頼・恃・憑(読み)たのむ

精選版 日本国語大辞典 「頼・恃・憑」の意味・読み・例文・類語

たの・む【頼・恃・憑】

[1] 〘他マ五(四)〙
① たよりにする。あてにする。また、信頼する。信用する。
万葉(8C後)一四・三三五九「駿河の海磯辺(おしへ)に生ふる浜つづら汝(いまし)を多能美(タノミ)母に違(たが)ひぬ」
※竹取(9C末‐10C初)「船に乗りては、楫取(かぢとり)の申す事をこそ、高き山とたのめ」
② 信仰する。帰依(きえ)する。
源氏(1001‐14頃)明石「住吉の神をたのみはじめたてまつりて」
③ たよるものとして身をゆだねる。主人としてたよる。
更級日記(1059頃)「たのむ人の喜びのほどを心もとなく待ち歎かるるに」
④ 他にゆだねる。依頼する。委託する。
※堤中納言(11C中‐13C頃)逢坂越えぬ権中納言「かかる事の侍るを、こなたに寄らせ給へとたのみ聞ゆる」
⑤ 特に懇願する。願う。
※歌舞伎・助六廓夜桜(1779)「白玉さん、頼みやんすにえ」
⑥ よその家を訪問した時、案内を請(こ)うことば。「頼みましょう」が一般に用いられたが、武士などは、「たのもう」の形で用いることが多く、感動詞的な用法
※虎寛本狂言・餠酒(室町末‐近世初)「物申。頼ませう。爰許(ここもと)では無いさうな。もそっとおくへ持て参う」
※浮世草子・傾城禁短気(1711)四「『たのみませふ』と表に子細らしき声(こは)つき」
[2] 〘他マ下二〙 頼みに思わせる。あてにさせる。
※万葉(8C後)一四・三四二九「遠江(とほつあふみ)引佐(いなさ)細江澪標(みをつくし)(あれ)を多能米(タノメ)て浅ましものを」
[語誌]((一)について) (1)上代・中古においては、「人ヲ頼む」の形をとって、「信頼し、我が身を託す・期待する」といった意味で用いられることが主であり、「依頼する」の意で用いられた可能性のある用例は、極めてまれである。
(2)中世になると、ヲ格にくる名詞が、「人」から「事柄」へと徐々に交替していき、「依頼する」という意が一般的になってきたと考えられる。
(3)中世には、「人ヲ頼む」という用法も残しており、「あなたを信頼します」ということで、上向きの丁寧な依頼を行なうために用いられた。その後、江戸中期以降、「頼りにする」の意が失われていくにつれ、「丁寧な依頼」としての用法は、「お頼み申します」のような定型化した挨拶表現にのみ残り、代わって、「願う」が用いられるようになっていった。((二)について) (一)の使役表現として派生したもので、男が女に約束する例が多い。

たのみ【頼・恃・憑】

〘名〙 (動詞「たのむ(頼)」の連用形の名詞化)
① たのむこと、また、そのもの。
(イ) 力になるものとしてたよりに思うこと。また、そのもの。たより。期待。
書紀(720)舒明即位前・歌謡畝傍(うねび)山 木立薄けど 多能彌(タノミ)かも 毛津(けつ)若子(わくご)の 籠らせりけむ」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「かたじけなき御心ばへのたぐひなきをたのみにて、まじらひ給ふ」
(ロ) たよりに思ってはたらきかける事柄。依頼。願い。
五重塔(1891‐92)〈幸田露伴〉二「悪い請求(タノミ)をさへすらりと聴て」
② 物を買うときの手付金。〔日葡辞書(1603‐04)〕
③ 結納(ゆいのう)。言入(いいいれ)
※言経卿記‐天正一六年(1588)閏五月一四日「冷泉より住吉社務いもとへたのみとて一束〈引合〉・板物〈紅梅、白生衣〉等被遣了」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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