von Willebrand病(VWD)

内科学 第10版 の解説

von Willebrand病(VWD)(凝固線溶系の疾患各論)

定義・概念
 von Willebrand病(VWD)はvon Willebrand因子VWF)の量的・質的異常症で,常染色体性の遺伝性出血性疾患である.臨床的に明らかな出血症状を伴うVWD患者の有病率は100万人に66~100人であるが,臨床的に明らかでないものを含めると1人/100~1000人といわれている.VWDは3タイプに分類されている.タイプ1およびタイプ3は量的異常で後者は欠損タイプである.タイプ2は質的異常を伴うタイプである(Sadlerら,2006).タイプ1が75%,タイプ2が20〜25%でタイプ3は約5%である.
病態生理
 VWFは血管内皮細胞および骨髄巨核球で産生される糖蛋白で,分子量25万のサブユニットが重合してマルチマー構造を呈し,第Ⅷ因子と結合して複合体を形成している.VWFの機能は,第一に出血部位の血管内皮下に露出されたコラーゲンに粘着し,血小板膜糖蛋白GPⅠbαやGPⅡb/Ⅲaを介して血小板に結合して血小板凝集を惹起する.第二に第Ⅷ因子の不活性化を防御して安定化する.したがって,VWFの量的異常は,一次止血機構が障害されるとともに,第Ⅷ因子の低下も招いて凝固障害もきたす.VWF蛋白はアミノ酸組成の相同性によりD,A,B,Cのドメインに分けられ,N末端よりD1-D2-D′-D3-A1-A2-A3-D4-B(1~3)-C1-C2の順に配列している.タイプ2のVWF遺伝子変異はミスセンス変異でD′~A2ドメインに集中している.タイプ3病型は欠失,点変異などが報告されている.
臨床症状
 鼻出血,異常月経出血,抜歯後出血,歯肉出血などの粘膜出血が多い.タイプ3は血友病と同様の関節内,筋肉内出血,消化管出血,頭蓋内出血などの深部出血もみられる.
検査成績・診断
1)検査所見:
典型例では出血時間が延長し,第Ⅷ因子の低下に伴いaPTTは延長する.診断はVWF抗原(VWF:Ag),リストセチンコファクター活性(VWF:RCo)の低下所見による.VWFの正常範囲は50〜240 IU/dLであるが,O型血液型では25~30%低くタイプ1 VWDと判断されてしまう場合がある.VWDのサブタイプ分類にはVWFマルチマーの評価が必要である.
2)VWDのサブタイプ分類(図14-12-2):
タイプ1のVWFマルチマーは正常である.タイプ2Aはマルチマー重合障害および高分子量マルチマー(HMW)の分解亢進などによりHMWが欠損する.タイプ2Bでは血小板膜蛋白GPⅠbに対する結合能が増加し,しばしば血小板減少を伴う.HMWは減少する.タイプ2Mは血小板への結合能が低下するが,マルチマー構造は正常である.タイプ2Nは第Ⅷ因子との結合障害が病態である.本タイプでは第Ⅷ因子のクリアランスが亢進するために第Ⅷ因子が低下し,血友病A様の出血症状を呈する.確定診断には第Ⅷ因子/VWF結合試験が必要である.タイプ3ではVWFは欠損している.
治療
 タイプ1の軽症出血に対しては酢酸デスモプレシンDDAVP)を第一選択とする.中等度以上の出血やタイプ3やタイプ2では第Ⅷ因子/von Willebrand因子複合体製剤(FⅧ/VWF)を使用する(表14-12-1).VWF活性(リストセチンコファクター活性;VWF:RCo)1 IU/kg輸注することで血漿VWF:RCoは1.5〜2.0 IU/dL上昇する.[嶋 緑倫]
■文献
Sadler JE, et al: Update on the pathophysiology and classification of von Willebrand disease: a report of the Subcommittee on von Willebrand Factor. Journal of Thrombosis and Haemostasis, 4
: 2103–2114, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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