ab initio(アブイニシオ)分子軌道法(読み)アブイニシオブンシキドウホウ

化学辞典 第2版 の解説

ab initio(アブイニシオ)分子軌道法
アブイニシオブンシキドウホウ
ab initio molecular orbital method

非経験的分子軌道法ともいう.ab initioとはラテン語でfrom the beginningを意味する.分子中の電子の運動に関するシュレーディンガーの波動方程式を,経験的なパラメーターを使わずに近似的に解く,理論的方法を総称してab initio分子軌道法とよぶ.ab initio分子軌道法でもっとも基本となるのが,分子中の電子がそれぞれ独立に運動しているモデルにもとづくハートリー-フォック法である.ハートリー-フォック法は全電子エネルギーの99.5% 以上を算出するため,安定分子の構造性質を計算するには多くの場合,十分なことが多い.しかし,化学反応をはじめとする化学の動的な問題を定量的に取り扱うには,ハートリー-フォック法では不十分で,電子相関とよばれる電子間の相互作用をあらわに取り入れる必要がある.配置間相互作用法や多体摂動法は,電子相関を取り入れる方法として広く使われている.一般に,ab initio分子軌道法によって計算される結果の信頼度は,基底関数の質と電子相関の取り入れ方の二つの要素で決まるが,分子軌道は基底関数の線形結合で表されるため,基底関数の選び方が非常に重要になる.基底関数を大きくとるほど電子エネルギーや分子の物性値についての信頼度は高くなるが,そのぶん,計算時間もかかる.ab initio分子軌道法では膨大な数値計算を必要とするが,近年コンピューターの飛躍的進歩とはん用プログラムの普及に伴い,非常に広く使われるようになった.なかでも,ノーベル化学賞受賞者であるJ.A. Pople(ポープル)らが開発したGaussianシリーズは,現在,世界中でもっとも広く使用されている商用プログラムである.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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