滑稽本・狂言田舎操(1811)下「おめへがたには解せねへ。此講釈はしばらく預(アヅカリ)やせう」
酒席で、返盃しないで盃を手元にとどめておく。また、相手に重ねて盃をすすめないでおく。
※洒落本・山下珍作(1782)武左「『さやうならおあづかり申やす』とすずりぶたのふちへさかづきをふせて」
⑤ 中世(室町時代)、近世利子なしで金などを借りる。
親元日記政所賦銘引付・文明九年(1477)一〇月一七日「爪破掃部助国正方より二十貫文預り陣屋を預置候処」
⑥ 近世、他人の土地を借りて小作する。
[語誌](1)本来は(二)のような物品や物事をまかされて一時的に保管する意の他動詞であるが、漢文を訓読する場で、(一)①のような「…にあづかる」の形の自動詞が生まれたと思われる。
(2)平安時代における用例は訓点資料にかたよって見出され、仮名文では、(一)②に挙げた「源氏物語‐若菜下」に一例見られるが、この条は、光源氏が琴の道について論じている部分で、当時としては、やはり改まった言い方ではないかとされている。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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