日本大百科全書(ニッポニカ) 「鮫(金子光晴の詩集)」の意味・わかりやすい解説
鮫(金子光晴の詩集)
さめ
金子光晴(みつはる)の詩集。1937年(昭和12)8月、人民社刊。「おつとせい」「泡」「塀(へい)」「どぶ」「燈台(とうだい)」「紋(もん)」「鮫」の7編を収録しており、長編詩が多い。「おつとせい」は「おいら。/おつとせいのきらいなおつとせい。/だが、やつぱりおつとせいはおつとせいで/ただ/『むかうむきになつてる/おつとせい』」と、俗衆のなかにいて反俗の姿勢をとる自己の位置を明確に打ち出している。「燈台」は天皇制権力機構を象徴的に照射して、強靭(きょうじん)な批判的精神を示し、「鮫」は世界の帝国主義国のエゴイズムを無国籍者の視点であばいている。批判的リアリズムによって構築された世界は、現代の一大モニュメントといえる。
[首藤基澄]
『『鮫』(1970・名著刊行会)』