古今伝受(読み)こきんでんじゅ

改訂新版 世界大百科事典 「古今伝受」の意味・わかりやすい解説

古今伝受(授) (こきんでんじゅ)

古今和歌集》に関する秘伝授受。中世の学問芸能では,特に重要な部分を秘伝として伝承することが多かった。歌学においては《源氏物語》や《伊勢物語》などの秘伝が伝えられたが,その中で最も権威をもっていたのが古今伝受である。《古今和歌集》は和歌の規範とされていたため早くからその解釈に説が分かれ,六条家や御子左家(みこひだりけ)など歌道の家々には,それぞれの解釈が秘伝として伝えられていた。室町時代に入って二条家の末流である東常縁(とうのつねより)が,東家に伝わる秘伝のほかに頓阿の流れをくむ尭孝の秘伝をあわせて,いわゆる古今伝受の原型をつくった。常縁はこれを連歌師の飯尾宗祇に相伝し,以後この系統が古今伝受の正当とみなされ尊重されてゆく。この後,宗祇はこれを三条西実隆,近衛尚通(ひさみち),牡丹花肖柏などに相伝し,ここで古今伝受は三流に分かれる。すなわち,実隆と尚通に相伝された古今伝受は,そのまま三条西家,近衛家において受け継がれ家の秘伝となり,肖柏に相伝された古今伝受は,宗訊,宗珀など連歌師に伝えられ堺伝受,奈良伝受となっていった。ところが,三条西実隆の孫実枝は,その子公国と年齢が離れていたため,細川藤孝幽斎)に古今伝受を相伝した。幽斎は三条西家の秘伝のほかに,近衛家の秘伝や堺伝受をも併せ,八条宮智仁(としひと)親王に伝えた。智仁親王はこれを後水尾天皇に相伝し,以後,いわゆる〈御所伝受〉となり,宮中を中心に継承されてゆく。

 このように古今伝受が受け継がれてゆく間,内容とともに相伝方法も継承され,常縁から宗祇への古今伝受にならって次のごとく相伝するのが一般であった。まず秘伝を守ることを誓う誓状を提出してから,講釈が行われる。講釈は仮名序から奥書に至るまで《古今和歌集》の全体にわたり,講釈回数は30回を超えることもあった。和歌の講釈は1首ごとに行われ,歌人伝記と名前の読み方や,難解な語句の説明,和歌の解釈・批評のほか,清濁をはじめとする読曲(よみくせ)も相伝された。弟子は聴講しながら筆記し,講釈終了後に,筆記した聞書を整理して師の校閲を受け,講釈の聞書であることの証明を受けた。その後最奥の秘伝である切紙(三木三鳥(さんぼくさんちよう)など)を授与され,古今伝受が終了する。だが,後世に古今伝受の名が有名になると,古今伝受の主要な部分である講釈を省略して切紙のみを授受したいかがわしい古今伝受も行われ,識者批判を受けたこともあった。
口伝
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の古今伝受の言及

【古今和歌集】より

…醍醐天皇の詔により撰ばれた最初の勅撰和歌集。略称は《古今集》。20巻。古今とは〈いにしえ〉〈いま〉の歌の集の意と,後世の人々が,和歌が勅撰された延喜の時代をいにしえの和歌の聖代と仰ぎ見るであろう,の意を兼ねる。流布本では巻首に仮名序,巻尾に真名(まな)序を付し,歌数は1111首(重出歌1首を含む)。長歌5首,旋頭(せどう)歌4首を含むが,他はすべて短歌。分類は春,夏,秋,冬,賀,離別,羈旅(きりよ),物名,恋,哀傷,雑,雑体(長歌,旋頭歌,誹諧),大歌所御歌とする。…

【三条西実隆】より

…宗祇,肖柏らから《源氏物語》《伊勢物語》などの古典,桃源瑞仙から《東坡詩》などの講釈をうけるなど勉学にはげみ,同好の士を集めて研究会もひらき,先人の研究を集成して実隆自身も《源氏物語》以下日本古典や儒学をたびたび講義した。また宗祇からいわゆる古今伝受(授)(こきんでんじゆ)をうけ,これを子の公条に伝えた。実隆はまた和歌・連歌にもすぐれ,《新撰菟玖波集》の編纂に協力した。…

【性悪説】より

…中国,荀子の倫理説の中心概念。《荀子》の〈性悪篇〉には〈人の性は悪なり,その善なる者は偽なり〉と説く。偽とは,作為のことで,後天的努力をいう。人は無限の欲望をもち,放任しておけば他人の欲望と衝突して争いを起こし,社会は混乱におちいるであろう。放任しておくと悪にむかう人の性,それは悪といわざるをえない。性の悪なる人間を善に導くためには,作為によって規制しなければならない。先王が礼を作ったのは,人の欲望を規制して社会に秩序を確保するためであった。…

【東常縁】より

…室町中期の武将,歌人,歌学者。本姓は平。別称は東野州(とうやしゆう)。法号は素伝。美濃国(岐阜県)の人。代々二条派の歌人であった東家に伝わる歌学を学び,さらに頓阿の流れをくむ尭孝法印に師事して,当時の二条派歌学を集成した。1471年に連歌師宗祇に《古今和歌集》を講釈し,秘説を相伝した。いわゆる古今伝授であり,宗祇が講釈の聞書を整理したのが《古今和歌集両度聞書》である。そのほか,《新古今和歌集》の注釈が細川幽斎により加筆され《新古今和歌集新鈔》となるなど,その説は二条派の注釈書に継承された。…

※「古今伝受」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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