ナガスクジラ(英語表記)fin whale
Balaenoptera physalus

改訂新版 世界大百科事典 「ナガスクジラ」の意味・わかりやすい解説

ナガスクジラ (長須鯨)
fin whale
Balaenoptera physalus

ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科の哺乳類。ナガスクジラ科では7個の頸椎はすべて遊離している。世界中の海に生息し,体長26~27mに達する大型種。北半球の個体は2~3m小さい。また雌が雄より1mほど大きい。〈ノソ〉ともいう。ひげ板は最大70cm,左右に各260~480枚あり,右側前方の1/4は乳白色で,他は青黒色(剛毛も同色)。頭部は扁平で,上から見ると前にとがったV字形をなす。背びれは大きい。畝(うね)は60~100本あり,へそに達する。背面は黒褐色,腹面と尾びれ胸びれの下面は白色,ふつう1~6頭の群れで生活し,夏は寒帯亜寒帯索餌し栄養を蓄え,冬には熱帯亜熱帯で繁殖する。妊娠期間は約12ヵ月,2~3年に1回1子を生む。体長6mで生まれた子は6~8ヵ月で離乳し,18m前後になる6~12歳で成熟する。寿命は80~100年。雑食性が強く,オキアミニシン,サンマ,イカなどを食する。天敵にはシャチがある。泳ぐ速度は速い部類に属し,最高時速32km,巡航時速4~15kmで,1日に最大300kmも移動する。最大潜水深度は約230m。

 シロナガスクジラに次いで大きいため,近代捕鯨業で大量に捕獲された。このため,かつては南氷洋だけでも40万頭もいた資源は,今では数千頭に減少し,増加傾向も認められていない。日本近海では,西部北太平洋東シナ海,日本海,オホーツク海にはそれぞれ別系統が分布するが,生息数には信頼できる推定がない。北太平洋では1976年から捕獲禁止になっている。明治初期までは今日のシロナガスクジラを〈ながす〉と呼ぶ例が多かったので注意を要する。
クジラ
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナガスクジラ」の意味・わかりやすい解説

ナガスクジラ
Balaenoptera physalus; fin whale

クジラ目ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科ナガスクジラ属。最大体長は約 27m。大きいものは体重約 75tに達する。出生体長6~6.5m。体色は背部が黒色あるいは黒褐色で,腹部が白色である。下顎は左右非対称で右側が白色,左側が黒色である。胸鰭 (むなびれ) 付近に2本,肛門部に1本の黒条がある。胸鰭のつけ根上部に淡灰色のV字形の模様がある。胸鰭と尾鰭の裏側は白色。体型はナガスクジラ科中最も流線形であり,高速遊泳に適している。噴気孔は2個で,噴気は細長く高さ6~10mに達する。頭部は扁平でU字状を呈するが,シロナガスクジラよりもとがっている。背鰭は吻端から体の後方3分の2に位置し,幅の広い直角三角形状で,先端がとがり後縁が著しく湾曲しているものと,先端が鈍く後縁があまり湾曲していないものがある。畝 (うね) は 50~100本あり臍 (へそ) まで達する。くじらひげは口内の上顎上面に片側で 260~480枚あり,最大長さ 70~90cmである。下顎同様,ひげ色も左右対称でなく,左側は灰青色,右側の前半分または前から3分の1は淡い黄白色である。潜水時間は通常 15分程度であるが,索餌中には 20~30分にわたる場合もある。瞬間遊泳速力は時速約 37km。通常2~7頭の群れで行動するが,索餌場ではまれに 100頭をこえる群れをなす。浮遊性甲殻類のカラヌス類やオキアミ類,カラフトシシャモ類やニシンなどの群集性魚類,またはイカ類を食べる。口を開いて餌に突進し飲み込んで捕食する。出産期は冬,繁殖場は両半球の熱帯と亜熱帯域である。おもに両半球の外洋域に生息するが,沿岸域にも出現する。熱帯,温帯および極域のすべての海に分布する。絶滅危惧種。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナガスクジラ」の意味・わかりやすい解説

ナガスクジラ
ながすくじら / 長須鯨
fin whale
[学] Balaenoptera physalus

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目ナガスクジラ科のヒゲクジラ。鯨(げい)類のなかでシロナガスクジラに次いで大きく、26.8メートルの体長測定記録がある。紡錘形で、鎌(かま)形の背びれがあり、腹側に下顎(かがく)からへそまで約60本の畝(うね)が並んでいる。くじらひげは口蓋(こうがい)の両側に、片側約400枚ずつ生え、灰緑色で、右側前部は白黄色である。背部は黒色、腹部は白色であるが、左右不相称。肛門(こうもん)部と胸びれ部に特徴的な黒条がみられる。

 世界の海に広く分布し、地中海や日本海などの付属海にも分布する。夏は高緯度海域で索餌(さくじ)し、冬には中・低緯度海域で繁殖する。餌料は動物プランクトンのオキアミ類や橈脚(とうきゃく)類を主とするが、群集性魚類やイカも食べる。本種は多くの系統群に分かれるが、近代捕鯨の開発初期の資源量としては、南半球に40万頭、北太平洋に5万頭、北大西洋に4万頭が存在していたと推定される。近代捕鯨の主対象種で、資源はそれによって減少したため、捕獲を禁止して回復が図られている。

[大隅清治]


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百科事典マイペディア 「ナガスクジラ」の意味・わかりやすい解説

ナガスクジラ

クジラ目ナガスクジラ科のヒゲクジラ。雌は雄よりやや大きく,体長は平均オス18.8m,メス20.0m,最大体長記録は26.0mに達する。背面はほぼ黒色,腹面は白い。世界中に分布し,日本では北海道近海,東シナ海,日本海にすむ。おもにオキアミなど小甲殻類を食べる。行動は敏捷(びんしょう)。1腹1子。シロナガスクジラに次いで大きいため母船式捕鯨の主目標となり経済上きわめて重要であったが,個体数が激減し,1987年をもって全捕獲が禁止となった。ワシントン条約付属書Iに掲載。
→関連項目クジラ(鯨)鯨肉

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栄養・生化学辞典 「ナガスクジラ」の解説

ナガスクジラ

 ヒゲクジラの一種.全長20mになる.食用にしていたが,現在は捕獲が禁止されている.

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世界大百科事典(旧版)内のナガスクジラの言及

【シロナガスクジラ】より

…ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科(イラスト)。世界中に分布する外洋性のクジラで,最大の哺乳類。…

※「ナガスクジラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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