(読み)ウルシ(英語表記)Japanese lacquer

デジタル大辞泉 「漆」の意味・読み・例文・類語

うるし【漆/漆樹】

ウルシ科の落葉高木。山野にみられ、葉は羽状複葉で、小葉は楕円形雌雄異株で、初夏、黄色い小花が総状に咲く。果実はほぼ球形で白黄色。樹液から塗料をつくり、果実からはろうをとる。中国の原産で、古くから日本でも栽培。皮膚がかぶれることがある。ウルシ科の双子葉植物木本で、樹脂道をもち、約800種が主に熱帯地域に分布。ハゼノキヌルデマンゴーなども含まれる。 花=夏 実=秋》
ウルシの樹皮に傷をつけて採取した樹液(生漆きうるし)に、油・着色剤などを加えて製した塗料。乾燥すると硬い膜を作り、水や酸に強い。
[類語]塗料ペンキペイントラッカーエナメルワニス

しつ【漆】[漢字項目]

常用漢字] [音]シツ(漢) シチ(呉) [訓]うるし
〈シツ〉木の名。ウルシ。また、それから採った塗料。「漆器漆黒乾漆金漆膠漆こうしつ丹漆
〈うるし〉「漆絵生漆きうるし
[難読]漆喰しっくい可漆ベクうるし

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精選版 日本国語大辞典 「漆」の意味・読み・例文・類語

うるし【漆】

〘名〙
① ウルシ科の落葉高木。中央アジア原産で奈良時代以前に中国経由で日本に渡来し広く各地で栽培されるようになった。高さ七~一〇メートルに達する。葉は卵形か楕円形の小葉が七~一九枚羽状に並び、秋、紅葉する。雌雄異株で、初夏、黄緑色の小花が円錐状に集まって咲く。実は直径七ミリメートルぐらいのゆがんだ球形で一〇月頃熟し、これからろうをとる。樹皮からは漆汁をとり塗料とするほか、乾漆(かんしつ)は彫刻材、駆虫剤、せき止め薬とする。漆汁はウルシオールなどの有毒成分を含み、触れると皮膚がかぶれる。材は黄色で、水湿に強く、箱や挽物細工に用いる。漢名、漆樹。
▼うるしの花《季・夏》
▼うるしの実《季・秋》
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「児、小時漆(ウルシ)に患(かぶ)れて」
② ①の樹皮を傷つけ、流れ出る樹脂を採り、その漆汁に乾燥剤と着色剤とを加えてつくった塗料。普通乾くと光沢ある黒色となり、熱、酸などに強い。
※書紀(720)大化二年三月(北野本訓)「棺(き)は際会(ひまあひめ)に漆(ウルシぬ)れ」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「漆」の意味・わかりやすい解説


うるし
Japanese lacquer

天然樹脂の油性塗料の一つ。日本、中国、ベトナムなどに産するウルシ科の植物ウルシの表皮に切り傷をつけると、傷口から乳白色の乳濁状の樹脂を分泌する。これを生漆(きうるし)という。主成分はウルシオールで、そのほかに似た構造をもつラッコールチオコールなどや、水分と少量のゴム質を含んでいる。採取の時期や方法、産地によっていろいろな名称があるが、なかでも盛夏から彼岸にかけて採取するものを盛漆(さかりうるし)といい、これはウルシオールが多く、水分が少ない良質のもので、とれる量も多い。日本産と中国産が良品であり、ほかのものはやや劣る。しかし最近は良品のものは得にくくなっている。

[垣内 弘 2020年9月17日]

製法

生漆は、そのまま塗料にしても光沢が悪く、しかも酸化酵素ラッカーゼにより乾燥が早すぎるので、各用途に応じて加工(変性)が必要である。採取直後の生漆は、空気に触れると固化(樹脂化)する。生漆を木窯(きがま)に入れて常温でかき混ぜ、さらに38~40℃で数時間保存すると黒目漆(くろめうるし)が得られる。この工程を素黒目(すぐろめ)といい、主反応は酸化と脱水と考えられている。このほか、あまに油などの油や、種々の顔料(がんりょう)を加えて最終製品の精漆(せいうるし)が得られる。代表的なものに黄鉛(おうえん)を加えた黄漆(きうるし)があり、美しい黄色の塗料である。なお、生漆を70℃程度に加熱すると、ラッカーゼが作用しなくなり、固化しにくくなる。しかし130℃程度に熱すると、重合反応をおこして固化する。これを焼漆(やきうるし)という。

[垣内 弘 2020年9月17日]

用途

漆は日本や中国で古くから金属や木工塗装用として用いられてきた。とくに黒目漆は漆器類に現在でも珍重されている。漆の塗膜は硬く、付着性、耐水性、光沢などに優れているが、耐候性に乏しく乾燥が遅いなどの欠点がある。生漆からゴム質を除いて加工した漆は焼付け塗料としても用いられる。しかし安価な合成樹脂塗料の発達に伴い、高価で塗布技術に熟練を要する漆は、おもに美術工芸品に使用されている程度で、その使用量は減少している。

 なお、漆を手や顔につけるとウルシオールの作用でかぶれを生ずる。

[垣内 弘 2020年9月17日]

『松田権六著『うるしの話』(岩波新書)』

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百科事典マイペディア 「漆」の意味・わかりやすい解説

漆【うるし】

ウルシから得られる天然樹脂。表皮に傷をつけ浸出する乳液(生漆)を採取する。主成分はフェノール誘導体であるウルシオール(側鎖に炭素数15前後の不飽和アルキル基をもつカテコール誘導体)で,ほかに水分,ゴム質,含窒素物および酸化酵素ラッカーゼを含む。ウルシオールには皮膚にかぶれを起こさせる作用がある。塗膜の硬化はラッカーゼの作用によるもので,いったん70℃に加熱すると活性を失い硬化しなくなるが,約130℃に熱すると重合して硬化する(焼漆)。硬化塗膜は硬度が高く,すぐれたたわみ性をもち外観も良いので,古来漆器の製造に賞用。ウルシはヒマラヤ,中国南部の照葉樹林帯・暖温帯周辺を分布域とするが,漆液の硬化には一定の湿度が要求されるため条件のととのった日本で利用技法の発達がいちじるしかった。英語でJapanese lacquer。
→関連項目蒔絵

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「漆」の意味・わかりやすい解説


うるし
lacquer

ウルシ (漆)の樹皮と木質部の間から分泌される乳白色の粘りけのある液体。樹皮に傷をつけて採取する。 25~30℃,湿度 75~85%で乾固する。このためには特別な室 (むろ) によって人工的に適温湿を与えなければならない。乾固した漆は光沢が美しく,酸,アルカリに対し安定で,防湿性,防腐性があり,接着力も強い。この性質により塗装剤として工芸品に利用される。中国では戦国時代にかなり発達した漆器が発見されており,日本では縄文時代末期に接着剤として使用された例がある。顔料を混ぜて朱,黄,緑,褐色,黒などの彩漆 (いろうるし) とし,これで漆絵を描く。蒔絵は常温常湿で固化しにくい漆の性質を利用し,塗りたての漆の上に金銀粉を蒔いて文様をつくり,室に入れて乾固させたもの。このほか乾漆のように彫塑に用いることもあり,きわめて用途が広い。

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旺文社日本史事典 三訂版 「漆」の解説


うるし

塗料原料となる植物
樹皮から漆汁をとり,実から木蠟 (もくろう) をとる。すでに縄文時代晩期の出土品に漆塗の木器があり,大宝律令では園地に漆栽培の規定がある。漆器・漆絵・乾漆像など古代貴族の間で盛んに使用され,中世以降は武具・馬具にも使われた。江戸時代には四木三草 (しぼくさんそう) の一つに数えられ,漆年貢が課せられた。会津藩の栽培は有名。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「漆」の解説

漆 (ウルシ)

学名:Rhus verniciflua
植物。ウルシ科の落葉高木,薬用植物

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

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