杜氏(読み)とうじ

精選版 日本国語大辞典 「杜氏」の意味・読み・例文・類語

とうじ【杜氏】

〘名〙 酒造家で酒を醸造する職人の長(おさ)。また、酒つくりの職人。さかとうじ。とじ。
人倫訓蒙図彙(1690)四「酒屋〈略〉酒造る男を杜氏(トウジ)漉弱(ろくしゃく)といふなり」
[補注]語源については諸説あるが、歴史的かなづかいは「さかとうじ(酒杜氏)」の項に引用の「史記抄」など室町時代の文献に「さかとうし」の表記がみえ、当時まだ「とう・たう」「じ・ぢ」の区別はあったと考えられるところから「とうじ」とする説に従う。

とじ【杜氏】

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「杜氏」の意味・読み・例文・類語

とじ【×杜氏】

とうじ(杜氏)

とうじ【×杜氏】

酒づくりの職人の長。また、その職人。さかとうじ。とじ。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「杜氏」の意味・わかりやすい解説

杜氏 (とうじ)

農漁村出身の酒造季節労務者の長として各酒蔵で清酒を醸造する最高責任者の称。また,酒造労務者の総称ともされる。杜氏の名の由来については,昔中国で初めて酒をつくった杜康(とこう)の名をとったとする説,奈良・平安時代造酒司(さけのつかさ)が酒をつくるのに用いた壺を〈大刀自(おおとじ)〉〈小刀自(ことじ)〉と呼び,後の人が酒をつくる人をも刀自と呼んだとする説,寺社で酒つくりが行われる以前,酒つくりは家庭を取りしきる主婦(刀自)のしごとであり,刀自が転じたものであるとの説などがある。《日本書紀》の崇神紀に〈高橋邑(たかはしのむら)(現,天理市)の人,活日(いくひ)を以て大神の掌酒(さかびと)とす〉とあり,これが記録に残るはじめての杜氏で,奈良県桜井市の大神(おおみわ)神社境内にある活日神社は現在でも杜氏の信仰を集めている。《令義解(りようのぎげ)》によれば大和,河内,摂津の3国出身の60人の酒部(さかべ)が造酒司で酒造に従事し,彼らは調(ちよう),雑徭(ぞうよう)を免ぜられている。現在,青森(津軽杜氏),秋田(山内),岩手(南部),新潟(越後),静岡(志太),長野(諏訪),石川(能登),福井(糠(ぬか)),京都(丹後),兵庫(丹波,但馬,城崎),岡山(備中),広島(安芸津),山口(熊毛,大津),島根(秋鹿(あいか),石見),愛媛(越智,西宇和),高知(香美,幡多),福岡(三潴(みづま),柳川)の1府16県に24の杜氏集団があり,1979年現在,全国で1万4756名の酒造季節労務者(うち杜氏2444名)が清酒醸造に従事している。
執筆者:

広義には酒造労務者の総称とされ,蔵人(くらびと),蔵男(くらおとこ)ともいった。狭義にはその酒造労務者のなかでの責任者をとくに杜氏と呼んでいる。一般に,江戸時代の酒造労務者は農閑出稼ぎで,山間積雪地の農民が,酒造仕込期間の11月ころから翌年2月ころまでの約100日間だけ出稼ぎしてきたので,百日稼ぎとも呼ばれた。また酒造マニュファクチュアとしての千石造りの酒造蔵では,酒造労務者は13人が単位で,杜氏以下,頭(かしら),衛門,代司(だいし),酛(もと)廻り,道具廻し,釜屋(かまや),上人(じようびと),中人(ちゆうびと),下人(したびと),飯焚(ままたき)に分かれ,酒造仕込工程,こうじ仕込工程,蒸米工程の各作業工程に分業化されていた。この労働編成のなかで,杜氏は親司とも呼ばれ,酒屋より酒仕込みの全責任を負わされていたので,杜氏の賃金だけは請負賃金の形態をとっており,杜氏は同郷出身地の知人,親戚の者を引率して蔵入りした。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「杜氏」の意味・わかりやすい解説

杜氏【とうじ】

酒造職人。酒造はもと女性の任務で,一家の主婦たる刀自(とうじ/とじ)がかもしたのでこの名が残った。杜氏の組織は長たる杜氏の下に,麹(こうじ)師・頭(かしら)・【もと】師の三役があり,その下に各係がある。農閑期の長い地方の農村出身者が多く,丹波(たんば)・但馬(たじま)・越後・南部・能登・備中(びっちゅう)・出雲杜氏等が名高い。
→関連項目石鳥谷[町]内浦[町]清酒

杜氏【とじ】

杜氏(とうじ)

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「杜氏」の意味・わかりやすい解説

杜氏
とじ

トウジともいう。酒造りに従事する職人もしくはその総大将をいう。古くは一家の主婦である刀自 (とじ) の仕事であった酒造りが,近世に入ってから各地で営業用の酒造りが行われるようになると,その仕事は男たちの手で組織化された。おもに農山村の冬場奉公人にその労働力を頼り,その責任者である杜氏の裁量権による同郷人的集団となった。各地に丹波杜氏,但馬杜氏,越後杜氏,南部杜氏,出雲杜氏などが知られる。特別な技術を修得する必要があり,のちには一つの職業として成立した。

杜氏
とうじ

杜氏」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

とっさの日本語便利帳 「杜氏」の解説

杜氏

酒造りの現場の総括責任者。農閑期に同郷者と技術者チームを結成して酒蔵へ入る。故郷によって造りの流儀を持ち、越後杜氏、南部杜氏、能登杜氏など全国に杜氏の里がある。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内の杜氏の言及

【酒】より

…とりわけ杜康の名が広く知られ,酒の神として祭られたこともあれば,ときには酒の代名詞ともなった。日本の酒造職人の総大将〈とうじ〉に〈杜氏〉の文字があてられるのも,杜康にちなんでのことであるという。〈酒は百薬の長〉とは《漢書》食貨志にみえることばであるが,酒はなによりも憂いを忘れさせてくれる妙薬として〈忘憂〉の異名が存在した。…

【出稼ぎ】より

… 出稼ぎは古くからみられその就労先や形態は多様であるが,第2次大戦前の日本では二つの典型があった。一つは建設業,遠洋漁業,山林労働,果樹農業,酒造業(杜氏(とうじ))などの主として季節的な出稼ぎである。東北・日本海側の単作地帯で多くみられ,農閑期の過剰労働力解消のための副業的出稼ぎである。…

※「杜氏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android