SST(Social Skills Training)(読み)えすえすてぃー

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

SST(Social Skills Training)
えすえすてぃー

ソーシャル・スキルズ・トレーニングSocial Skills Trainingの頭文字をとってSSTという。わが国では「生活技能訓練」と訳されているが、普通はSSTとよばれることが多い。精神障害者の社会復帰を可能ならしめるために、主として対人関係技能の改善を目ざして、それらを合理的に訓練していく治療的技法である。精神療法なかでは認知行動療法一種と考えられている。

 SSTは、行動療法の大家ウォルピJ.Wolpeが1960年代に行った自己主張訓練から発展し、その後、対人緊張や対人関係に悩む人たちに効果的な対人関係を可能にすることを目標にした訓練法が開発された。この対人関係を円滑にするための訓練法を、同じ対人関係に障害のある慢性精神障害者に適応を広げる研究が、リバーマンR.P.Libermanらによって1980年代なかばに開発された。その際の精神障害は統合失調症がおもなものであった。統合失調症の原因については、遺伝的かつ発達上につくられた脳の脆弱(ぜいじゃく)性に環境的ストレスが加わり対処しきれずに脳機能の障害がおこり発病するとされる脆弱性‐ストレスモデルで説明されている。したがって、治療には精神薬物療法とともに心理社会的治療が必要とされている。また、統合失調症は慢性化の傾向があり、その結果、「精神障害者が生活するなかで体験する問題の大部分は、自分の生活にとってたいせつな人々に感情を表現したり、コミュニケートすることが十分にはできないことからきている」(リバーマン)という状態に陥っている。それを改善する具体的方法としてSSTが開発された。

 現在、SSTには「基本訓練モデル」「問題解決技能訓練」そして「自立生活技能プログラム(モジュール)」の3方法がある。

[西園昌久]

基本訓練モデル

対象となる精神障害者によく説明し納得してもらったうえで参加してもらう。参加する個々の障害者にはあらかじめ用意された生活技能尺度で生活技能の評価を行い、SSTで到達する目標を設定しておく。8人ぐらいの障害者と2人のスタッフで集団をつくり、週1回、60分のセッションを予定する。実際のセッションでは、(1)ウォーミングアップ、(2)SSTの目的の確認、(3)前回の宿題の報告、(4)その日のテーマの設定、(5)ロールプレイによる練習、(6)よいところを皆で褒(ほ)める(正のフィードバック)、(7)さらによくすることを皆で話し合う、(8)スタッフがお手本を示す、(9)ビデオで再生してもう一度確かめる、(10)宿題の設定、の順に行う。

[西園昌久]

問題解決技能訓練

コミュニケーションは、当事者間の受信、処理、送信の3技能によって円滑にいくと考えられている。統合失調症の患者の場合には、認知障害のためこれらの機能が十分でないことが多い。個々の参加者が重要としている当面の問題を集団共通のテーマとしてとりあげてロールプレイで解決策を考える。

[西園昌久]

自立生活技能プログラム

モジュールともいう。このなかには服薬自己管理、症状自己管理、基本会話、余暇のすごし方、地域生活への再参加などがある。

[西園昌久]

展開

SSTが効果をあげることは広く認められている。とくに、薬物療法、家族への心理教育などと併用すると再発予防になるといわれる。その理由はSSTが精神障害者の認知障害の改善に効果があると考えられるからとされている。

 わが国では1995年(平成7)に全国的組織としてSST普及協会が結成され、普及と技術の向上につとめている。最近では、精神科医療ばかりではなく法務省管轄下の矯正・更正機関、さらには学校現場での関心も広がっている。

[西園昌久]

『R・P・リバーマン著、池淵恵美監訳『精神障害者の生活技能訓練ガイドブック』(1992・医学書院)』『R・P・リバーマン編、安西信雄訳『実践的精神科リハビリテーション』(1993・創造出版)』『R・P・リバーマン著、安西信雄訳『生活技能訓練基礎マニュアル――対人的効果訓練:自己主張と生活技能改善の手引き』(1994・創造出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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