マナ(読み)まな(英語表記)mana

翻訳|mana

デジタル大辞泉 「マナ」の意味・読み・例文・類語

マナ(mana)

原始宗教に広くみられる、超自然的で畏敬いけいの対象となる非人格的な力。生物・無生物を問わず転移・伝染して力を発揮するとされる。メラネシア起源の語で、1891年に英国の人類学者R=H=コドリントン創唱

マナ(manna)

モーセに率いられてエジプトを脱出したイスラエル民族が、荒野を放浪中、神から奇跡的に与えられたという食物。旧約聖書出エジプト記」16章に述べられている。マンナ

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精選版 日本国語大辞典 「マナ」の意味・読み・例文・類語

マナ

〘名〙 (mana) 未開社会の宗教における、非人格的な神秘的・超自然的力。人間、霊魂、動植物、無生物にこもり、転移性伝染性を特色とする。→マナイズム
構想力の論理(1939)〈三木清〉技術「呪術のこの神秘性はマナ mana といふ語をもって」

マナ

〘名〙 (maná, manná) 旧約時代、イスラエル民族が、荒野を放浪中、食物の欠乏に苦しんだとき、奇跡的に与えられた食物。マンナ。
※引照新約全書(1880)約翰伝福音書「我儕の先祖野にてマナを食へり」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マナ」の意味・わかりやすい解説

マナ
まな
mana

オセアニアに起源をもつ語で、超現実的で不可思議な力の観念とされるが、最近では地域や脈絡によってさまざまな意味を示すことが明らかになってきた。すなわち、マナは、超自然力、影響力、呪力(じゅりょく)、心力、非人格力、神(聖)力、効力、奇蹟(きせき)、権威、威信などの意味をもつとされる。

[佐々木宏幹]

特質

マナは人間のもつ通常の力を超えて、あらゆる方法であらゆるものに作用する超自然力で、それ自体としては非人格的であるが、つねにそれを行使する人間と結び付いており、それを所有し支配すると、最大の利益を得ることができるとされる。マナは本来特定の人物や事物に固有のものではなく、付け加えたり取り除いたりできる転移性、および自発的にあるものから他のものに伝わる伝染性を有する。

[佐々木宏幹]

事例

メラネシアでは、マナは個人に結び付けてとらえられる。ある戦士が戦いに勝ったのは、彼の実力によるのではなく、彼がマナを得ていたからとされる。また豚が多くの子を生み、農作物のできがよいのは、その所有主が勤勉であるとか、財産管理に留意したためではなく、彼が豚や芋に効力のあるマナの充満した石を所有しているからとされる。

 これに対しポリネシアでは、マナは階層や集団に関係づけて把握されることが多い。王族や貴族は神々の子孫とされ、一般民衆よりも圧倒的に多量のマナを身につけている。男性は女性よりも多くのマナを有している。ときに支配者は強力なマナをもっているため、思うように身体を動かせない。少量のマナを所有する下層民に触れると、強力なマナの発動で彼らを危険に陥れることを恐れたからである。このようにマナはタブーと強く結び付いているのである。

[佐々木宏幹]

学説

マナの観念を初めて学界に発表したのはR・H・コドリントンであり、彼はマナを転移・感染可能な超自然力・影響力であるとした。マナの観念は宗教の本質や始源にかかわる問題とされ、多くの論議をよんだ。R・R・マレットはこれを呪力・心力とし、É・デュルケームは非人格的な力とし、トーテム原理と同一視した。H・ユベール、マルセル・モースらはマナをもって呪術的信念と儀礼・慣行の基礎とみなした。A・M・ホカートは、マナがポリネシアでは共同体の指導者の属性を示す語で、繁栄と成功を意味するとした。

 A・キアペルはマナの語源研究から、その原初的な意味は「効力」であり、日常性を超えた有効性が認められるとき、この語が使用されるとした。彼はまたマナとまったく類似の観念がアメリカ・インディアンのワカンwakanやオレンダorendaにみられるとした。E・ノーベックは、さまざまな人物、事物、自然物に憑依(ひょうい)して威力を発揮させる日本のカミ(神)の観念はマナに酷似すると述べている。

[佐々木宏幹]

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改訂新版 世界大百科事典 「マナ」の意味・わかりやすい解説

マナ
mana

メラネシアの土語〈マナ〉に由来し,非人格的な超自然力,またはときとして人格,非人格に関係なく超自然力一般をさすのに広く用いられるにいたった用語。マナは1891年コドリントンR.H.Codringtonの著作《メラネシア人》によって紹介され,学界に大きな影響を与えた。この語が世界の諸宗教のもつ本質的な性格〈超自然力〉を説明し,理解するのに有効な内容を蔵しているとみなされたからである。マナは神や死霊,祖霊,人間をはじめ,人工物,自然環境や河川,岩石などの自然物に含まれている力であるが,必ずしもそれらに固有の存在ではなく,物から物へと移転しうるとされる。ある戦士が敵を倒せたのは,槍に強力なマナがあったからとされ,酋長がりっぱに役割を果たせるのは,マナを多く所有しているからとされる。したがって人々は強力なマナを獲得するためにさまざまの努力をする。宗教者が超自然力を得るために種々の修行をすることは各地に見られるが,これもマナ観念と関係づけて理解することができよう。
アニマティズム →アニミズム
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マナ」の意味・わかりやすい解説

マナ
mana

宗教的観念の一種で,宇宙に遍在する非人格的,超自然的な力をいう。本来はメラネシア語で「力」の意。 19世紀前半イギリスの人類学者 R.コドリントンによって初めて報告され,のち R.マレット,M.モース,É.デュルケムなどによって探究されて原始宗教の基本的概念となった。マナは人や物に付着して,その人や物に特別の力を与えるものとされているが,それ自体は実体性をもたない。これと同様の力は,諸民族の信仰のなかに広く見出される。このような力を宗教の起源とする説は,アニマティズムあるいはプレアニミズムと呼ばれる。

マナ

マンナ」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「マナ」の意味・わかりやすい解説

マナ

メラネシアの宗教にみられる不思議を起こす超自然的な力。さらに,原始宗教や未開宗教一般にみられる,非人格的な力の観念を意味する。1880年コドリントンR.H.Codringtonが初めて報告し,〈マナは不可思議な力能,戦勝や豊作,降雨もマナによる。マナは定着しないで流出・転移する〉とした。R.R.マレットは従来のアニミズム宗教起源説に対し,宗教の本質たる畏怖(いふ)の情をひき起こすものはマナであるとし,マナ宗教起源説を立てた。
→関連項目メラネシア[人]

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世界大百科事典(旧版)内のマナの言及

【アニマティズム】より

…物が生きているとの観念は,物に霊魂や精霊が宿るとの観念よりもより素朴であり,原初的であると彼は主張した。マレットは自説を裏づけるために,メラネシアやポリネシアの原住民がもつマナmanaの観念を引用した。マナは神秘力で,これが槍に含まれていれば,戦士は敵を倒せるし,ある人がマナをもてば,彼の豚が増えるとされる。…

【アニマティズム】より

…アニミズムが万物に宿り,しかも宿ったものから独立して存在しうる霊魂や精霊に関する観念・信念を意味するのにたいして,アニマティズムは万物を〈生きている〉ととらえる活力・生命力についての観念・信念を指す。プレアニミズム,マナイズム,バイタリズムとも呼ばれる。アニマティズム説を唱えたのはE.B.タイラーの弟子マレットR.R.Marettである。…

【オセアニア】より

…親族関係を規定する出自原理は父系もしくは母系であることが多く,祖先崇拝とこれに関連するさまざまの儀礼が行われていた。生物・無生物を問わず万物に宿る超自然力〈マナ〉の観念が発達し,その獲得を目的として首狩りや食人が行われることもあった。マナの観念はメラネシアにかぎらず,ポリネシア,ミクロネシアにも広く認められる太平洋諸島民の基本的宗教観念である。…

【呪術】より

…特定の物や人間,あるいは人間の行為が超自然的な力をもつとする考え方に基づき,その力を用いて目的を達しようとするものが呪術であるともいえる。一般に神聖で非人格的な力をオセアニアに語源をもつマナという言葉で呼ぶが,M.モースは呪術はそのようなマナの観念と結びついていると主張した。この見解はマリノフスキーによって否定されたが,呪術信仰の背後には,もちろん社会によって異なるが,当該社会で信じられている力の観念があると考えられる。…

【ハワイ[州]】より

…おもに踊手自身が採物として手に持つ音具としては,2本の硬い木片を打ち合わせるカラアウkala’au,小さなひょうたんやヤシ殻の中に小石,種子を入れた羽毛飾つきがらがらとしてのウリーウリーulī’ulī,竹筒を櫛のように細く裂いたささら竹を身体に打ちつけるプーイリpū’ili,2対の平らな石を両手に持ってカスタネットのように打ち合わせるイリイリ’ili’iliがそれぞれ特有の音色により変化に富んだ音響世界をつくり出す。こうした楽器の伴奏による歌唱メレmele,また無伴奏の朗唱風歌唱オリoliにおいては,自然知識,社会生活,恋愛,宗教に関連した歌詞が,ビブラートやグリッサンドの多用により表現力を与えられ,ひいては宇宙的な力すなわちマナを発揮すると考えられていた。多民族社会への移行とともに伝統音楽・舞踊は本来の社会機能から離れはしたものの,パフォーマンスの伝承はある程度進行し,とくに1970年代にはハワイアン・ルネサンス運動に乗って復興されている。…

※「マナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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