(読み)とく

精選版 日本国語大辞典 「解」の意味・読み・例文・類語

と・く【解】

[1] 〘他カ五(四)〙
① 結んであるもの、縫ってあるものなどをほどく。
古事記(712)上・歌謡「太刀が緒も いまだ登加(トカ)ずて 襲(おすひ)をも いまだ登加(トカ)ねば」
※大和(947‐957頃)一六九「『これを形見にしたまへ』とて、帯をときてとらせけり」
② 束ねたものをばらばらにしたり、封じたものを開いたりする。
※万葉(8C後)一〇・二〇一二「白玉の五百(いほ)つ集(つど)ひを解(とき)も見ず吾れは寝かてぬ逢はぬ日待つに」
※平家(13C前)一一「判官あまさへ封をもとかず、いそぎ時忠卿のもとへ送られけり」
③ 乱れもつれたものを分けて整える。
※源氏(1001‐14頃)手習「御髪(ぐし)手づからけづり給ふ。〈略〉ときはてたれば、つやつやとけうらなり」
④ 車などにつける飾りや身にまとう着物などをとり除く。
※蜻蛉(974頃)中「只今なん、御車の装束ときて、み随身ばらも、みな乱れはべりぬ」
⑤ 腹立ち、不機嫌、恨み、悲しみ、疑いなど、心のわだかまりを消してさっぱりさせる。「疑いを解く」
※妾の半生涯(1904)〈福田英子〉七「せめては、婦女の職分をも尽して、世間の誤謬を解(ト)かん者と」
⑥ 役目、責任、契約、制限など、束縛となるものを除く。解任、解約、解禁などをする。
※舞姫(1890)〈森鴎外〉「憎み思ひし官長は、遂に旨を公使館に伝へて、我官を免じ、我職を解いたり」
⑦ 防備、警戒、包囲などのためにとっていた態勢をくずす。「警戒を解く」「囲みを解く」
※近世紀聞(1875‐81)〈染崎延房〉一二「遂に函館の固めを解(ト)き」
⑧ 魚や鳥獣を刃物で切り裂く。包丁を入れて料理する。また、解剖する。
※台記‐仁平二年(1152)二月二六日「行賢即解鯉」
⑨ 疑問や問題に対する答えを出す。解答する。
※徒然草(1331頃)一〇三「近習の人ども、なぞなぞを作りてとかれける処へ」
※彼女と少年(1917)〈徳田秋声〉五「代数をやったり、幾何の問題を解いたり」
⑩ あたえられた方程式、不等式を満たす未知数の値の範囲を求める。解(かい)を求める。
[2] 〘自カ下二〙 ⇒とける(解)

と・ける【解】

〘自カ下一〙 と・く 〘自カ下二〙
① 結ばれていたものがわかれ離れる。結び目がほどける。
※万葉(8C後)一四・三四八三「昼解けば等家(トケ)なへ紐のわが背なに相寄るとかも夜等家(トケ)やすけ」
※枕(10C終)八九「赤紐のとけたるを、これ結ばばやと言へば」
② 腹立ち・不機嫌・恨み・悲しみなど、心のわだかまりが消える。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)三「一切の怖畏と煩悩と逼切とを、皆解(トクル)こと得しむるに、なりぬ」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「胸の鬱結(むすぼれ)も解けてむしゃくしゃも消え消えになり」
③ 心のへだてがなくなる。なれ親しむ。うちとける。
※万葉(8C後)一七・三九四〇「万代に心は刀気(トケ)てわが背子がつみし手見つつ忍びかねつも」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「六条わたりにもとけがたかりし御けしきをおもむけきこえ給てのち」
④ 安らかな心になる。安心する。
※万葉(8C後)九・一七五三「うれしみと 紐の緒解きて 家の如 解(とけ)てそ遊ぶ」
⑤ 役目・責任・契約・制限など、束縛となるものが除かれる。
※古今(905‐914)雑下・九六三・詞書「左近将監とけて侍りける時に」
⑥ 防備・警戒・包囲などのためにとっていた態勢がゆるめられる。解かれる。
※落語・出世の鼻(1892)〈禽語楼小さん〉「余が是を持って出で御固(おかた)めの解けるまで其の穴の中にもぐって居れ」
⑦ 組織されたものがばらばらになる。解散する。
※黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉四「兄の家塾が解けて以来、一人熊本に取残されて居たが」
⑧ 疑問や問題に対する答えが出る。また、よくわからなかった点がはっきりして了解される。〔文明本節用集(室町中)〕
※春潮(1903)〈田山花袋〉一一「この疑問は遂に解けた例しが無い」

げ‐・す【解】

(「げ」は「解」の呉音)
[1] 〘自サ変〙 解脱(げだつ)する。さとる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
[2] 〘他サ変〙
① 解状(げじょう)を上級機関や貴人に奉る。上申する。
※令義解(718)公式「解式 式部省解申其事。其事云云。謹解」
② 結ばれていたり固まっていたりするものを解く。
(イ) 結ばれているものをほどく。
※謡曲・歌占(1432頃)「足に刀山踏む時は、剣樹ともに解すとかや」
(ロ) 固体をばらばらにする。解体する。
(ハ) 約束、協定などをやめにする。解く。〔文明本節用集(室町中)〕
(ニ) 束縛や毒などをとり除く。〔文明本節用集(室町中)〕
③ 職をやめさせる。解任する。
太平記(14C後)一五「勅勘を蒙り、神職を解(ゲセ)られて、貞久に補せらる」
④ わからなかったことを明らかにする。特に、心、気持や物事のすじみちなどを理解する。解(かい)する。
※羅葡日辞書(1595)「Dissoluo〈略〉フシンヲ guesuru(ゲスル)、トク」
[3] 〘他サ四〙 (二)に同じ。
浄瑠璃・根元曾我(1698頃)二「もとのたまごのくさらざるしろみをもってこれをげすに」

ほど・く【解】

[1] 〘他カ五(四)〙
① 結んだもの、結ったもの、縫ったものなどをときわける。ときはなつ。はなつ。とく。
※万葉(8C後)四・七七二「夢にだに見えむと吾れは保杼毛(ホドケ)どもあひし思はねばうべ見えざらむ」
② 神仏にかけた願(がん)がかなった後、お礼参りしてその願をとく。願ほどきをする。
※義経記(室町中か)三「王子王子の御前にて宿願をほどき候べし」
③ 疑問をとく。理解する。思いほどく。
※中華若木詩抄(1520頃)上「一二の句にて、不審を立てて、三四の句にて、ほどいた也」
④ 魚の身をひらく。
※俳諧・冬の日(1685)「まがきまで津浪の水にくづれ行〈荷兮〉 仏喰たる魚解(ホド)きけり〈芭蕉〉」
[2] 〘自カ下二〙 ⇒ほどける(解)

かい【解】

〘名〙
① 説き明かし。説明。解釈。→解する
史記抄(1477)九「第一の解ならば、たたりみこなんどと云やうなものぞ。第二の解ならば、いのりはらいしてよく鬼を祭落するぞ」
② 漢文の一体。疑惑を解き、非難に反論するのを目的とするもので、漢の揚雄の「解嘲」に始まるとされる。
※俳諧・本朝文選(1706)四「長雪隠解〈許六〉」 〔文体明辨‐解〕
③ 方程式や不等式を満たすものの、もとの方程式や不等式に対する称。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
④ 与えられた問題に対する解答。
⑤ 楽章の一節。
※徂徠集(1735‐40)二三「承問五解、古楽府謂章為解、出楽府諸書」 〔楽府詩集‐相和歌辞解題〕

ほぐ・れる【解】

〘自ラ下一〙 ほぐ・る 〘自ラ下二〙
① 組み合ったり、からまったり、もつれたりしていたものが解けて離れる。ほどける。ほごれる。
※浄瑠璃・酒顛童子付頼光山入(1678)「てきいらってもちかくる所をほくれ。すそをはらひてのめらせて、はったりはったりと打たりけり」
② 緊張が解けて和らぐ。
※爛(1913)〈徳田秋声〉四〇「少しづつ釈(ホグ)れて来るお今の話に」
③ しそびれる。
三河物語(1626頃)三「秀頼之大阪にて、相国様に御腹を切せ奉らんと有りけれ共、ほぐれてならざる事なれ共」
④ 取引用語で、売買取引が解消される。

ほぐ・す【解】

〘他サ五(四)〙
① 結んであるもの、縫ってあるもの、織ってあるもの、からまっているもの、難解であることなどをとき分ける。また、建物を解体する。ほどく。ほごす。
※類従本清少納言集(1028頃か)「さばかりのはかなき事をほぐすべきにもあらず」
② かたまっているもの、こりかたまっている気持などをやわらげる。
クローディアスの日記(1912)〈志賀直哉〉「いやな気分も直ぐほぐされて了ふのだ」
③ 食物を、食べやすいように分けたり、かきまぜたりする。
手鎖心中(1972)〈井上ひさし〉鳥越「おすずさんは、魚の身をほぐしてやったりした」

ほど・ける【解】

〘自カ下一〙 ほど・く 〘自カ下二〙
① かたく閉じていたもの、結ばれていたものなどがとけ分かれる。とけ離れる。とける。
※今鏡(1170)九「あをやぎのいろのいとにてむすびてしかれははとけで春ぞくれぬる〈略〉縒れ葉ほどけでと書けるもあり」
② 疑いが晴れる。理解できる。とける。
※浄瑠璃・鎌倉袖日記(1688‐1704頃)二「かやうかやうといはせも果てず、いやそれにてはほどけぬ」
③ 気持が和らぐ。また、口が軽くなる。うちとける。
浮世草子傾城禁短気(1711)一「是から口がほどけて来てしばらくの酒盛」

ほぐれ【解】

〘名〙 (動詞「ほぐれる(解)」の連用形名詞化)
① 解けて離れること。また、そのもの。
※オールド・ノース・ブリッジの一片(1968)〈島尾敏雄〉「私には緊張のほぐれが逆流してくるようなのだ」
② 破綻(はたん)が生じること。
※浄瑠璃・平仮名盛衰記(1739)四「扨もひあいなだまし様、中程からほぐれがきてわしゃあぶあぶ思ふてゐた」
③ おちぶれること。
※洒落本・浪花色八卦(1757)蔦菱卦「新町ほぐれのとしま」

げ【解】

〘名〙
① 説明すること。解釈すること。
法華義疏(7C前)一「光宅法師解言、知見只是一衆生当来仏果、示為聞慧、悟為思慧
※令義解(718)公式「右八省以下内外諸司。上太政官及所一レ管。並為解」

かい‐・する【解】

〘他サ変〙 かい・す 〘他サ変〙 物事の意味や筋道を理解したり、解き明かしたりする。解釈する。また、物事のある状態を会得、了解する。よくわかる。
※華族の海外留学を奨励し給へる勅諭‐明治四年(1871)一〇月二二日「我邦女学の制、未だ立たざるを以て、婦女多くは事理を解(カイ)せず」
※三四郎(1908)〈夏目漱石〉四「三四郎は此内の空気を略(ほぼ)解し得た所にゐる」

かい‐・す【解】

[1] 〘他サ変〙 ⇒かいする(解)
[2] 〘他サ五(四)〙 (サ変から転じた語) =かいする(解)
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「支那風でいふから解さねへのもむべなりむべなり」

ほご・す【解】

〘他サ五(四)〙 =ほぐす(解)
※梅津政景日記‐慶長一七年(1612)一一月二二日「七つの家ほこし候へと申付候時」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「思ひ詰めた心を解(ホゴ)して」

はつり【解】

〘名〙 絹布の類をほぐし、糸として使うもの。はつし。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「いと使ひよき、手づくりの針の、耳いと明らかなるに、信濃のはつりをいとよき程にすげて」
[補注]動詞「はつる(削)」を、織物をときほぐす意に用い、その連用形を名詞化したものか。

げ・せる【解】

〘サ下一〙 (「げす(解)」の可能動詞) 人の心理や物事の条理を納得できる。理解できる。わかる。
※評判記・江戸土産(1784)卯曾我まこと同姉妹「しれてゐてもしれぬといって、たづねるがしゅかふか、ちとげせませぬ」

はつ・る【解】

〘自ラ下二〙 (「はつる(削)」と同源か) まとまっていたものが端から解け離れる。ほつれる。ほどける。
※古今(905‐914)恋五・八四一「藤衣はつるる糸はわび人の涙の玉のをとぞなりける〈壬生忠岑〉」

ほつ・れる【解】

〘自ラ下一〙 ほつ・る 〘自ラ下二〙 編んだり束ねたりしてあるものの、端の方が解けて乱れる。
※玉塵抄(1563)四四「柳のはうこと云、まるい花の心にさくが白ぞ。ほつれてぼぼけて風にそらをとびまわるぞ」

はつし【解】

〘名〙 =はつり(解)〔羅葡日辞書(1595)〕
※浄瑠璃・薩摩歌(1711頃)中「何も彼も未だはつしの糸の、いとしとまでに思はくの」

ほご・れる【解】

〘自ラ下一〙 ほご・る 〘自ラ下二〙 =ほぐれる(解)
※滑稽本・古朽木(1780)四「若葉も自然とほごるるきざし」

ほつれ【解】

〘名〙 (動詞「ほつれる(解)」の連用形の名詞化) ほつれること。また、ほつれたもの。
※俳諧・毛吹草(1638)五「糸遊は霞のあみのほつれ哉〈望一〉」

ほつ・す【解】

〘他サ四〙 ほぐす。ほどく。とく。
※浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)二「裙をほつせし柿帷子を」

ほぐ・る【解】

〘自ラ下二〙 ⇒ほぐれる(解)

ほご・る【解】

〘自ラ下二〙 ⇒ほごれる(解)

ほつ・る【解】

〘自ラ下二〙 ⇒ほつれる(解)

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デジタル大辞泉 「解」の意味・読み・例文・類語

かい【解】[漢字項目]

[音]カイ(漢) (呉) [訓]とく とかす とける ほどく
学習漢字]5年
〈カイ〉
一つにまとまったものを解き分ける。ばらばらになる。「解散解体解剖瓦解電解氷解分解融解溶解
もつれ・ごたごたを解きほぐす。「解決和解
役目や束縛から解き放す。「解禁解雇解除解消解職解任解放解約
解き明かす。「解釈解説解答解明見解詳解図解正解注解読解弁解明解
物事の筋道・意味がはっきりとらえられる。わかる。「理解諒解りょうかい一知半解
〈ゲ〉
解き放す。「解脱解毒解熱
説明・解釈。「義解集解
[名のり]ざ・さとる・とき・ひろ

げ【解】

律令制で、諸官庁から上級官庁あるいは太政官へ上申した公文書。解状。解文げぶみ。→

かい【解】

意味をときあかすこと。解釈。また、その説明。→解する
与えられた問題に対する答え。
数学で、問題を解いて得られた結果。方程式の根、微分方程式を満足させる関数など。

げ【解】[漢字項目]

かい

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改訂新版 世界大百科事典 「解」の意味・わかりやすい解説

解 (かい)
solution

方程式があったとき,それを満たすもの全体を,その方程式の解という。

\(\sqrt{x}\)x=1,x2-2x+1=0はいずれも解はx=1であり,x2-1=0の解はx=1およびx=-1である。微分方程式の場合のように,解が関数である場合もある。代数方程式の解は根とも呼ばれるが,根と解とには,考え方に差異があるので,その説明から始めよう。

係数が複素数の多項式fx)=a0xna1xn1+……+ana0≠0)は,と因数分解する。ここにでてくるα1,……,αn全体をfx)の根,または,方程式fx)=0の根という。同じαがα1,……,αnの中にm回現れるとき,αはm重根であるという。m≧2のとき重根,m=1のとき単根という。多項式や代数方程式に対して,根(ルーツroots)という言葉が使われるのは,根全部が定まれば,あまり重要でない数の因子a0を無視すれば多項式および方程式が定まるからである。しかしながら,一つの複素数を考えたとき,αがfx)=0の根であることと解であることは同一なので,根と解とが混同される傾向がある。本来は解には〈重複〉という概念は付随していない。

二次方程式ax2bxc=0(a≠0)の2根がα,βであるとき,α+β=-b/a,αβ=c/aである。これが二次方程式の場合の根と係数の関係である。もっと一般に前述のfx),α1,……,αnについて,

という関係がある。これがn次の多項式(または方程式)の根(または解)と係数の関係である。
解の公式
執筆者:

解 (げ)

令(りよう)で規定された公式様(くしきよう)文書の一つ。公式令での規定では,民部省など八省以下の内外諸司から太政官および所管上級官司へ上申する文書様式であった。たとえば主計寮から民部省へ,民部省から太政官へ上る場合にこの様式を用いる。第1行目に〈(差出所)解 申……事〉と記し,以下本文,年月日,位署の順に書く。本文の書き止めは太政官に対するものは〈謹解〉,その他に対しては〈以解〉とする。位署は四等官全員が署する規定であった。差出者の名は冒頭に記すが,宛所は書かないのが原則である。これは元来,解は直属上級官司へ上るものであるから,書かれてなくても自明であるからである。解は内容としては報告,請求,申請等であり,地方の国から太政官や民部省に提出される計帳,正税帳,租帳なども解の様式によって作成されている。土地の売券も初期には解の様式によっていた。これは古代における土地売買が墾田永年私財法発布後といえども,すべて官司の許可が必要だったからである。

 公式令の規定では解は官司の上申する場合に用いるもので,個人の上申文書は別に(ちよう),辞が定められていたが,それらが用いられることは少なく,個人が官司に上申する場合も解を用いることが多かった。そのうち欠勤届に類するものを不参解,休暇申請を請暇解という。借金証文にも用いられ,借銭解(しやくせんげ),月借銭解(げつしやくせんげ)といった。このような個人の解の場合,差出者の名は冒頭に〈某謹解……事〉と書くか,冒頭は単に〈謹解……事〉として,終りの日付の下に姓名を記すかの2様があった。宛所は公式様解と同様,自明であるのと儀礼としての意味から書かないのを通例とした。このように解は官司,個人を問わず,役所へ差し出す文書として用いられ,平安時代以降多くなった農民や地方下級役人から国衙へ上申する文書や,訴訟関係での訴状もすべて解の様式によって記された。平安時代以降は解文(げぶみ)とか解状(げじよう)といわれるようになった。たとえば国司藤原元命を訴えた有名な《尾張国郡司百姓等解文》というようにである。鎌倉時代初期につくられた書札礼の書《雑筆要集》は解状例として,官人,荘官百姓等,荘住人の3例をあげている。そして鎌倉中期以降になると,訴状等は〈某申……〉と書き始める申状が多くなり,解,解状はみられなくなる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「解」の意味・わかりやすい解説


公式令(くしきりょう)に規定された文書の一様式。令の規定では、支配関係にある役所間で、上級官庁から下級官庁に下す文書が符(ふ)であるのに対し、下級官庁が上級官庁に差し出す文書に解を用いた。解は本来官庁が出す文書であったが、すでに奈良時代、諸家、個人も解を用い、広く上申文書として解が使用された。解は鎌倉時代衰退するが、売買、訴訟文書には比較的遅くまで解の様式がみられる。奈良時代、土地売買は当事者間の契約だけでは無効で、国司(こくし)に申請し、その証明を必要としたため、売買文書は解の様式で書かれた。その後、国司の認可が必要でなくなっても、売買証文に解の様式を使う慣習は鎌倉時代まで残っていた。

[百瀬今朝雄]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「解」の解説


公式令(くしきりょう)に定める文書様式。所管・被管の統属関係にある下級官司から上級官司や太政官へ上申する文書の形式。「某解申其事」とする書出文言,「以解」(太政官に対する場合は「謹解」)とする書止文言をもち,年月日,上申官司の四等官全員の位署の順で記された。ただし諸国は太政官に対してだけでなく八省や弾正台(だんじょうだい)にも解を用いた。また官人が個人として上申する際にも,牒(ちょう)や辞(じ)にかわる上申文書として解の形式の文書が多用された。平安時代になると,個人名の申請文書(売買券文など)にも広くみられるようになり,さらには解文・解状などの名称で訴状としても用いられた。

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百科事典マイペディア 「解」の意味・わかりやすい解説

解【げ】

律令制における公文書の形式の一つ。に対するもので,下級官司から太政官および直属の上級官司へ奉る文書。諸国司が中央の太政官に提出する文書はすべて解を用いた。あて所は明確なので書かないのが特色。
→関連項目古文書

解【かい】

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「解」の意味・わかりやすい解説


律令時代の文書様式の一つ。上下支配関係にある下の役所から,上の役所に出す文書様式。に対応する様式として公式令 (くしきりょう) に規定されている。実際には役所間だけでなく,個人の場合にも,役所や上位の人に出す文書として用いた。訴訟の際,最初の訴状はもと解文の形をとったので,本解ともいう。


かい

」のページをご覧ください。

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旺文社日本史事典 三訂版 「解」の解説


律令に規定されている,下位の官司から上位の官司に出す文書
解状・解文 (げぶみ) ともいう。平安時代以後は官司間だけでなく,一般に上申する場合の文書すべてをいうようになった。尾張国郡司百姓等解文は有名。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【運搬作用】より

…運搬形式によって,運搬作用は溶流,浮流,掃流に三大別することができる。溶流solutionは化学的風化作用を被った岩石や土壌の可溶性物質が,イオンの形で水に溶解して運搬される現象である。一般に地下水や河川水はカルシウムイオン,ケイ酸イオン,塩素イオン,硫酸イオンなど,流域の地質を反映した成分を溶かして運搬している。…

【溶液】より

…均一な液相をつくっている混合物。均一混合物には液相のほかに,気相,固相の場合がある。固相の場合は固溶体といい,液相の溶液とあわせて溶体という。溶体と同じ意味で溶液を用いることもある。溶液成分のうちの一つが他を溶かしていると考えられるとき,溶かしている成分を溶媒,溶けている成分を溶質という。溶媒,溶質がともに液体で,たとえば水とエチルアルコールのように任意の割合で混合する溶液の場合には便宜上,量の多いほうを溶媒とする。…

【溶体】より

…均一な相からなる混合物。均一な相が気体である場合は混合気体,液体の場合は溶液,固体である場合は固溶体という。ただし,混合気体は条件(低温においてとか,成分の分子量の差が大きいとか)によって,不均一になる場合もありうる。一般に混合物は,各成分に分離する場合に,外からそれほど大きなエネルギーを加えないで容易に分離できるもの(たとえば,ふるいやフィルターで分けるとか,弱い遠心力をかけるとかだけで分離できるもの)と,かなりのエネルギーを外から加えて(たとえば加熱するとか強い遠心力をかけるなど)はじめて分離できるものとに分けられる。…

【方程式】より

…等式の数が複数であるときとくに連立方程式という。その数値や関数を求めることを方程式を解くといい,その数値や関数を方程式のという。また解である数値や関数はこの方程式を満足するともいう。…

【古文書】より

…これは土地財産権の存在を証明するものとして,その移転にともなって作成された売券譲状寄進状をつぎつぎ集積していったものである。代表的なものとして,912年(延喜12)の七条令解から1396年(応永3)の寄進状にいたる約500年間の売券類20通が現存する左京七条一坊(現,京都市)の家地の場合がある。また武家の家柄では,譲状をはじめとして軍忠状感状・恩賞宛行状など,家領家督に関する文書が相伝の重書として,数代あるいは十数代伝えられる場合がある。…

【申文】より

…上申文書で,下位のものが上位に対して事柄を〈申上る〉文書ということからこの名があり,申状ということもある。公式様(くしきよう)上申文書である(げ)が冒頭に〈何某解申……事〉とあるのが,しだいに〈何某申……事〉と変化し,名称も解(解文)から申文に変わったといわれる。中世以降は申文というと,とくに官人が叙位・任官や官位昇進を希望して,朝廷に申請する款状(かじよう)をさしていうようになった。…

※「解」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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