駅馬車(読み)えきばしゃ(英語表記)Stagecoach

精選版 日本国語大辞典 「駅馬車」の意味・読み・例文・類語

えき‐ばしゃ【駅馬車】

〘名〙 各宿駅間を定期的に旅客、荷物郵便物などを輸送した、四頭ないし六頭だての乗合馬車西ヨーロッパアメリカで鉄道以前の重要な交通機関であった。
※亜剌比亜人エルアフイ(改作)(1957)〈犬養健〉四「先生夫妻を乗せた駅馬車が、その頃はじめて架設しかけてゐた鉄道線路に添ってコンスタンティーヌの町へ走り出しました」

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デジタル大辞泉 「駅馬車」の意味・読み・例文・類語

えきばしゃ【駅馬車】[映画]

Stagecoach米国映画。1939年作。監督フォード。駅馬車に乗り合わせた人々の人間模様を描く西部劇。出演はジョン=ウェインほか。第12回米国アカデミー賞で2部門を受賞した。

えき‐ばしゃ【駅馬車】

17~19世紀ごろ、欧米で、各主要都市間を定期的に運行して、旅客や貨物・郵便物を輸送した馬車。鉄道の発達で衰退。
[補説]作品名別項。→駅馬車

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改訂新版 世界大百科事典 「駅馬車」の意味・わかりやすい解説

駅馬車 (えきばしゃ)
Stagecoach

アメリカ映画。1939年製作。映画史上もっとも有名な西部劇であり,ジョンフォード監督の代表作の1本。西部劇が〈B級映画〉のみで完全に衰退しきっていた1930年代の末に,その斬新なスタイルとテーマ,そして空前の激しいアクションで大ヒットし,西部劇の新しい時代を開いて,その後《大平原》《無法者の群》《砂塵》等々と続くハリウッドの〈大作西部劇の新サイクル〉の嚆矢(こうし)となった。フォードとしても《三悪人》(1926)以来13年ぶりの西部劇である。A.ヘイコックスの短編小説《ローズバーグ行きの駅馬車》(1937)を原作に,またその小説が下敷きにしていると思われるモーパッサンの《脂肪の塊》も加味して,ダドリー・ニコルズが脚本を書いた。1台の駅馬車に乗り合わせた9人の男女のキャラクターを鮮やかに浮彫にしつつ,蜂起したアパッチ族が待つ土地を通り抜けていく開拓時代の危険な旅を,あるときは伝説を見はるかすように,またあるときは強烈な臨場感をもって描いた。〈作家の個人的スタイル〉をもった最初の西部劇であるとたたえられ,肉親の復讐を果たすために脱獄して駅馬車に乗り込むリンゴー・キッド(ジョン・ウェイン)をヒーローにすえたことによって,それまでの単純な原型的ヒーローが社会を救う〈古典的プロット〉の西部劇とは構造の異なる〈復讐テーマ〉の西部劇の最初の1本となったと分析される。ジョン・ウェインは,西部劇を象徴するスーパースターへの道を歩むことになる。また奇岩のそびえ立つロケ地,アリゾナ州モニュメント・バレーは〈西部〉を象徴する景観になった。クライマックスインディアンと駅馬車の〈追っかけ〉は,スピード感あふれる移動撮影の妙技,それまでの映画の〈文法〉を破ったフォードの大胆なモンタージュ,名スタントマン,ヤキマ・カヌートの荒わざなどが相まって比類ない興奮を盛り上げ,アクション映画史上不朽の名場面となり,しばしば他の映画に引用されている。なお,オーソン・ウェルズが《市民ケーン》を撮る前に,1ヵ月間毎晩《駅馬車》を見て映画の技法を学んだというエピソードがある。
執筆者:

駅馬車 (えきばしゃ)
stagecoach

一定区間を定期的に走る公共用の乗合馬車。駅馬車の出現のためには,道路の改善と道路網の発達,馬車の車体の改良,旅行客の増加といった条件が必要であったが,すでに17世紀にはロンドンやパリで駅馬車が運行されていた。18世紀のイギリスでは道路建設が進み,国内に道路網がはりめぐらされ,ロンドンから地方へ向け週なん百便もの駅馬車が出発した。アメリカでも,18世紀末には東部大西洋岸地方で駅馬車が運行されていたが,19世紀に入ってからいっそうの発展をとげた。とりわけ,ニューハンプシャー州コンコードのアボット・ダウニング社が製造したコンコード馬車は,堅牢さと乗りごこちの良さとで有名であり,駅馬車の発展と切り離すことができない。赤,青,黄,緑,黒などのペンキで塗装され,9名の乗客と郵便物をのせ,東部と西部をつなぐ駅馬車は,フロンティアにおける〈文明,知性,政府,保護の象徴〉(ホレース・グリーリー)であった。東部では19世紀中ごろまでに鉄道に取って代わられたが,ミシシッピ川以西にあっては駅馬車が唯一の交通手段であった。最も有名なのはバターフィールド社の駅馬車で,セント・ルイスとカリフォルニアを22日間の旅程,200ドルの運賃で結んだ。1869年,大陸横断鉄道の完成で駅馬車の時代は終わった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「駅馬車」の意味・わかりやすい解説

駅馬車
えきばしゃ
Stagecoach

アメリカ映画。ユナイト 1939年作品。監督ジョン・フォード。脚本ダドリー・ニコルズ。原作アーネスト・ヘイコックス。 19世紀末ニューメキシコの荒野を走る駅馬車に乗合せた人間群像を描きながら,大づめのインディアン襲来へと快適なテンポで展開し,アクション映画の醍醐味を満喫させた。親の仇を討つ脱獄囚リンゴ・キッドにはそれまで無名の俳優であったジョン・ウェインが扮し,以後フォード映画に数多く出演することになった。共演者は T.ホルト,T.ミッチェル,C.トレバー,G.バンクロフトほか。

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デジタル大辞泉プラス 「駅馬車」の解説

駅馬車〔映画〕

①1939年製作のアメリカ映画。原題《Stagecoach》。西部劇の古典的名作。監督:ジョン・フォード、出演:ジョン・ウェイン、トーマス・ミッチェル、クレア・トレバーほか。第12回米国アカデミー賞作品賞ノミネート。同助演男優賞(トーマス・ミッチェル)、作曲・編曲賞受賞。
②1986年製作のアメリカ映画。原題《Stagecoach》。①のリメイク。劇場未公開。監督:テッド・ポスト、出演:ウィリー・ネルソン、クリス・クリストファーソン、ジョニー・キャッシュほか。

駅馬車〔唱歌〕

日本の唱歌の題名。アメリカ民謡《Oh Bury Me Not On The Lone Prairie》に基づく。作詞:小林幹治。

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世界大百科事典(旧版)内の駅馬車の言及

【駅】より

…現存最古の駅舎は旧長浜駅(現在鉄道記念物長浜駅舎)(1883,シェルビントンT.R.Shervintonほか鉄道寮技師設計)である。【鈴木 博之】
[多様な場としての駅]
 ヨーロッパやアメリカの駅も,本来は〈うまや〉,すなわち駅馬車が発着したり,馬を替える場所であった。19世紀までの都会には,各方面に向かう長距離駅馬車発着所が分散してあり,多くの場合それは宿屋の中庭であった。…

【王政復古】より

…1834年に1548駅と1万9850頭の駅馬があったという。馬車の種類は多様であったが,駅馬車が優先権をもつ急行で,パリからは午前6時に11の方面に向けて駅馬車が発車した。車体には改良が加えられ,1830年には1kmを5分45秒で走行したという。…

【馬車】より

…19世紀には,走行キロ数に応じて料金を示すタクシメートルが考案され,現在の自動車のタクシーに引き継がれた。 1517年にはパリとオルレアン間にしかなかった駅馬車も,1610年にはシャロン・シュル・マルヌ,ビトリ・シュル・セーヌ,シャトー・ティエリーなどの五つの町とパリとの間に定期的に走り,17世紀末にはフランス国内の主要都市とパリは駅馬車で結ばれていた。1708年にはイギリスでもロンドン~バーミンガム間,45年にはロンドン~マンチェスター間に定期便が往復し,18世紀中にヨーロッパの主要都市間に駅馬車が走るようになった。…

【ウェイン】より

…1930年,フォードの推薦でR.ウォルシュ監督の西部劇《ビッグ・トレイル》の主役に抜擢(ばつてき)されるが(ジョン・ウェインの名まえはそのときにウォルシュからつけてもらった),その後31‐38年に58本に及ぶ〈早撮り西部劇(クイッキー・ウェスタン)〉と呼ばれるB級映画に主演。39年,フォード監督の名作西部劇《駅馬車》で一躍スターの座に上った。《コレヒドール戦記》(1945),《硫黄島の砂》(1949)などで〈戦場の英雄〉を演じて人気を得,また,H.ホークス監督の西部劇《赤い河》(1948)で若き日のカウボーイから老け役まで演じて演技力と風格のある第一級のスターとして認められ,以後,《黄色いリボン》(1949),《静かなる男》(1952),《捜索者》(1956)などの一連のフォード作品では主として〈家庭〉にあこがれながらもそこからはじき出される主人公を,《リオ・ブラボー》(1959),《ハタリ!》(1962)などのホークス作品では従来の完ぺきなヒーローとは似て非なる人間的なやさしさをそなえたヒーローとしての〈ジョン・ウェイン神話〉を形象することになる。…

【リオ・ブラボー】より

…《赤い河》(1948)に次ぐハワード・ホークス監督,ジョン・ウェイン主演の西部劇で,このあと同工異曲のプロットと人物配置をもつ同じコンビの西部劇《エル・ドラド》(1966),《リオ・ロボ》(1970)と合わせて〈リオ・ブラボー三部作Rio Bravo Trilogy〉とよばれる。 ウィル・ライト著《六連発銃と社会》(1975)によれば,開拓民の共同体を〈悪〉から守るヒーローの活躍を描いた〈古典的なプロット〉の西部劇に対して,まずジョン・フォード監督の《駅馬車》(1939)が個人の執念に生きるヒーローを描く〈復讐のテーマ〉の西部劇のはじまりとなり,次いで《リオ・ブラボー》がプロのガンファイターたちのプロとしての誇りと責任や腕の競い合いを興味の中心とする〈プロフェッショナルのテーマ〉を開いた西部劇として,トーキー以後の西部劇の流れを変えたという。事実,《リオ・ブラボー》以降の1960年代,70年代の西部劇は,《荒野の七人》(1960),《プロフェッショナル》(1966),《ワイルドバンチ》(1969),《明日に向って撃て!》(1970)等々のように,〈プロフェッショナル〉の集団を描いたものが主流を占めるようになった。…

※「駅馬車」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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