改訂新版 世界大百科事典 「伊谷純一郎」の意味・わかりやすい解説
伊谷純一郎 (いたにじゅんいちろう)
生没年:1926-2001(大正15-平成13)
霊長類学者,人類学者。鳥取市生まれ。京都大学名誉教授。京都大学学生時代に野生ニホンザルの生態や社会の研究を始め,宮崎県の幸(こう)島や大分県の高崎山でニホンザルの社会構造や社会関係,コミュニケーションを解明し,人間以外の霊長類に社会的知覚能力が存在することを世界に先駆けて示した。1950年代末にはアフリカでゴリラやチンパンジーの調査を開始し,原猿類から類人猿へいたる霊長類の社会構造の進化を論じた。ルソーの《人間不平等起原論》に対して,原初的平等から先験的不平等を経て条件的平等へといたるヒト化への社会進化を〈人間平等起原論〉として発表。これらの業績により英国王立協会からトーマス・ハックスリー記念賞を受賞。世界最初の霊長類学の国際学術誌《PRIMATES》の創刊に尽力。いく度もアフリカの原野を旅し,狩猟採集民,遊牧民,農耕民を対象にした生態人類学の調査研究を新しく組織した。京都大学にアフリカ地域研究センターを創設し,初代センター長を務め,生態人類学会を立ち上げてその指揮をとった。1992年紫綬褒章,97年勲三等端宝章受章。著書《霊長類社会の進化》(1987)のほか,《伊谷純一郎著作集》全6巻(2007-09)がある。
執筆者:山極 寿一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報