(読み)ひる

精選版 日本国語大辞典 「嚔」の意味・読み・例文・類語

ひる【嚔】

〘他ハ上一〙 (上代の上二段活用の動詞「ふ(嚔)」の上一段化した語) (多く、「鼻をひる」の形で用いて) くしゃみをする。はなひる。
万葉(8C後)一一・二六三七「(うちすすり)鼻をそ嚔鶴(ひつる)剣刀(つるぎたち)身に副ふ妹し思ひけらしも」
[語誌]体外へ出す意の「ひる(放)」と同語源。「ひる(放)」が四段活用化したのに対し、上一段活用のまま残ったもので、中古には「はなひる」「はなふ」の例がある。→「ひる(放)」の語誌

くさめ【嚔】

〘名〙
① くしゃみをしたときとなえるまじないことば。くしゃみをすると早死にをするという俗信があり、そのとき「くさめ」ととなえれば防げるとされた。〔名語記(1275)〕
② (①が転じて「鼻ひる(くしゃみする)」動作そのものをさすようになったものか) =くしゃみ(嚔)《季・冬》
俳諧・鴉鷺俳諧(1646)「あやし若衆のくさめするをと〈嶺利〉 だきあひてねたるやしりてそしるらん〈同〉」

ふ【嚔】

〘他ハ上二〙 (多く「鼻をふ」の形で用いて) くしゃみをする。→ひる
※万葉(8C後)一一・二六三七「うちすすり鼻をぞ嚔(ひ)つる剣刀身に添ふ妹し思ひけらしも」
[補注]平安以降は上一段化して「ひる」となるが、上代では連用形に「鼻火」(万葉‐二八〇八)の形があり、「火」が特殊仮名づかいで「ひ」の乙類を表わす仮名であるところから、上二段活用であったと考えられる。

はな‐・ひる【嚔】

〘自ハ上一〙 (上代の上二段動詞「はなふ(嚔)」の上一段化したもの) くしゃみをする。〔十巻本和名抄(934頃)〕
徒然草(1331頃)四七「やや、鼻ひたる時、かくまじなはねば死ぬるなりと申せば」
[語誌]上代には、くしゃみとか、眉がかゆくなることなどは、人に思われている時や人の来る前兆と考えられていた。中古以後、くしゃみは不吉なものとされ、呪文を唱えるとその災いを免れると信じられた。

はな‐ふ・く【嚔】

〘自カ四〙 (「鼻吹く」の意) くしゃみをする。はなひる。はなふ。
琴歌譜(9C前)継根振「つぎねふ 山城川蜻蛉(あきつ) 波奈布久(ハナフク)(はな)ふとも」

はな‐ひ【嚔】

〘名〙 くしゃみ。くさめ。
新撰字鏡(898‐901頃)「噴嚔 波奈比」
※俳諧・けふの昔(1699)「蘭の香に噴(ハナヒ)まつらん星の妻〈其角〉」

くしゃみ【嚔】

〘名〙 (「くさめ」の変化した語) けいれんぎみに息を吸ったあと、反射的に口や鼻から激しく息をはきだす生理現象。主に鼻粘膜の刺激により三叉神経を介して起こる。鼻炎や鼻アレルギーなどの疾患では、連続的に多発することが多い。くさみ。くさめ。《季・冬》 〔日葡辞書(1603‐04)〕

はな‐・ふ【嚔】

〘自ハ上二〙 =はなひる(嚔)
※万葉(8C後)一一・二八〇八「眉根掻き鼻火(はなひ)紐解け待てりやもいつかも見むと恋ひ来し吾れを」

くっさめ【嚔】

〘名〙 =くさめ(嚔)《季・冬》
※虎明本狂言・皸(室町末‐近世初)「足をぬらすまひと思ふて、かしらまでぬらひた。ああ、くっさめ、くっさめ」

くさみ【嚔】

〘名〙 「くさめ(嚔)」の変化した語。
※歌舞伎・心謎解色糸(1810)二幕「この途端にこの薬二人が鼻へ入る。アイタ、タ、タ、タ。(ト頭を押へ)アアくさみ。(ト一度にする)」

くっしゃみ【嚔】

※浄瑠璃・浦島年代記(1722)一「今日の只今迄くっしゃみ一つ致さず」

はな‐ひり【嚔】

〘名〙 くしゃみ。くさめ。《季・冬》

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「嚔」の意味・読み・例文・類語

くさめ【×嚔】

くしゃみ。 冬》「つづけさまに―して威儀くづれけり/虚子
くしゃみが出たときのまじないの言葉。くしゃみをすると早死にするという俗信があって、「くさめくさめ」と繰り返し言うと防げるといわれた。
「道すがら、―、―と言ひもて行きければ」〈徒然・四七〉

くっさめ【×嚔】

《「くさめ」の促音添加》くしゃみ。
かしらまで濡らいた。ああ、―、―」〈虎明狂・皹〉

くしゃみ【×嚔】

《「くさめ」の音変化》鼻の粘膜が刺激されて起こる、反射的に激しく息を吐き出す生理現象。 冬》

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android