ふいご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ふいご」の意味・わかりやすい解説

ふいご
ふいご / 鞴
吹子

金属やガラスなどの精錬、加工用に使う簡単な送風装置。空気ポンプの一種で、小さな手風琴型ふいごは手工業用、実験室用のほか、ビニルプールの空気入れなどに使われている。古語では「ふきかわ」(吹皮)とよぶように、もともと皮袋を意味し、タヌキシカの皮がおもに使われた。紀元前1500年ごろのエジプト王の墓標にもすでに皮袋型のふいごが刻まれている。『日本書紀』の天岩戸(あめのいわと)の条には、シカの皮で「天羽鞴(あめのはぶき)」をつくったことがみえている。

 世界各地で、原始、古代人が自然風力や、扇、吹き竹、吹管(すいかん)などのかわりにふいごを使い始めてから、人類の金属文化は飛躍的に前進した。日本では「まがね吹く吉備(きび)」ということばが『古今和歌集』などに出てくるが、「吹く」とは金属の精錬のことで、そのもっとも重要な道具の一つがふいごであった。鍛冶(かじ)、鋳物(いもの)業の人々が今日でも陰暦11月8日に「ふいご祭り」を祝うのは、ふいごが古代から冶金(やきん)業の象徴、技術発展の中心であったことを示している。

 近世初めには、把手(とって)を手で押し、また引いて、長方形横型の木箱の中に気密に取り付けたピストンを動かして風を押し出す、日本固有の「吹差ふいご(ふきさしふいご)」が普及し、大坂天満(てんま)には「鞴屋町」とよぶ職人町ができるほど、専門の大工が多かった。『鉄山必用記事』(『鉄山秘書』ともいう)によると、「吹子は大坂助右衛門作の細工風疾(はやく)て遣吉(やりよ)し」とも、「大坂天満、吹子屋助右衛門と言者(いうもの)、数代是(これ)を作り、京都江戸、其外(そのほか)も諸国元之(これ)を賦布(ふふ)す」ともある。しかしまた「鞴は其所々(そのところどころ)によりて違(ちがう)事あり、凡(およそ)鉄山程(ほど)吹子の風好物(かぜをこのむもの)はなし、金、銀、銅、皆鞴を用(もちう)れ共、細工最(もっとも)安きなり」とあるように、送風装置としてのふいごは製鉄業の場合に典型的な発展を遂げた。

 吹差ふいご(または「さしふいご」)と並んで、ことに中国地方で広く使われた製鉄用ふいごに「踏鞴(ふみふいご)」がある。踏吹き(ふみふき)とも踏たたら(ふみたたら)ともよぶが、大きな嶋板(しまいた)の中央に支点があり、その左右を交代で踏み、上下運動することによって送風する仕組みになっている。これがもとになり、ちょうどシーソーのような「天秤ふいご(てんびんふいご)」が出現した。17世紀後期(貞享(じょうきょう)・元禄(げんろく)年間)の発明とされ、踏鞴の嶋板を中央から切って二つの部分に分け、その支点である軸を板の前後の両端に移し、左右2枚の嶋板の運動を連係させる釣り鉤(かぎ)を頭部に設け、ちょうど天秤ばかりのように、一方が下がると他方の板が自然に上がる仕掛けである。この発明によって、番子(ばんこ)とよばれる送風労働者の数は半減し、逆に鑪(たたら)とよばれる製鉄炉の容量はかなり大きくなり、生産力は画期的に高まった。こうして中国地方の製鉄業経営(砂鉄精錬を中心とする「たたら」吹き)は、18世紀後半(宝暦(ほうれき)~天明(てんめい)期)の吹差、天秤両ふいごの混在の時代を経て、天秤ふいご時代へと変わっていった。

 この送風装置は、砂鉄から鉄をつくる場合には適しても、鉄鉱石を還元し、安定的に溶銑(ようせん)(溶融状の銑鉄)の量産を図るには不向きである。1850年代(安政(あんせい)年間)に鹿児島や釜石(かまいし)に最初の洋式高炉(溶鉱炉)が築かれると、水車を動かして連続的に送風することが考えられ、縦長の木製の箱にピストンを仕掛け、これを水車に連結する方法が採用された。幕末の釜石の『橋野高炉絵巻』にその例がみられる。西欧の近世の高炉送風では、水車を動力にしても手風琴型の皮袋が一般であったのと比較すると、ヨーロッパの技術に学びながら日本在来の土着技術を巧みに生かしていったありさまがわかる。

 製鉄用送風はその後、蒸気力、ガスタービン、電力駆動などにかわる。これに伴って、ふいごも各種の送風機へと変革されることになる。

[飯田賢一]


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防府市歴史用語集 「ふいご」の解説

ふいご

 金属を精錬するために、炉[ろ]で金属をとかしますが、炉の温度を上げるために風を送らなければいけません。ふいごとは炉に風を送る道具のことで、動物の皮や木の板で作った足踏み式のものだったのでしょう。

出典 ほうふWeb歴史館防府市歴史用語集について 情報

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