C-N率(読み)シーエヌりつ(英語表記)carbon-nitrogen ratio

改訂新版 世界大百科事典 「C-N率」の意味・わかりやすい解説

C-N率 (シーエヌりつ)
carbon-nitrogen ratio

植物あるいは土壌中の腐植などに含まれている炭素窒素比率。C/N率とも書き,炭素-窒素比ともいう。次の二つの場合に使われる。

(1)高等植物における花成(花芽が形成されること)現象を体内の炭素と窒素の割合によって説明しようとする場合。植物の花成が体内の栄養状態によって影響されるという考え方は,1900年代にはいり,フィッシャーH.Fischer(1916),クレプスG.Klebs(1918)などによって示され,その中でC-N率の概念も提示された。さらにクラウスE.J.KrausとクレービルH.R.Kraybill(1918)はトマトを用い,根から吸収された水および窒素化合物と葉で同化された炭水化物の割合が植物の生長および成熟に大きく関係することを明らかにし,その関係を炭水化物-窒素関係と呼び,次の四つの場合のあることを示した。すなわち,(a)水分および窒素の供給が豊富であっても炭水化物の生成が不十分だと栄養生長は弱く,花芽がつかない。(b)水分および窒素養分が豊富で,炭水化物の生成も十分であれば,栄養生長は盛んになるが花芽の形成は悪く,結実も良くない。(c)水分および窒素養分がやや減少し,炭水化物の生成が十分であると,栄養生長はやや弱くなるが花芽の形成や結実は良い。(d)水分および窒素養分がさらに減少すると,栄養生長はいっそう弱くなり,花芽の形成も不良となる。この研究によって,炭水化物と水分や窒素養分との均衡が花成に対していろいろに影響することが明らかにされ,C-N率の位置づけが整理された。C-N率についてはその後も多くの研究が進められ,一時は栽培上の指標として,とくに果実を対象とする園芸分野で重視された。しかし花成にかかわる要因には,ほかに温度や日長など,より影響の大きい要因があり,花成をC-N率のみで説明するのは妥当とはいえない。しかしC-N率を花成にかかわる一要因として認識しておくことは作物栽培上十分意義のあることといえる。

(2)土壌中の腐植その他の有機物に含まれている炭素量と窒素量の比をいい,有機物の分解の程度を表す指標として用いられる場合。C-N比または炭素率と呼ばれることも多い。ふつう,土壌中で十分に分解された有機物のC-N率は10程度,新鮮な落葉は50,稲わら70,堆肥15程度である。C-N率の大小は植物の利用できる土壌中の窒素量と密接に関係する。C-N率の高い有機物が土壌中に与えられると,土壌微生物はその分解に必要とする窒素を有機物以外の土壌中から吸収してしまうため,作物は窒素不足の状態となる。したがって,稲わらや麦わらなど炭素含量の多い有機物をそのまま土中に施すと,窒素不足の害が出るので,その場合には窒素肥料を補ってやる必要がある。逆にC-N率の低い有機物では余剰の窒素は無機化して作物に利用されやすくなる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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