(読み)だん

精選版 日本国語大辞典 「段」の意味・読み・例文・類語

だん【段】

[1] 〘名〙
[一]
① 高さの違う台状のもののつながり。また、その一つ一つ。きざはし。きだ。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)初「ハイと階子の段(ダン)をおりながら」
格付けや品格の上下。しな。品等。
※黄表紙・見徳一炊夢(1781)上「なにか上るりも、口跡もきこへぬ。役者もだんがしれぬ」
柔道・剣道・囲碁・将棋などで、技量に応じて与えられる等級。
④ 上下に重ねたもののいくつかをさしていう。また、表などの形で縦横に配されたものの、横の並び。「五十音のえの段」
※咄本・初登(1780)十露盤「覚へのわるひ子供に、二の段(ダン)をおしへ、幾度させても覚へず」
※千鳥(1906)〈鈴木三重吉〉「この押入には、下の方はあたしのものが少しばかり這入って居りますから、あなたは当分上の段だけで我慢して下さいましな」
⑤ 文章や話の一くぎり。場面。
※百座法談(1110)三月二六日「又おくの段にのたまへるは、若但書写是人命終当生忉利天上、とのたまへり」
⑥ 邦楽の楽曲の構成単位。能楽では仕舞、一調、独吟などに用いる一曲中の独立性の強い謡い所(「玉之段」「笠之段」など)、また、囃子事の構成単位をいう。箏曲・地歌では器楽部分の構成単位(「六段」「八段」など)、また、手事の構成単位についていう。浄瑠璃では曲を構成する最も大きな単位、また、俗に「鮨屋の段」のように一段の一部分を独立させて呼ぶのにいう。
⑦ 横縞に染めた織物。
[二] 形式名詞のように用いる。
① 上に述べることを統合して、体言格とする語。くだり。こと。手紙文などに用いられる。
※東寺百合文書‐は・正応二年(1289)八月日・若狭太良荘雑掌尼浄妙重申状案「云御下知違背段、為被行罪科、重言上如件」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉九「貴家益々御隆盛の段奉賀上候」
② 予想される状況とか一つの局面とかをとりたてていう語。そういう場合。
※栄花(1028‐92頃)峰の月「迦葉仏、当入涅槃のだむなり。智者当得結縁せよ」
多情仏心(1922‐23)〈里見弴〉半処女「いざ帰ると云ふだんになって」
③ (否定や疑問の語を伴って) ある場面・情況をとりたてて、それどころではないという気持を表わす語。そういう程度。
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)「ようもようも徳兵衛が命は続きの狂言に、したらば哀れにあらふぞと、溜息ほっとつぐ斗、ハテ軽口のだんかいの」
[2] 〘接尾〙
① 階段などの一つ一つの平面を数えるのに用いる。
※台記‐久安七年(1151)正月一〇日「五六段はかりおくれて非疾非遅、盖高座の如なる、大輿の来るなり」 〔旧唐書‐陳叔達伝〕
② きざみ、等級などを数える語。
※虎明本狂言・音曲聟(室町末‐近世初)「先大昔、中むかし、当世やうと三段有が、どれをならひたひぞ」
③ 柔道、剣道、囲碁、将棋など、免許状を発行するようなものについて、程度・段階を表わすのに用いる。数が多くなるにしたがい上位になる。
④ 文章の区切りの数を数えるのに用いる。

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デジタル大辞泉 「段」の意味・読み・例文・類語

だん【段】

[名]
上方へ高くのぼるように重なっている台状のもの。また、その一つ一つ。段々。「石のを上る」「を踏み外す」
上下に区切ったものや順に重なったものの一つ一つ。「寝台車の上の
段組みで分けられた、文字をレイアウトする列の一つ一つ。日本の多くの新聞では、上下15段で1面が構成される。

㋐長く続く文章のひとくぎり。段落。「文を三つのに分ける」
浄瑠璃など、語り物のひとくぎり。「『義経千本桜』の鮨屋の
掛け算九九くく被乗数を同じくするもの。「二のを唱える」
五十音図で、ぎょうに対し、「あ」「い」「う」などの列。「た行う
武道や囲碁・将棋などで、技量によって与えられる等級。ふつう、初段から10段まである。「を取る」
ある事柄をそれとさす語。「無礼のお許しください」
物事の一局面。そういう場合。「いよいよというになって逃げだす」
否定や疑問の語を伴って、それどころではないという気持ちを表す語。そういう程度。それほどの程度。「痛かったのなんのというじゃない」
[接尾]
助数詞。階段状、または層をなしたものを数える。「階段を2ずつ駆け上がる」「3組みのページ
武道や囲碁・将棋などの技量の程度を表す。「柔道3の腕前」
[類語](4㋐)段落章段パラグラフ/(7場合ところ機会

だん【段】[漢字項目]

[音]ダン(呉) タン(漢) [訓]きだ
学習漢字]6年
〈ダン〉
登降できるようにした台状のもののつながり。台状のもの。「段丘段段石段いしだん階段上段雛段ひなだん
物事の区切り。「段階段落章段前段特段分段別段
区切られた等級。「段位高段初段昇段値段有段
手だて。やりかた。「算段手段
〈タン〉土地の面積の単位。約一〇アール。たん。「段収段別

きだ【段/常】

《「きた」とも》
[名]
布などの長さを計る単位。たん
庸布ちからぬの四百よほ―」〈天武紀〉
田畑の面積の単位。たん
「およそ田は、長さ三十歩、広さ十二歩を―とせよ」〈孝徳紀〉
[接尾]助数詞。物の断片、切れ目を数えるのに用いる。
十拳剣とつかのつるぎを乞ひわたして、三―に打ち折りて」〈・上〉

たん【段/壇/檀】[漢字項目]

〈段〉⇒だん
〈壇〉⇒だん
〈檀〉⇒だん

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改訂新版 世界大百科事典 「段」の意味・わかりやすい解説

段 (だん)

日本の芸能の用語。区切りを表す一般語彙(ごい)を応用したものであるが,種目によって厳密にはその規定する内容が異なる。

(1)雅楽では,近代では,1曲を章・節・段と細分したときの最小単位に用いる。これは文章の細目用語の応用で,楽章・楽節・楽段とも用い,そのまま洋楽のmovement,phrase,periodの訳語にも用いる。ただし楽段という訳語の用い方は場合によって一定していない。
執筆者:(2)能でも,脚本構成の単位として,〈シテ登場ノ段〉などと,区切られた部分の呼称として用いられることもあるが,古くは,《海人(あま)》の〈玉ノ段〉のように,クセやキリなどの類型に入らない特殊な構造と性格をもつ部分を,とくに取り出していう場合に用いた。その類の謡を〈段歌〉,その曲目を〈段物〉と総称することもある。また,囃子事(はやしごと)と呼ばれる器楽的部分では,段落をつける特定部分のみをいい,曲全体の冒頭部分は,カカリなどといって段とはいわないため,たとえば〈序ノ舞五段〉といえば,全体で6節からなり,途中に段落をつける部分が5ヵ所あることをいう。この場合,最初の段落から次の段落までを初段目ということもある。囃子事でも,〈一声(いつせい)〉などでは,その第1節を〈越(こし)ノ段〉,第3節を〈幕上ゲノ段〉などと呼ぶように,一般的用法に近い用い方もある。
執筆者:(3)浄瑠璃では,1曲を区切る場合の最も大きな単位をいう。古浄瑠璃では6段組織,義太夫節の時代物では5段組織を標準とするが,後代のものでは段数が増え10段以上に及ぶものも生まれたが,2~3段を一つにまとめて5段組織に換算しうる。世話物は,上中下3巻組織を標準とするが,これを3段組織ともみなしうる。各段には,《……の段》という標題もつけられ,特定の段のみを取り出して上演されることもある。さらに1段のうちを細分して,口(くち),中(なか),切(きり)などと分けるが,そのそれぞれを独立させて,《……の段》と名づけることもある。たとえば,《菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゆてならいかがみ)》の四段目の切を《寺子屋の段》などという。切の最後の部分をとくに〈段切(だんぎり)〉というが,段構成をもたない長唄や豊後系浄瑠璃などでも,1曲の終曲部分を〈段切(だんぎれ)〉ということがある。

(4)その他,地歌・箏曲,胡弓,尺八などにおいて,器楽曲ないし器楽部分の構成単位として用いる。とくに地歌・箏曲では,その古典的器楽曲は,いわゆる〈段物〉にしても〈砧(きぬた)物〉にしても,段構造をもつのが原則であり,〈手事物〉の〈手事〉部分も,その当初のものは段構造をもつものが多い。各段を初段,二段などと呼ぶが,前奏部分がある場合には,これをマクラまたは序,後奏の後歌への経過的部分がある場合には,これをチラシと呼ぶ。〈段物〉にしても〈手事物〉にしても,各段がほぼ同一の拍数の場合,これを同時に合奏させることが可能で,この演出形式を〈段合せ〉という。
段合せ →段物
執筆者:

段/反 (たん)

尺貫法における面積の単位。大宝令以後,地積を表すのに用いられ,1891年制定の度量衡法により,36平方尺(1間四方)を歩(ぶ),30歩を畝として,段は10畝,すなわち300歩と定められた。約992m2であり,10aに近い。慣用では反とも書き,日本特有の単位で,倍量単位は10段に等しい町である。なお,和服地の長さないし広さの単位として端(反,段)がある。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「段」の意味・わかりやすい解説


だん

日本音楽の用語。一曲をその構成部分に区分するとき,またはその特定部分をいうときに用いられる称。種目によって用法が異なる。 (1) 雅楽 舞楽の楽曲構成単位。章,部,段と細分した場合の最小単位。 (2) 能 (a) 囃子事の構成単位。ただし,カカリのように初段に先行する部分もあるので,段数の数え方は場合によって異なる。また,実際に段であるが数に加えない段を,「空 (そら) 段」という。 (b) 一部の能の曲で,独特の特色があって,しかもクセやキリなどの中心部分でないものを「…の段」と呼ぶことがある。『芦刈』の「笠の段」,『海人』の「玉の段」などがその例。 (3) 浄瑠璃 全曲をいくつかに区切った構成単位。古浄瑠璃は6段,義太夫節浄瑠璃の時代物は5段の組織を標準とし,後期のものではさらに段数がふえた。世話物では上中下の3巻という言い方をするが,これを3段組織ともみなしうる。各段には,それぞれ「…の段」という標題もつけられ,1段のなかを口,中,切 (奥) などに細分することもあり,しかもその細分されたものを独立させて「…の段」と名づけることもある。切の最後の部分を特に「段切り (段切れ) 」という。 (4) 地歌箏曲 純器楽曲の「段物」や,「手事物」の器楽的部分の「手事」などを,それぞれの構成単位に区切ったときの大きなまとまり。「手事」には,「…段」といわれる部分の前後に,「マクラ」「チラシ」といわれる前奏,後奏がつくこともあり,流派によっては「手事」の第2段が「チラシ」に近い性格をもつときには,これを「中チラシ」といって,後奏の「チラシ」を「本チラシ」または「後ヂラシ」ということもある。


たん

もと区画を意味した。反とも書く。 (1) 土地の面積の単位。大化改新後,町 (ちょう) 段歩の制が設けられ,町を 10段に分け,1段を 360歩とした。1歩は,和銅6 (713) 年の規定では方6尺,『大宝令』と『養老令』では方5尺であったが,実面積には相違なく,360歩を1段とする制が踏襲された。太閤検地では方6尺3寸を,江戸時代には方6尺を1歩とし,300歩を1段とした。明治の地租改正でも方6尺を1歩,300歩を1段とした。 (2) 織物を数える単位。端とも書く。成人一人前の衣料に相当する分で,普通鯨尺で長さ2丈8尺 (10.6m) ,幅約9寸 (0.34m) を1段としたが,織物の産地,種類によって異なる。 (3) 距離単位。6間 (約 11m) を1段とした。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「段」の解説


たん

反とも。面積の単位。中国では北魏以降,段が土地一区画という意味で用いられており,日本では令制で町の10分の1を示す単位として採用したらしい。養老田令では1段は360歩(ぶ)(1歩は高麗(こま)尺5尺平方)で,令制以前の地積単位である代(しろ)との関係は1段=50代。中世以降も地積単位として用いられ,太閤検地では300歩(1歩は6尺3寸平方)が1段となり,江戸時代以降も300歩(1歩は6尺平方)を示す単位として存続した。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【検地条目】より

…封建領主が検地実施に際して検地役人にあてて出した検地実施規則のことで,〈検地条目〉と銘うったものもあるが,〈掟条々〉〈定条々〉〈置目〉などさまざまある。実際に検地役人を派遣して1筆ごとに測量する検地方法は太閤検地に始まり,検地条目もそのときからと考えられる。太閤検地も当初はまだ従来の慣習を踏襲するところがあったが,数年の施行過程をへてしだいに統一規準を設ける方向にすすみ,1589年(天正17)には検地条目の体裁をもった秀吉朱印状が出された。…

【元禄検地】より

寛文・延宝検地につぐ江戸時代中期の検地。通例は5代将軍徳川綱吉の政権下(1680‐1709)で実施された江戸幕府の検地をさす。1683年(天和3)の越後高田(旧,松平光長領)に対する検地がその最も早い例であり,以下上野沼田(旧,真田領),陸奥窪田(旧,土方領),信濃高遠(旧鳥居領),出羽幕領(旧,米沢藩預地),関東幕領,佐渡幕領,備中松山(旧,水谷(みずのや)領),飛驒高山(旧,金森領),備後福山(旧,水野領),大和松山(旧,織田領)などを対象とする検地が行われた。…

【義太夫節】より

…そして18世紀半ばに《菅原伝授手習鑑》《義経千本桜》《仮名手本忠臣蔵》の三大名作が初演された。このころが人形浄瑠璃の勢いがもっともさかんで,生彩をはなった時期で,〈操り段々流行して歌舞伎は無きが如し〉(《浄瑠璃譜》)とまでいわれるほどの繁栄をみた。また18世紀初めからは,歌舞伎の音楽としても用いられるようになった(丸本物)。…

※「段」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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