無調音楽(読み)むちょうおんがく

精選版 日本国語大辞典 「無調音楽」の意味・読み・例文・類語

むちょう‐おんがく ムテウ‥【無調音楽】

〘名〙 (atonal music atonale Musik の訳語) 調性をもたない音楽。一九世紀末からの音楽において従来の古典的な調性が次第に崩壊する過程で、二〇世紀初頭シェーンベルク中心に推し進められた。中心音をもたないで、半音がひんぱんに出現し、リズムも非均衡的なのが特色

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デジタル大辞泉 「無調音楽」の意味・読み・例文・類語

むちょう‐おんがく〔ムテウ‐〕【無調音楽】

調性の制約を排除した音楽。20世紀初頭、シェーンベルクが意識的に用いた。→十二音音楽調

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百科事典マイペディア 「無調音楽」の意味・わかりやすい解説

無調音楽【むちょうおんがく】

アトナールatonalともいう。機能和声(和声)によらず,長調短調の調性tonalityを欠いた音楽。西洋音楽において,調性音楽より後のものをさす。オクターブ中の12音がほぼ同じ機能を果たし,特定の中心音をもたないのが特徴。この傾向は調性の極限にまで拡大されたR.ワーグナーの半音階和声にも認められ,F.リスト晩年のピアノ曲には部分的無調が用いられているが,作品全体が無調様式で書かれるのはシェーンベルク以降になる。無調音楽を新たに組織化した十二音音楽も広義の無調音楽に含まれる。
→関連項目ウェーベルンシチェドリンシマノフスキシュトラウスシュナーベルスークティペットトゥビントムソンヒナステラベルクルリエ和音

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改訂新版 世界大百科事典 「無調音楽」の意味・わかりやすい解説

無調音楽 (むちょうおんがく)

広義には中心音をもたない音楽のことで,シェーンベルク,ウェーベルン,ベルクらの1908-10年ころの作品から十二音技法による諸作品,同時期以降のスクリャービンのいくつかの作品,またその後今日に至るまでの,特定の中心音をもたない音楽全般を指す。その意味では,シェーンベルクの十二音技法は無調音楽の理論的組織化といえる。しかし,狭義には特定の音楽様式と結びついた概念で,シェーンベルク,ウェーベルン,ベルクら第2次ウィーン楽派の表現主義時代(1908ころ-25ころ)の音楽を指す。そこでは怪奇な幻想,狂気,孤独などの表現に,強度な緊張力の表出によって機能和声的調性の枠を突き破り,特定の中心音にとらわれない無調様式が確立された。最初の作品は一般にシェーンベルクの《第2弦楽四重奏曲》(1908)の終楽章とされているが,これは無調なのは冒頭の12小節のみであるから誤っている。部分的無調なら,すでにF.リストに認められる。1曲あるいは1楽章全体が無調様式で書かれるのはシェーンベルクの《二つの歌曲》(1908)の第1曲,次いで《ゲオルゲ歌曲集,架空庭園の書》《三つのピアノ曲》(ともに1909)と続く。ウェーベルンも《五つの歌曲》(1909),ベルクは《四つの歌曲》(1910)の終曲あたりから無調様式をとりはじめる。

 無調音楽,表現主義時代の作品には傑作が多く,シェーンベルクの《五つの管弦楽曲》(1909),モノドラマ《期待》(1909),《ピエロ・リュネール》(1912),ウェーベルンの弦楽四重奏のための《六つのバガテル》(1913),ベルクのオペラウォツェック》(1922)などは,無調様式の代表作である。彼らはシェーンベルクの十二音技法の創案とともに,いずれも十二音音楽へ移っていく。

 無調音楽とはその直前まであった調性音楽への反語として用いられた語で,atonal(無調)の〈a〉は〈非〉〈無〉を意味する接頭辞である。したがって今日電子音楽なり不確定性音楽なりが無調であっても,それをことさら無調音楽とは呼ばない。
調性
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「無調音楽」の意味・わかりやすい解説

無調音楽
むちょうおんがく
atonale Musik ドイツ語
atonal music 英語

明確な調性と中心音を感じさせない20世紀初頭の西洋の音楽様式。17世紀、ヨーロッパで成立した調性音楽、つまり七音音階(長音階短音階)と主三和音(主和音、下属和音、属和音)を中心に構成された音楽の体系は、19世紀のロマン主義音楽を通じてしだいに崩壊し、七音以外の音、三和音以外の和音が頻繁に用いられ、いわゆる調性感を失っていった。19世紀後半、晩年のリストの作品や、ワーグナーの楽劇『トリスタンイゾルデ』に先駆的な例がみられるが、その完成者はシェーンベルクである。彼の『月に憑(つ)かれたピエロ』(1912)、『六つの小さなピアノ曲』(作品19、1911)、モノドラマ『幸福な手』(1910~13)、弟子のベルクのオペラ『ウォツェック』(1917~21)、ウェーベルンの『五つの管弦楽の小品』(作品10、1911~13)には、半音、四度構成の和音、非対称的なリズムなどの特徴がみられる。この時期にストラビンスキー、バルトーク、ヒンデミットらもやはり無調的作品を発表している。さらにシェーンベルクは1920年の『五つのピアノ曲』(作品23)で「組織的無調音楽」ともよばれる十二音技法を打ち出し、20世紀音楽に新たな一歩を残した。

[細川周平]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無調音楽」の意味・わかりやすい解説

無調音楽
むちょうおんがく
atonal music

機能和声に基づかない音楽。後期ロマン派時代に部分的には調性の曖昧な音楽が生れたが,この方向を一層進めて,楽曲全体を無調で作曲する試みが,20世紀初頭 A.シェーンベルクらによって始められた。3度構成など機能和声を想起させる音型を避けて,4度構成の和音や 12半音を集中的に使用したりした。調性の枠をはずすことによって自由にはなったが,いずれも機能和声からの逃避という消極的なもので,楽曲の大規模な統一,構成の点で欠点が多かった。これらを克服するものとして,やがてシェーンベルクは,12音技法を創始し,統一のある構成法を導入した。そのため 12音技法は「組織化された無調」とも呼ばれる。広義には 12音技法も無調音楽であるが,一般には,この流れのなかで,1910~20年代頃の12音音楽への過渡期の音楽のみを無調音楽という。

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世界大百科事典(旧版)内の無調音楽の言及

【音楽】より

…それはR.ワーグナーの楽劇における半音階の多用によって,また一方ではドイツ・ロマン派の過度な感情表出に反対して外界の印象を直観的に音で形象化しようとしたドビュッシーが,教会旋法や全音音階を導入し,和音の機能的関連を否定して個々の和音の独立的な色彩価値を重要視したことによって生じた。20世紀にはA.シェーンベルクが調性を全面的に否定して無調音楽を書き,それを組織化して12音の音列技法を創始した。弟子のA.ウェーベルンがそれをさらに徹底させたのち,第2次世界大戦後は音高以外の要素もセリー化するセリー音楽が生まれた。…

【半音階】より

…ことにワーグナーの,解決されないまま次々と転調していく〈トリスタン和声〉は有名である。しかし,極端な半音階主義は調性組織に基づく機能和声の危機を招来し,20世紀初頭の無調音楽へと行き着いた。そこに新しい秩序を生み出すべく考案された十二音技法では,オクターブ内のすべての12音に等価の意義が与えられたが,ここにいたって,全音階と半音階の区別そのものが意味を失うことになった。…

※「無調音楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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