クロユリ(読み)くろゆり

改訂新版 世界大百科事典 「クロユリ」の意味・わかりやすい解説

クロユリ (黒百合)
Kamchatka fritillary
Kamchatka lily
Fritillaria camtschatcensis(L.)Ker-Gawl.

黒紫色の花をつけるユリ科多年草。ユリに近縁なバイモ属の植物である。草丈10~30cm。葉は輪生し,2~3段につく。地下に小球状の多数の鱗片よりなる鱗茎がある。アイヌは,これを食用にしたという。花は,やや下垂し,鐘状で,暗赤褐色~黒紫色,内側は外側より,網目状や斑点の模様が顕著である。花被片の内面基部に蜜腺があり,臭気がある。おしべは6本。花期は,低地では春,高山では7~8月。本州と北海道の高山産のものは二倍体植物(2n=24)で,花は通常1~2個つき,ミヤマクロユリといわれることもある。また北海道の平地産のものは,三倍体植物(2n=36)で,植物体は大きく,花数も多く,時には7個にもなり,エゾクロユリと呼ばれることがある。これは,栽培しやすいためにクロユリの球根として園芸店で売られている。本州中部以北,北海道,サハリンカムチャツカ千島,さらにアラスカやワシントン州(北アメリカ西部)に分布する。

 栽培されるヨウラクユリ瓔珞百合F.imperialis L.(英名crown imperial)は,小アジアからインドの原産である。高さ1m以上にもなる茎の先端に,葉と花を多数つける。黄色,濃紅色などの下垂したみごとな花を瓔珞(ようらく)にみたてたものである。いろいろな花色の園芸品種があり,鱗茎は食用とされる。

 ほかにもバイモ属(約100種)は,いくつか観賞用に栽培される種がある。

 クロユリもヨウラクユリも,鹿沼土ピート腐葉土を少しまぜ,春は日当りのよい所,夏は涼しい所で栽培する。冬の乾燥した寒さに弱い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロユリ」の意味・わかりやすい解説

クロユリ
くろゆり / 黒百合
[学] Fritillaria camschatcensis (L.) Ker-Gawl.

ユリ科(APG分類:ユリ科)の多年草。地下の鱗茎(りんけい)より高さ10~50センチメートルの茎を出し、数段の輪生葉をつける。葉は披針(ひしん)形、開出し、長さ3~7センチメートル、幅1~3センチメートル。7~8月、茎頂に黒紫色、広鐘形の花を開く。高山に生育するものは2n=24の二倍体で、花が1~2個であるのに対し、北海道以北の低地に生育するものは2n=36の三倍体で、より大形の花を3~7個つける。短い花柄がある。花被片(かひへん)は6個、菱(ひし)状長楕円(ちょうだえん)形または倒披針状楕円形、先は鈍くとがり、長さ2.5~3センチメートル、内面基部に腺体(せんたい)がある。雄しべは長さ1.5ミリメートル内外、花柱は基部から3裂する。果実は長さ2~2.5センチメートル、倒卵形、直立につく。三倍体は稔性(ねんせい)がない。名は、花色にちなんでつけられ、富山県立山(たてやま)などで古くからいろいろの伝説がある。本州中部以北の高山、千島、カムチャツカから北アメリカに広く分布する。

[河野昭一 2018年12月13日]


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百科事典マイペディア 「クロユリ」の意味・わかりやすい解説

クロユリ

北海道,本州中北部の高山の草原にはえ,千島,カムチャツカにも分布するユリ科の多年草。鱗茎は球形で,多数の白色の鱗片からなる。茎は高さ10〜40cm,披針形の葉を数段輪生する。夏,茎頂に径3〜4cm,広鐘形で臭気のある花を数個横向きに開く。花被片は6枚,黒紫色〜赤褐色で網目または斑紋がある。
→関連項目ユリ(百合)

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