編む(読み)アム

デジタル大辞泉 「編む」の意味・読み・例文・類語

あ・む【編む】

[動マ五(四)]
糸・竹・とう・針金・髪などを互い違いに組み合わせて、一つの形に作り上げる。そのようにして、ある物を作り上げる。「藺草いぐさでござを―・む」「髪をお下げに―・む」
いろいろの文章を集めて書物を作る。編集する。「論文集を―・む」
計画を組み立てる。編成する。「日程表を―・む」
[可能]あめる

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「編む」の意味・わかりやすい解説

編む
あむ

「編む」というと、毛糸編を連想し、セーターテーブルクロスのようなものがすぐ頭に浮かぶが、歴史的、文化的に眺めると、かならずしも単純なものではない。日本語で「編む」といえば、細長い素材を用いて打ち違えにしたり、合わせ組んだりして、衣類、家具、容器、漁猟具などをつくることを意味する。「編む」作業に近似していることばとして、「組む」、「織る」という作業がある。「組む」は、単独動作で成り立ち、一般には堅(硬)い素材を使い、製品は厚く立体的なものとなるのに対し、「編む」のほうは柔軟なものを使う。

 一方、「編む」と「織る」との区別も厳密にはむずかしいが、「編む」は手だけの作業か、またはおもりか編み台ぐらいまでの道具しか使わない作業であるのに対し、「織る」では筬(おさ)、杼(ひ)、綜絖(そうこう)などの機(はた)を使って作業を行う。それでは莚(むしろ)は「編む」「織る」のどちらでつくられるのかというと、材料や製品は編物的であるが、製作工程で筬と、杼に相当する刺(さ)し手が使われるので、織物として分類することができる。このように製品をみただけでは、編む、組む、織るの区別はむずかしい。しかし、製品をつくる手順や技法はまるで違う。この三者の技術史上からの始源順については、大筋としては、(1)組む、(2)編む、(3)織る、と考えられよう。

川國男]

編む作業

編むことの意義は、細長い素材が自在な形や大きさに組み広げられることにある。形や大きさは用途に応じて決まり、編み方や対象物によってバリエーションがある。編む作業の種類、技法にはおおよそ次のようなものがある。

〔1〕からみ編 編物のなかでもっとも原初的な編み方の一つで、日本はもちろん世界に広く分布している。経(たて)材と緯(よこ)材とを固定するために、つるや紐(ひも)、革などを絡ませていくやり方で、てご(背負い袋)や、ねこ莚などは、この編み方でつくられる。

〔2〕とぐろ巻き編 日本でも古くから出現しているもので、とくに北アメリカ大陸で発達した。なかでもインディアンの編み目のつんだバスケットは精彩を放っている。編み方は、二つの要素、すなわち、とぐろcoilと、縫い合わせsewingまたはくるみかけwrappingの細紐(ひも)stripからなっている。多くの場合、イネ科やイグサ科の茎や葉を束芯(たばしん)にして、螺旋(らせん)状に巻き上げながら、下から追うようにして、経糸であるべき細紐で縫い合わせたり、締め固めたりする。わが国では東北地方のえじこ(赤子入れ)や、飯櫃(めしびつ)を入れておくおひつ入れなどが、この編み方でつくられる代表例である。

〔3〕二子(ふたご)編 双子編とも書く。俵(たわら)編、簾(すだれ)編、簀子(すのこ)編、もじり編などが、二子編の代表的な編み方である。北海道(アイヌ)を含む日本全国、朝鮮半島にみられる。細長い編み台(枠)を使い、この編み台に緯材(糸)を置き、経材(糸)は、細糸を巻き付けたこもづち(おもり)2個を、前後に動かしながら編んでいく。

〔4〕籠(かご)編 籠の代表的な編み方で、編材としては普通、タケ科の素材が多く使われ、縦、横同厚、同幅である。この編み方は編み目のすきまを大きくあけているのが特徴で、その形から四つ目籠、六つ目籠、八つ目籠などがある。製品としては草やクワ取り用、いも入れ用などの籠が多い。日本列島から台湾にかけて多く行われている。用途に応じた形や意匠的な効果を出すためには、ほかの編み方、たとえば、ざる編、網代(あじろ)編、麻の葉、松葉、青海波(せいがいは)、目潰(めつぶ)し、筏(いかだ)などを併用して、1個の籠を編み上げるのである。

〔5〕ざる編 籠編に似ているが、経、緯を明確化して編むのが異なる。幅広の経材(たてひね)を固定し、細い緯材(よこひね)をくぐらせたり越えさせたりして編む。織物でいえば平織に相当する。製品は籾(もみ)入れざる、みそ漉(こ)し、餡(あん)漉しざるなど浅い入れ物が多く、用途もまちまちである。

〔6〕網代編 タケ、アシ、またはヒノキなど薄く削ったものを、斜めまたは経、緯に編む手法である。ひね(経材、緯材)はみな同幅で、編み目のすきまがない。ひねのくぐらせ方、越え方、ずらし方によって、いろいろな柄(がら)が編み出される。織物でいえば綾(あや)織に相当する。敷物、天井、扉、垣、笠(かさ)、籠などによく用いられる。

〔7〕網編 正確には網結(す)きという。細紐または糸、針金を網針(あばり)に巻き付け、網目板に回しては上または隣の糸に結び目をつくりつつ、菱(ひし)形に編み進めていく。製品としては数百メートルにも及ぶ漁網、うさぎ網、かすみ網、編み袋がある。

〔8〕三つ編 代表例は女の子の長髪を編むときの方法である。「組む」との境目にある。

〔9〕毛糸編 この編み方は、次のレース編とともに、1本の糸を素材として輪をつくっては絡ませることに最大の特徴がある。中近東からヨーロッパにかけて高度な発達がみられた。毛糸は極太(ごくぶと)、並太、中細、極細、起毛用毛糸の5種に大別でき、編み具として、かぎ針、棒針、アフガン針などがある。かぎ針を用いる編み方には、基本となる鎖編、その応用編としての細編(こまあみ)、長編、長々編などがある。棒針編は、棒針と指を使って編み糸を編み目に突き込んだり抜いたりする編み方で、これには表編と裏編とがある。多くの場合、表編と裏編を交互に組み合わせて編む。製品としてセーター、帽子、マフラーショール、靴下などがある。

〔10〕レース編 古代エジプトにもあったが、現代風のものはルネサンス以降ヨーロッパから全世界に伝播(でんぱ)した。編み方には、漁網に似たフィレレース、布地の織糸を抜き取って透かし模様を表す刺しゅうを用いたドロンワークレース、図案の周囲をかがり、中の布地を切り取るカットレース、針を使って図柄を精巧に透かし編みするニードルメードレースなどがある。製品としてカーテン、テーブルクロス、手袋、毛髪用ネット、衣服の縁飾りなどがある。

川國男]

語源

「編む」の語源は、粗目(あらめ)を動詞形にしたとする説(『和訓栞(わくんのしおり)』1777~1877。大矢透『国語溯源(そげん)』1889)と、合わせ結ぶを短縮化したとする説(松永貞徳『和句解(わくかい)』江戸前期。『俚言集覧(りげんしゅうらん)』江戸後期)などがある。中国語で「編」は、ピエンpianと発音し、意味は「竹簡(ちっかん)(竹に書いた文書)をとじ連ねる。ふみ。とじいと。綾織。戸籍に編み連ねる」とある。日本語で本を編集することや、ばらばらになっているものを組織、編成することを「編む」というのは、中国語からの借用である。

 英語では、編む素材や製作対象物によって「編む」という意味のことばを次のように使い分けている。basketry(籠細工)、coil(とぐろ巻き編)、knit(毛糸を編む)、lace(レースを編む)、plait(莚や髪を編む)、twine(花輪などを編む)、wickerwork(枝編み細工)など。しかし、日本語の「編む」のように、これらを統括するような広い意味のことばはない。

川國男]

歴史

人間が「編む」技術を獲得したのは旧石器時代で、石器を木の柄(え)に縛り付けることから考え出されたといわれている。

 現在最古の編物の出土品として知られるのは、アメリカ、ユタ州のデインジャー洞窟(どうくつ)からのマット、籠、網などがある。中石器時代から新石器時代の北欧の泥炭層遺跡やスイスの湖沼遺跡からも網や小枝を編んだ筌(うけ)(籠に似た漁具)が、また中近東の遺跡からは莚や衝立(ついたて)などが発見されている。毛糸編やレース編は、新石器時代の終わりごろから青銅器時代にかけて、中近東やヨーロッパで衣服や掛物のために始まったと推定される。世界の編物の基本形は、ほぼ石器時代に出そろったことになる。「編む」技術が最初に登場したのは、道具製作の分野であり、ついで漁労、狩猟にも広がり、次に運搬用入れ物、住居、衣服の分野などに逐次発達していったとみられる。また同一分野内でも、たとえば、魚取り用の簗(やな)はからみ編で平面的につくられているが、筌はこれが発達して二子編で筒形につくられたものである。網は筌に柔軟性をつけ、投げやすく沈みやすいように発達した漁具である。この場合、編む材料も、細幹+つる・草―→小枝・篠竹(しのだけ)+草木の繊維―→撚(よ)った草木の繊維 へと変わっていった。

 日本でも、縄文時代の前期から編物の存在が確かめられている。福井県鳥浜貝塚の出土品には、三つ編、籠編、ざる編、網代編、二子編などの入れ物、敷物、漁網など30点がある。青森県是川(これかわ)遺跡(縄文晩期)などからは、籃胎(らんたい)漆器とよぶ、漆をまぶした籠も出土している。大阪府山賀(やまが)遺跡出土の筌や、松山市古照(こでら)遺跡の柵(しがらみ)遺構は、弥生(やよい)時代の「編む」技法を伝える資料である。

 古墳時代の変わったものとしては、埼玉県池守(いけもり)遺跡の編み台、静岡県焼津(やいづ)市出土の草鞋(わらじ)などがある。奈良時代では正倉院宝物の華籠(はなかご)、麻布の墨絵にみえている漁網などが有名な資料である。平安時代の編物の代表は、絵巻物に描かれた貴族の邸宅の御簾(みす)であろう。鎌倉時代では『一遍上人(いっぺんしょうにん)絵伝』に描かれている編衣(あみぎぬ)があるが、このような二子編の衣(ころも)は、秋山郷(新潟・長野県)では明治以降まで着られていた。

 民俗資料のなかでおもな例をあげれば、飛騨(ひだ)や秩父(ちちぶ)などで「ねこ」と称された藁(わら)製の莚、雪国の深沓(ふかぐつ)、山形県地方のバンドリなどに、「編む」技術の実用性と美の極致をみいだすことができる。

 西洋流の毛糸編やレース編が日本に普及し始めたのは、江戸時代末期の開港以降である。この編み方が、日本の在来の編物と根本的に異なるのは、日本の編物が2本以上の原体を編み込んでいくのに対し、1本の糸を棒針やかぎ針を使って編むという点にある。

 世界の「編む」文化の中心的な地域は、東南アジアから日本にかけてである。モンスーン地帯に自生する草やつる、木やタケなど、豊富な素材を利用した、からみ編、籠(かご)編、網代(あじろ)編などで、製品の種類も多い。そのなかで日本の編む技術は、籠や背負い網袋(すかり)、網など、編み目のある製品や、ひのき笠のようにそいだ木の薄皮を素材として編んだ製品、稲藁(いねわら)を駆使した各種の藁細工などが、とくに発達を遂げたといえよう。その特色は、編み方の変化に富んでいること、編み方に不規則なずらしがあること、精巧・上品な編み方と製品があること、などがあげられる。これは日本人の頭脳の柔軟性とも無関係ではないといわれている。

川國男]

『中村たかを著『日本の民具』(1981・弘文堂)』『W・ジェームス他著、平田寛他訳『技術の歴史 2』(1962・筑摩書房)』


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