精選版 日本国語大辞典 「SST」の意味・読み・例文・類語
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super-sonic transport(超音速輸送機)の略で,運航を主として音速より速い速度(ふつうは音速の2~3倍のM2~3)で行う輸送用の航空機。
ジェット機は空気抵抗を小さく(揚抗比を大きく)保ちながら高速で飛ぶほど距離当りの燃料消費が少なくてすむ。しかし速度が音速(成層圏では約1060km/h)に近づくと抵抗が急に増すため,ふつうのジェット輸送機はその手前の亜音速のM0.8あたりを経済的な巡航速度とし,これは1950年代の初期のジェット輸送機も現在もほぼ変わらない。音速付近の遷音速では,機体表面の気流に,機体との速度差が音速以上と以下のところが生じ,境目に衝撃波が発生して抵抗は増し,機のつり合いも変わるので,継続的な飛行には適さない。飛行速度がほぼM1.4以上になると,機体表面の気流はすべて音速を超えて再び安定し,継続飛行に適した条件が得られる。こうした超音速飛行では衝撃波が機の前後端から出て,抵抗は亜音速より大きく(揚抗比は小さく)なるが,ほぼM2以上で飛べば距離当りの燃費を亜音速機の燃費に近くできる。したがって輸送機は遷音速での運航を避け,亜音速機の次は一気にSSTとするのが経済的となる。それまで輸送機の速度はプロペラ機が1920年代の約200km/hから50年代には約500km/hに,そして約900km/hのジェットへと進み,速度の向上は利用者に喜ばれ航空輸送の社会への貢献を増してきた。50年代中期,ジェット輸送機の実用化とともに,SSTの研究が各国で盛んになったのも,当時としては自然な方向といえるものだった。
ほぼ似た中型SSTを考案したイギリスとフランスは62年11月協定して,シュド・BAC両社共同のコンコルドの開発を始めた。試作機は69年3月初飛行,量産機は76年1月国際線に就航した。開発に13年,約1兆円もかかったのは多くの地上・飛行試験を行ったためだが,この間,世界的に環境の保全が重要な課題として認識されるようになり,ソニックブームなどの問題から,一時は74機あった注文も大部分取り消されて,試作機を含め20機で生産を終えた。ソ連(現ロシア)では1962年ころ中型SSTツポレフTu144の開発を始め,68年12月試作機が初飛行,大幅に設計変更した量産機は77年11月に国内旅客便に就航したが,技術的問題から約半年で運航を中断した。またアメリカでは1963年に政府がメーカーにSSTの提案を要求,66年12月ボーイング社が選ばれ開発を始めたが,公害反対論が高まり,71年5月議会で開発費の政府支出が否決されて中止となった(ただしその後もSSTの研究は続けている)。
コンコルドの場合,経済的な巡航高度は1万5000~1万8000mで亜音速ジェット輸送機の約1.5倍,ここを約M2で飛ぶ。SSTは燃費の経済性からは高速のほうがよいが,空力加熱が問題で,成層圏(気温約-57℃)をM2で飛ぶと外板は約100℃,M3では約250℃にもなる。これに対し機体のアルミニウム合金が常温に近い強さを長時間保てるのは約150℃までなので,コンコルドは速度をM2.2に抑えて設計された。中止したアメリカのSSTは約400℃まで使えるチタン合金製とし,M2.7で飛ぶ計画であった。衝撃波による抵抗を減らすには機体を前後に細長い形にするのが有利で,このため客室は亜音速機より狭くなる。翼も亜音速機と違ってアスペクト比の小さい三角翼や矢形の翼が選ばれる。三角翼は亜音速と超音速とで空力中心の移動が小さいことでも有利だが,低速で揚力を出すには迎え角をかなり大きくしなければならず,コンコルドの場合,離着陸時は機首を下へ曲げて,操縦士の前方視界を確保している。エンジンはファンのない純ジェット式が主流だが,亜音速での燃費と離着陸の騒音を減らすため,亜音速ではターボファンになる可変サイクルエンジンも研究されている。
SSTが広く使われないのはおもに公害問題と,1席当りの経費が高く採算がとりにくいためである。公害はソニックブームと離着陸時の騒音が主で,オゾン層の破壊など高層大気への影響はアメリカ政府の調査ではごくわずかとされている。ソニックブームは機体が大きいほど大きいが,飛行高度が高ければ小さくなる。また機体の形のくふうでも減らせるが,多くの国ではソニックブームを避けるため陸上の超音速飛行が制限され,SSTのルートがおもに海上に限られて,運航の最大の制約となっている。離着陸時の騒音は,コンコルドが,航空機騒音が問題化する前の設計のため,初期のジェット輸送機と同程度に大きいが,今後のSSTでは減らすことも可能である。
→超音速飛行
執筆者:久世 紳二
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…運航管理者は飛行計画に利用し,機長は飛行中の天気変化の判断に役立てる。
[超音速機と今後の気象サービス]
1970年代前半に登場した超音速輸送機(SST)は巡航高度1万6000~1万8000m,巡航速度マッハ2であり,この飛行に影響を与える気象要素には,風,気温,雲,降水,乱気流などがあるが,このほかSSTから発生して地上に影響を与えるソニックブームや,SSTが受ける高空での強い太陽放射やオゾンの問題がある。成層圏ではジェット気流のような強い風は吹かないので,風については問題はないが,気温は重要である。…
…イギリスとフランスが共同で開発したSST(超音速輸送機)。当初は両国でそれぞれ別個にSSTの開発が進められていたが,開発費が莫大となること,両機に共通性が多いことから,1962年共同開発することを協定した。…
※「SST」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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