籠釣瓶花街酔醒(読み)カゴツルベサトノエイザメ

デジタル大辞泉 「籠釣瓶花街酔醒」の意味・読み・例文・類語

かごつるべさとのえいざめ〔かごつるべさとのゑひざめ〕【籠釣瓶花街酔醒】

歌舞伎狂言世話物。8幕20場。3世河竹新七作。明治21年(1888)東京千歳座初演吉原百人斬り事件に取材したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「籠釣瓶花街酔醒」の意味・読み・例文・類語

かごつるべさとのえいざめ ‥さとのゑひざめ【籠釣瓶花街酔醒】

歌舞伎。世話物。八幕。三世河竹新七作。明治二一年(一八八八)東京千歳座初演。野州佐野の絹商人、次郎左衛門は、吉原の花魁(おいらん)八ツ橋を見初めて通いつめるが、愛想づかしをされたため、名刀籠釣瓶で八ツ橋以下大勢の人を斬り殺してしまうという、いわゆる吉原百人斬りの事件を脚色したもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「籠釣瓶花街酔醒」の意味・わかりやすい解説

籠釣瓶花街酔醒 (かごつるべさとのえいざめ)

歌舞伎狂言。世話物。8幕。3世河竹新七作。通称《籠釣瓶》。1888年5月東京千歳座初演。配役は佐野次郎左衛門を初世市川左団次,八ッ橋を中村福助(のちの5世中村歌右衛門)等。佐野八橋物の一つ。先行作に《青楼詞合鏡(さとことばあわせかがみ)》《杜若艶色紫(かきつばたいろもえどぞめ)》などがあるが,本作は講釈種によった明治期の世話狂言で,いわゆる吉原百人斬をまともに劇化した作品。通行上演では5幕以降が行われる。現在は上演されないが,主人公次郎左衛門の父次郎兵衛が,女乞食を惨殺したたたりと,妖刀籠釣瓶を入手するいきさつが前半部分にある。〈見染め〉〈縁切〉〈殺し〉というパターンが典型的に描かれ,八ッ橋役は〈見染め〉で花道における艶然たる笑みの演技,さらに〈縁切〉での愛想づかしの肚芸(はらげい)的な演技と,しどころが多く,次郎左衛門役はこれに対しやや辛抱立役に描かれている。次郎左衛門は下男治六を連れ,商用ではじめて江戸へ上り,吉原へ足を運び,全盛の花魁兵庫屋の八ッ橋の道中姿を見て魂を奪われる。吉原へ通いつめた次郎左衛門は,八ッ橋身請の下相談まで調える。八ッ橋の親判(おやはん)をしている権八は八ッ橋の情夫の繁山栄之丞をたきつけ,八ッ橋に縁切を迫る。八ッ橋の愛想づかしにあった次郎左衛門は,やむなく佐野に帰る。次郎左衛門は八ッ橋殺害の決意をして,財産を整理し,籠釣瓶の一刀を携えて江戸へ引き返す。八ッ橋に恨みを述べて責めたうえ,次郎左衛門は妖刀の魔力によって八ッ橋をはじめ権八,栄之丞らを斬殺,やがて縛につく。初世左団次以来,2世左団次,初世中村吉右衛門らの当り芸となり,また八ッ橋役も5世歌右衛門から6世歌右衛門へと継承されて,しばしば上演されている。醜い面貌の田舎者が衆人のなかで恥をうける悲哀が,ドラマとしての近代的な共感を得て,明治期世話物の代表作の一つとして評価される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「籠釣瓶花街酔醒」の意味・わかりやすい解説

籠釣瓶花街酔醒
かごつるべさとのよいざめ

歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。8幕。3世河竹新七作。1888年(明治21)5月、東京・千歳座(ちとせざ)で初世市川左団次の次郎左衛門、5世中村歌右衛門(うたえもん)(当時福助)の八ツ橋により初演。享保(きょうほう)(1716~36)の「吉原百人斬(ぎ)り」事件を講談から脚色。題名の「籠釣瓶」は、次郎左衛門が八ツ橋を殺す村正(むらまさ)の刀の名で、水もたまらぬ切れ味の意。現在では、原作の五幕目にあたる「仲の町見染め」、六幕目の「縁切り」、大詰の「殺し」の計3幕が多く上演される。野州佐野の絹商人次郎左衛門は、江戸吉原で道中姿の花魁(おいらん)八ツ橋を見染め、通いつめたあげく身請けしようとするが、八ツ橋は情夫繁山栄之丞(しげやまえいのじょう)に責められ、満座のなかで次郎左衛門に愛想づかしをする。悲憤の次郎左衛門は故郷へ帰り、家伝の村正の刀を携えふたたび吉原へきて、八ツ橋はじめ多くの人を殺傷する。「見染め」の八ツ橋の艶然(えんぜん)たる笑いと、「縁切り」の次郎左衛門の恨みを述べる「花魁、そりゃあんまり袖(そで)なかろうぜ……」以下の長台詞(ながぜりふ)が眼目。次郎左衛門は初世中村吉右衛門の得意芸で、これを8世松本幸四郎(白鸚(はくおう))と17世中村勘三郎が継承、八ツ橋は6世歌右衛門の当り芸であった。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「籠釣瓶花街酔醒」の意味・わかりやすい解説

籠釣瓶花街酔醒
かごつるべさとのえいざめ

歌舞伎狂言。世話物。8幕。3世河竹新七作。1888年4月東京千歳座初演。享保年間(1716~36)に吉原で起こったいわゆる吉原百人切りの事件を脚色したもので,講談から劇化した作品。野州佐野の絹商人次郎左衛門(1世市川左団次初演)は,瘡毒の妻を殺した父次郎兵衛の因果で痘面(あばたづら)となる。吉原で見そめた花魁(おいらん)八ツ橋に愛想尽かしをされ,都築武助という武士の形見の妖刀籠釣瓶で,八ツ橋はじめ間夫(まぶ)繁山栄之丞らを斬殺する。見そめ,愛想尽かし,殺しが見どころ。通常 5幕目の「吉原仲之町見染の場」から上演される。(→歌舞伎

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世界大百科事典(旧版)内の籠釣瓶花街酔醒の言及

【河竹新七】より

…脚色物に機知と趣向の才を生かし,洒脱と速筆でも知られた。代表作に《籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)》(1888年千歳座)はじめ《塩原多助一代記》《怪異談(かいだん)牡丹灯籠》《江戸育御祭佐七》など。【河竹 登志夫】。…

※「籠釣瓶花街酔醒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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