出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
法律用語。たとえば,(1)〈A大学に入学すれば〉時計を与える,(2)〈成績が下がれば〉奨学金の給付を打ち切る,というように,法律行為の効力の発生・消滅を,将来の成否不確定な事実にかからせる,という内容の意思表示を条件という。条件は,〈期限〉および贈与の際につけられる〈負担〉とともに,付款とよばれる。付款は,法律行為と一体をなし,その内容に一定の制限を加えるものである。法律行為から一応独立している利息約款・免責約款(約款)等の付属的約款は,付款ではない。
(1)の例のように,法律行為の効力の発生に関する条件を停止条件といい,(2)の例のように,効力の消滅に関するものを解除条件という。条件は,将来の事実に関するものである。過去の事実(たとえば〈昨日インドで地震が起こっていれば〉)に関するものは,たとえ当事者が知らなくても客観的に既定の事実であるから,本来の条件ではなく,既成条件とよばれる。条件は,成否不確定な事実に関するものである。これに対し,将来到来することが確実な事実に関するものは,期限である。しかし,不確定期限(到来する時点の確定していない期限)と条件との区別は,必ずしも容易ではない。〈課長になれば〉〈上京すれば〉借金を返すという付款(出世払債務)は,〈課長にならなければ〉〈上京しなければ〉返さなくてもよいという趣旨である場合は条件である。しかし,退職,死亡,他への転勤によって出世・上京の見込みがなくなったときには返済するという趣旨であれば,不確定期限である。両者のいずれに解するかは,結局,意思表示の解釈の問題であるが,判例は,不確定期限と解することが多い。
法律行為に条件をつけることは,一般的に有効である。しかし,婚姻,養子縁組,相続の承認放棄のような家族法上の行為や,相手方の地位を不安定にする場合には,条件をつけることは許されない。また,不法な内容の条件をつけると,法律行為全体が無効となる。不法行為をしないことを条件とする場合も同様である(民法132条)。しかし,妾への手切金は有効と解されている。気が向けば支払う(気が向かなければ支払わなくてもよい)というような〈純粋随意停止条件〉付法律行為は,無効である(134条)。ただし,債権者の随意を条件としたり,〈博多に行けば〉人形を買ってきてあげる,というような,債務者の行為に関する随意条件は有効である。
将来,条件成就によって受ける利益,すなわち,条件付権利は,一種の〈期待権〉として法律上保護されなければならない。条件付権利は,処分・相続の対象となるだけでなく,その侵害は,不法行為となる。停止条件が成就すれば法律行為の効力は発生し,解除条件が成就すれば効力は消滅する。積極条件(例,〈将来新幹線の駅ができれば〉)の場合には,その事実が発生すれば条件は成就し,その不発生が確定すれば条件は不成就となる。消極条件(例,〈親元を離れないで農業に従事すれば〉)の場合には,その逆である。しかし,条件が成就したかどうかは,結局のところ,条件に関する意思表示の解釈の問題である。たとえば,陸軍省が用途を廃止すれば返還するという解除条件付きで,傷病兵の療養所設置のために土地と温泉権を寄付した場合に,終戦後陸軍省が廃止され,厚生省に移管されて国立病院として使用されるようになったときには,上記条件は成就したと解すべきだろうか。陸軍省=国=厚生省と解すれば,条件は未成就であるが,〈陸軍省〉と厚生省は別物だと解すれば,条件は成就したことになる。この場合に最高裁判所は,後者の見解をとっている(1960年の判決)。
条件成就によって不利益をうける当事者が,故意に条件成就を妨害したときには,妨害された相手方は,条件が成就したものと〈看做ス〉ことができる(130条)。ここでいう〈故意〉は,害意とか,不利益を免れようとする意思を必要としない。山林売却の周旋を依頼し,成功したときには借金を免除すると約束しておきながら,自身で山林を売却した場合には,相手方は,条件成就とみなして借金の返済を免れる。妨害と不成就の間には,因果関係が存在しなければならない。官庁の許可を得ることを条件として取引する場合に,(許可申請をしても許可されるとかぎらなくても)許可申請しないことは,条件成就の妨害となる。結果的に条件成就の妨害となっても,そのことが信義誠実の原則に反しなければ〈妨害〉とならない。養子をとれば家を買うと契約した者が,養子をとらなくても妨害したことにならない。これに反して,不正な手段を用いて条件を成就した場合には,民法に規定はないが,相手方は条件が成就しなかったとみなすことができる,と解すべきであろう。〈不能〉の停止条件(例,〈太陽がなくなればヒーターを買う〉)は無効,〈不能〉の解除条件(例,〈太陽がなくなればクーラーを買い戻す〉)は無条件とされる(133条)。
執筆者:岡本 坦
論理学の用語。一般に〈……であれば(ならば)……である〉という表現に対応する事態で,〈……であれば(ならば)……〉の前の表現に当たるものが条件,仮定であり,その後の表現に相当するものがこの条件下に成立することがらであるが,〈ならば〉で結ばれる表現全体を条件(命題または文)ということもある。条件なるものの性格は必ずしも明確でないが,大きくは論理的なそれと非論理的なそれとに類別できよう。論理的条件の中心は現代論理の中核にある標準論理の条件で,いま任意の2命題をp,qとすると,p→qあるいはp⊃q等で表現され,その全体を条件(式),→(または⊃)を条件詞(または条件記号),pをqの前件,qをpの後件という。また,pをqの十分条件,qをpの必要条件というが,必要条件という命名の理由は,p,qのそれぞれを否定にして順をかえた〈qでないならばpでない〉は〈pならばq〉のいわゆる〈対偶〉で,両者は互いに等しく,したがって,〈pならばq〉とは〈qが成り立たなければpも成り立たない〉に等しい点にある。標準論理の条件は別名〈実質含意〉ともよばれ,標準論理の他の命題結合詞と同様に,p,qのそれぞれの真偽の値によって定義され,pが真,qが偽のときのみ全体が偽で,他の場合(pもqも真,pが偽でqが真か偽)にはすべて真とされる。以上の実質含意に対して,真偽2値以上の値を認める多値論理や,命題に必然性,可能性等の〈様相〉の添加を行う様相論理の条件が考えられるが,とくに後者の場合,〈pならば必然的にqである〉という条件を〈厳密(または強)含意〉という。以上のほかに,その性格が必ずしも明らかでない,反事実的条件も重要な日常の条件の一種である。さらに,因果関係も広義の条件に含まれ,扱い方では論理的条件に転化されるが,因果的条件の本質は論理では尽くされない,それ独自の非還元的性格を持つという見方が有力である。
→必要十分条件
執筆者:杖下 隆英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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