頸椎捻挫(むち打ち損傷/過伸展過屈曲症候群)(読み)けいついねんざむちうちそんしょうかしんてんかくっきょくしょうこうぐん(英語表記)Sprain of Cervical Spine

家庭医学館 の解説

けいついねんざむちうちそんしょうかしんてんかくっきょくしょうこうぐん【頸椎捻挫(むち打ち損傷/過伸展過屈曲症候群) Sprain of Cervical Spine】

追突事故でおこりやすい
[どんな病気か]
 くびがむち(鞭)のようにしなり、それにつれて重い頭部が振られるためにおこるくびの骨(頸椎(けいつい))の関節損傷です。
 自動車の衝突事故でおこることが多いものです。
 追突の場合は、追突された自動車に乗っていた人のからだは進行方向に移動しますが、頭は元の位置にとどまろうとします。そのため、くびが「く」の字型にしなり、頭は後ろにそる格好になります(過伸展)。つぎに反動で、頭は前方に振られ、くびは「く」の字とは反対方向にしなります(過屈曲)。
 正面衝突の場合は、からだ、くび、頭の動きが追突とはまったく逆になります。
 いずれの場合も、重い頭を支えるくびがむりな形にしなり、頸椎の関節が損傷を受けるのです。
 正面衝突の場合は、あごが胸にぶつかります。また、側面からの衝突の場合は、耳の部分が肩にぶつかります。したがって、くびのしなりが小さく、追突に比べると頸椎の損傷はおこりにくいものです。
[症状]
 症状を感じるか感じないかは人それぞれで、頸椎捻挫をおこす事故にあっても、なんら苦痛となる症状を感じない人もいます。
 症状を感じる場合は、早ければ受傷直後から、遅くても数時間後から翌日ごろに症状が現われてきます。
 もっとも多いのは、項部(こうぶ)(うなじ)の痛みや熱感、頭重(ずじゅう)、肩こりですが、このほかに、くびの痛みやこわばり、くびや肩をよく動かせない、背中の痛み、腕の痛みやしびれ、頭痛、めまい、かすみ目、耳鳴(みみな)り、難聴(なんちょう)、腰痛(ようつう)などの症状を感じる人もいます。
◎種類は、捻挫型がもっとも多い
 頸椎捻挫は、その症状のちがいから、捻挫型(ねんざがた)、神経根型(しんけいこんがた)、脊髄型(せきずいがた)、バレ・リーウー型の4つのタイプに分けられています。
■捻挫型(ねんざがた)
 くびや肩が痛み、動かしにくいなどの寝ちがいや肩こりに似た症状を示すタイプで、頸椎捻挫の70~80%はこのタイプといわれています。
 X線やMRIで撮影しても頸椎に異常は発見できませんが、椎間板(ついかんばん)(頸椎と頸椎の間に挟まっていて、クッションの役割をはたしている軟骨(なんこつ))に小さなひびが入ったり、靱帯じんたい)に小さな断裂切れ目)ができたりしていると考えられています。
治療
 まず、くびの安静を保つことがたいせつです。安静のためにくびにカラーを巻くこともあります。
 ただし、起きて、頭を支えているかぎり、くびに負担がかかり、安静を保つことはできません。
 くびの負担を除くには、横向きに寝て、くびにかかる負担を枕(まくら)に逃がすのがいちばんです。
 症状が軽いときでも2~3日、強いときには10日ほど仕事を休み、横向きに寝ているようにします。
 症状がとれてきたら、徐々に仕事に復帰するようにします。
 ふつう、2週間ほどで治りますが、重症の場合は、3週間くらいかかることもあります。
■神経根型(しんけいこんがた)
 くびの痛みや上肢(じょうし)(腕)の知覚異常をおもな症状とするタイプです。
 この症状は、椎間孔(ついかんこう)から出て腕のほうにのびている神経が、上下の頸椎に挟まれるためにおこるもので、くびを曲げたり、回したり、せきやくしゃみをしたときに強く感じるのが特徴です。
 後頭部や顔面の痛み、ベールをかぶったような顔の違和感などを感じる人もいます。
●治療
 神経の圧迫症状があるときは、損傷も頸椎型よりも大きいと考えられます。
 2~3週間は、横に寝てくびの安静を保つことが必要です。ただし、洗面、食事、入浴などは自由に行なってかまいません。
 6週間以上も神経の圧迫症状がとれないときは、MRIで頸椎を撮影し、頸椎にどんな変化がおこっているか検査します。もし、椎間板の脱出や不安定頸椎(ふあんていけいつい)が見つかれば手術をします。
 症状にみあう変化が頸椎に見つからないときは、抗炎症薬や鎮痛薬の内服、頸椎の牽引(けんいん)やマッサージなどの理学療法、くびの神経節に麻酔薬を注入するペイン・クリニック(痛み止めの治療)などが行なわれます。
■脊髄型(せきずいがた)
 下肢(かし)(脚(あし))のしびれ感や知覚異常など、くびよりも下肢の症状が目立つタイプで、歩きにくくなったり、便や尿が出にくくなったりすることもあります。これは、脊髄が損傷されたための症状です。
 治療は、神経根型に準じます。
■バレ・リーウー型(後部頸交感神経症候群(こうぶけいこうかんしんけいしょうこうぐん))
 後頭部やうなじの痛みとともに、めまい、耳鳴り、疲れ目、顔・腕・のどの知覚異常、声がれ、飲み込みにくい、胸が締めつけられるような感じなどの症状をともなうタイプです。
 これらの症状は、交感神経のはたらきが異常になったためのものです。
 頸椎捻挫を負う事故にあった後、適切な安静が保たれないとおこることが多いといわれています。
 治療は、神経根型に準じます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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