関税(読み)かんぜい(英語表記)customs duties

精選版 日本国語大辞典 「関税」の意味・読み・例文・類語

かん‐ぜい クヮン‥【関税】

〘名〙 (国境、または、ある境界線の通過に対して課される税の意)
① 外国から輸入する品物に対して課する税。税関で徴収する。国境税。
米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉五「輸出品には関税なし」
② 中世、諸侯や都市が財源を得るために徴収した通過税、城門税などの国内税。

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デジタル大辞泉 「関税」の意味・読み・例文・類語

かん‐ぜい〔クワン‐〕【関税】

貨物が経済的境界を通過するときに課せられる租税。現在の日本では、外国からの輸入品に課する輸入税をいい、財政収入と国内産業の保護を目的とする。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「関税」の意味・わかりやすい解説

関税
かんぜい
customs duties

国境を越えて取引される商品に課せられる税金。自国を通過する商品に課せられる通過税、外国への輸出品に課せられる輸出税、外国からの輸入品に課せられる輸入税がある。このうち通過税は、通過貿易の諸利益、つまり取扱い手数料、運賃、保険料、保管料、艀賃(はしけちん)などを失うことになるので、19世紀の後半ごろより各国でしだいに廃止されていった。また輸出税も、課税分だけ輸出品価格を高め、国際競争力を弱めて輸出を阻害することになるので、現在では財政収入を維持しようとする国以外はこれを廃止している。イギリスでは輸出税を1845年に、日本でも1901年(明治34)に廃止している。したがって今日では、関税は輸入品に課せられる税金、すなわち輸入関税という意味で使用されている。

[田中喜助・前田拓生 2024年1月18日]

関税の機能

関税の機能としては、国家財政における収入機能(財政関税)と国内産業保護機能(保護関税)の二つの側面から議論されることが多い。

 前者は関税の徴収により財政収入をもたらすという機能である。このような収入機能を主目的とする関税を財政関税または収入関税という。主要な財源を他に求めることが困難であった時代には、関税は税制のなかで主要な地位を占めていた。たとえば、19世紀前半ごろ(1800~1860)のアメリカにおいて歳入に占める関税収入の割合は約85%であった。その後、国民経済が発展するにつれ、先進国は生産活動により生ずる所得に財源を求めるようになったため、関税の財源調達手段としての役割は低下してきた。実際、日本でも国税収入に占める関税収入の割合は約1.3%(2021年度決算ベース)と非常に低い状態になっている。とはいえ、開発途上国では現在でもなお関税を財源確保の重要な手段としているところもある。

 他方、関税が課せられると、輸入品の国内価格は上昇し、輸入量は減少する。そのためコストが高くて輸入品と対等に競争できなかった国産品の生産を増大させうる。このような関税の効果を国内産業保護機能という。また、この機能を主たる目的として競争輸入品に課せられる関税を保護関税という。これには幼稚産業を保護し育成しようとするもの(育成関税)と、既存産業を保護し維持しようとするもの(維持関税)とがある。

 しかし、国内産業が過度に保護されると不公正な貿易が横行するようになる。そのため、貿易歪曲(わいきょく)効果を有する措置への対抗策として関税が用いられる場合がある。たとえば、アンチ・ダンピング協定(ガット〈GATT、関税および貿易に関する一般協定。世界貿易機関=WTOの前身〉第6条の実施に関する協定)において、ダンピングが行われていると認められる場合にアンチ・ダンピング関税によりその是正を図る場合などである。このような場合に用いられる関税の機能のことを貿易歪曲効果是正機能(制裁機能)という。

 関税には以上のような機能があるものの、関税賦課は世界経済全体の公正性を低下させる可能性をはらむことから、1947年以来、ガットのもとで、ケネディ・ラウンド、東京ラウンド、ウルグアイ・ラウンドなどの数次にわたる各国の関税交渉により、実行関税率が逐次引き下げられてきた。その結果、日本の鉱工業品の実行関税率(貿易量加重平均)は1.5%となり、アメリカ3.5%、ヨーロッパ連合(EU)3.6%、カナダ4.8%と比較しても相対的に低い水準となっている。とはいえ、農産品をはじめとする分野では、各国で高関税のまま維持されている品目も依然として存在している。

[田中喜助・前田拓生 2024年1月18日]

国定関税と協定関税

日本の関税制度は主として関税3法、つまり関税法(昭和29年法律第61号)、関税定率法(明治43年法律第54号)、関税暫定措置法(昭和35年法律第36号)、および外国との関税に関する条約により運営されている。関税法は関税の納付や徴収、保税地域(関税の徴収が留保されている地域)の運用、輸出入貨物の通関など一般関税行政に関する事項を規定している。関税定率法は関税率、課税標準、報復関税や不当廉売関税などの特殊関税、関税の軽減、免除または払戻しなどについて規定している。関税暫定措置法は関税法および関税定率法の特例法として、現在の産業や経済の変動に対応して一定期間、暫定的に適用される関税率、関税の減免および戻し税、特恵関税などを規定している。

 関税は関税法第4条により輸入者の輸入申告に基づき税関に納付される。その場合に適用される税率を関税率という。関税率には、国内法によって定められた国定税率(基本税率、暫定税率、特恵税率等)と条約で約束された協定税率がある。

 日本の国定税率は関税定率法と関税暫定措置法によって定められている。このうち関税定率法で定められているものを基本税率、関税暫定措置法によるものを暫定税率という。また、関税暫定措置法では特恵税率、つまり開発途上国など特定の国との貿易を発展させるために、それらの国からの輸入品に対してのみ適用される一般より低い関税率を定めている。他方、協定税率は、WTO協定において譲許された税率のほか、経済連携協定(EPA)交渉の結果に基づき二国間・地域間において適用されるEPA税率がある。

 以上、基本税率、暫定税率、特恵税率、協定税率のうちの一つが輸入品に対して適用される。この税率のことを実行関税率という。実行関税率は次の適用順位により決定される。すなわち、特恵税率の適用を受ける場合を除き、原則として協定税率、暫定税率、基本税率の順で適用される。ただし、協定税率が他の税率より高い場合は、暫定税率または基本税率が適用される。

[田中喜助・前田拓生 2024年1月18日]

関税率表

実行関税率に係る関税賦課では関税率表が基準となる。関税率表は関税分類番号(物品ごとに割り当てられている)と関税率(関税分類番号に対応している)からなっている。ここで各国が自国に有利になるように恣意(しい)的に関税分類の運用がなされれば、関税率の引き下げ交渉が事実上無効化してしまうことから、関税分類は非常に重要な意味をもつ。

 関税分類については、1988年に関税協力理事会Customs Co-operation Council(CCC。通称は世界税関機構World Customs Organization:WCO)において「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約」International Convention on the Harmonized Commodity Description and Coding System(HS条約)が策定され、2023年時点で160か国・地域およびEUが加盟している。なお、本条約に未加盟であっても、実質的に導入をしている国を含めると200か国・地域で国際貿易の98%を超える取引に及んでいる。

 また、HS条約では、自国の関税率表のほか、輸出入統計品目表もHS条約附属書の品目表(HS品目表)に適合させることとされているので、日本の関税定率法、関税暫定措置法の別表および輸出入統計品目表も、これに適合している。

 なお、HS品目表は「社会的な要請を受けた品目の項・号の新設、変更」「技術革新を反映した項・号の新設、変更」「貿易が増加した品目の特掲」「貿易が減少した品目の削除」「分類明確化のための技術的な変更」等の理由によって、これまで1992年、1996年、2002年、2007年、2012年、2017年、2022年に改正が行われている。そのなかで2007年にはとくに技術革新が目覚ましいIT(情報技術)関連機器等について新しい分類を設けるなどの改正が行われた。

[前田拓生 2024年1月18日]

従価税と従量税

関税は、税額算定の基準、つまり課税標準を価格に置くか数量に置くかによって従価税と従量税に分けられる。関税定率法第3条には「関税は、輸入貨物の価格又は数量を課税標準として課するものとし、その税率は、別表による」と規定されており、前記の国定関税と協定関税は、すべて品目に応じて従価税や従量税、または、それを組み合わせた形態の関税率で表示されている。

 日本において品目数でもっとも多く使用されている関税率の形態は従価税である。従価税の場合には課税標準となる価格、つまり課税価格の決定がたいせつとなる。これには輸入港における価格、輸出港における価格、法定価格(課税価格を法律で決める)などがある。日本では、「ガット第7条の実施に関する協定」(1980発効)により輸入港における価格を適用している。実際にはCIF価格(発送価格に輸入港までの運賃、保険料を加算したもの)がこれにあたり、この価格に従価税の税率を乗じたものが、その輸入品の関税額となる。

 他方、従量税は輸入品の数量(個数、重量、容積など)だけを確定すればよいため、行政面では便利であるが、品質や加工度の格差が大きく、それに応じて価格の相違する商品については税負担が不公平になる。これに対して従価税は輸入価格に比例して課税されるから、税負担は公平になる。また、輸入品の価格変動に連動して関税額も変化するのでインフレに対応できるなどのメリットがある。しかし逆に、同種で同質の輸入品であっても運賃などの相違によって関税額が異なるなどの問題があるほか、輸入品の価格が低くなるほど関税額も低くなるので国内産業保護という機能が薄れるというデメリットもある。そのため、現在では多くの国が、この二つの税率をそれぞれ妥当な物品に使い分けており、さらに混合税などを補助的に用いたりしている。混合税は従価税と従量税とを組み合わせたものであり、これには選択税と複合税がある。選択税は同一の商品について従価税と従量税の両方を定め、いずれか税額の高いほう、または低いほうを課税するものである。現在日本では、毛織物、卵黄、魚油、鉛合金の塊などについて適用されている。複合税では、同一の商品について、従量税と従価税とを結合、つまり前者の税額に後者の税額をプラスまたはマイナスしたものを課税する。現在日本では一部の乳製品について適用されている。なお、一部の綿織物には、従価税と複合税との選択税が適用されている。

[田中喜助・前田拓生 2024年1月18日]

特殊関税と特定物品への関税形態

特殊関税は、特別な事情のある場合、一般の関税のほかに課せられるものである。これには国内産業の保護を目的としたものとしてダンピング防止税(日本では不当廉売関税という)、相殺(そうさい)関税、緊急関税があり、外国の措置への対抗を目的としたものとして報復関税、対抗関税などがある。また関税には、特定の物品について適用されている特別な形態のものがある。これには季節関税、差額関税、スライド関税、関税割当がある。関税は通常、輸入される時期に関係なく、同一の従価税や従量税が課せられる。しかし果実産業を保護するために、国産品が出荷される季節には、これと競合する輸入品に高い関税を、その他の季節には低い関税を課すことがある。このように、季節によって課す関税が異なるものを季節関税という。日本ではバナナ、オレンジ、グレープフルーツの輸入に適用されている。差額関税は、行政当局が定める基準輸入価格と輸入品の課税価格との差額を税額とするものであり、国内の生産者保護と価格安定を目的としている。日本では豚肉の輸入自由化を実施したとき(1971)に採用している。

[田中喜助・前田拓生 2024年1月18日]

日本の関税政策

関税政策は、輸入制限とは異なり、価格メカニズムの作用に基づき輸出入を調整するものである。第二次世界大戦後に通商秩序の確立を意図してつくられたガットが、輸入の量的制限を否定し、関税の引下げを意図しているものの、その除去を規定していないのは、関税政策が価格メカニズムに即した保護政策であるからにほかならない。日本の貿易は戦後、GHQ(連合国最高司令部)の管理下に置かれ、民間貿易が再開されたのは1950年(昭和25)からであった。この新しい事態に対応して関税を大改正(1951)し、これまで従量税中心であった関税率体系を従価税中心のものとした。それは、従量税が定額税であり、戦後の急速なインフレによりほとんど無力化したためである。1955年にはガットに正式加盟したが、国際収支上の理由による輸入制限を継続していたため、関税の機能を十分に発揮する態勢には至らなかった。

 しかし1960年代に入って、輸入自由化の時代になると、これまで外国為替(かわせ)予算制度(外貨の使用を予算で決められた枠内に抑えることにより輸入などを制限する制度で、1964年に廃止されている)による輸入管理の背後に隠れていた関税政策の役割がふたたび重視されるようになってきた。西欧主要諸国は1958年末における通貨の交換性回復を契機として、開放体制の時代に入っていた。このような事情を背景として、日本も貿易為替自由化促進計画を決定し(1960)、自由化の基本方針を明らかにした。これに対応してふたたび関税を大幅に改正(1961)した。この改正では自由化対策として関税水準が全面的に再検討され、国際競争力の弱い機械、金属、化学製品や農産物などの関税率は引き上げられた。このときの税率は、原材料には低く加工度の高い商品ほど高くする(このような傾斜的な関税率体系をタリフ・エスカレーションという)、生産財に低く消費財に高くする、などの原則により設定されている。また、この改正では、原油、大豆などを従量税の適用品目とするとともに混合税を採用した。

 1960年代後半にはケネディ・ラウンドによる世界的規模における関税の一括引下げ交渉が妥結(1967)している。日本ではその成果(1968年から5か年間に平均35%の関税引下げ)を1968年7月から段階的に実施し、規定より早く1971年4月までに引下げを完了している。

 1970年代には、日本は重化学工業を中心とする加工貿易国としての地位を確立した。それとともに国際収支は、経常収支の黒字、資本収支の赤字という先進国型のパターンへ移行している。とくに貿易収支の黒字幅は1970年から1973年にかけて大幅な増大を示した。その過程で対内的には公害など生活環境の悪化、対外的には貿易摩擦に直面してきた。そのため従来の産業重視と輸出優先・輸入節約の経済政策から、産業と福祉の調和、協調的通商関係の維持の経済政策に転換していくことが必要となった。このような事情から、日本は1972年11月に総合的対外経済政策(いわゆる第三次円対策)の一環として、鉱工業品および農業加工品の関税率を原則として一律20%引き下げるという思いきった措置をとった。また、1970年代には先進18か国により特恵関税制度が実施されているが、日本では同制度を1971年から発足させている。

 1970年代から1980年代にかけての特筆すべき事項として、東京ラウンド交渉の妥結と実施がある。この交渉は1973年から正式に開始され、当初1975年中に完了することになっていた。しかし、第一次オイル・ショックの発生およびそれによって引き起こされた世界的なインフレの加速化、国際収支の悪化、景気後退を背景にした保護主義の台頭により交渉は予定より大幅に遅れた。1979年になって、ようやく主要国間で実質的交渉が妥結し、日本およびアメリカ、EC(ヨーロッパ共同体)などは1980年から鉱工業製品について平均30%以上の関税引下げを実施している。さらに、1986年に開始され、1994年に合意されたウルグアイ・ラウンドでは、鉱工業製品について平均40%の関税引下げのほか、農作物輸入規制の緩和、サービス貿易や知的財産権に関するルールの導入などの成果が得られた。

 このような累次のラウンドによって、各国の関税がしだいに低下していったが、一方でガット体制の枠外で地域貿易協定が結ばれるようになった。加えて、ガットによる貿易ルールはおもにモノを対象にしていたが、国際貿易においてはサービスの比重が高くなってきていた。そこで、ガットを拡大・発展させる形で、新たな貿易ルールをつくるとともに、このルールを運営する国際機関として、1995年にWTOが設立された。

 2022年時点では、WTO加盟国は164の国・地域となっている。WTOは多角的な貿易を規律する世界の貿易システムの基盤として、(1)交渉(ラウンド交渉などによるWTO協定の改定、関税削減交渉)、(2)監視(多国間の監視による保護主義的措置の抑止)、(3)紛争解決(WTO紛争解決手続による貿易紛争の解決)といった機能がある。また、WTOでは、加盟国が交渉(ラウンド)を通じて相互に関税を引き下げていくことを目ざしており、WTO協定の目的は、市場経済原則によって世界経済の発展を図ることである。したがって、WTO協定はこの目的に寄与するため、貿易障壁の軽減と無差別原則の適用のために締結される、相互的かつ互恵的な取決めとされている。そして、貿易障壁の軽減と無差別原則の考え方を具体化するために、(1)最恵国待遇原則、(2)内国民待遇原則、(3)数量制限の一般的廃止の原則、(4)合法的な国内産業保護手段としての関税に係る原則、という四つの基本原則がある。ここで(1)と(2)が無差別原則、(3)と(4)が貿易障壁の軽減にあたる。

 日本は自由貿易によって恩恵を受けてきたことから、長年にわたって「GATT/WTO多国間貿易体制」に軸を置いてきた。しかし、WTO交渉で採用された二つのルールメーキングの方式((1)コンセンサス方式、(2)一括受諾方式)が障害となり、2001年に立ち上がったドーハ・ラウンドにおいては、先進国と開発途上国の利害対立が解けずたびたび決裂し、ついに膠着(こうちゃく)状態に陥った。

 ここでコンセンサス方式とは、加盟国に異議がない場合に限り合意が形成されたとする意思決定の方法であり、一つの加盟国でも反対すれば決定を下せない。また、一括受諾方式とは、交渉の各分野で一分野でも合意できなければ全体として合意しないとするものである。そのために、交渉に時間がかかり、一分野の交渉決裂が交渉全体に波及するという難点があった。

 このようにドーハ・ラウンドが膠着状態に陥ったことから、日本においてもFTA(自由貿易協定)を求める声が高まり、2002年(平成14)にシンガポールとのEPAを発効した。その後、日本はFTA戦略を推し進めることになる。加えて、日本貿易振興機構(JETRO(ジェトロ))によると、二国間のFTAのみならず、日・ASEAN(アセアン)包括的経済連携(AJCEP)協定、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP協定。通称、TPP11(イレブン)協定)、日EU経済連携協定(日EU・EPA)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP(アールセップ))協定といった複数国間の協定も締結するようになった。2022年(令和4)時点で日本で発効・署名済みのFTAは21件となっている。

[田中喜助・前田拓生 2024年1月18日]

『平岡謹之助著『貿易政策論』上下(1956・有斐閣)』『川島英雄著『わかりやすい関税手続Q&A』(1982・通商産業調査会)』『貿易為替実務研究会編『体系貿易為替実務事典』(1982・新日本法規出版)』『通商産業省監修『現行輸入制度一覧』(1996・通商産業調査会)』『朝倉弘教・藤倉基晴編著『WTO時代の関税』(1996・日本放送出版協会)』『藤本進編『図説 日本の関税』(1997・財経詳報社)』『垣水孝一著『関税の知識』(日経文庫)』『〔WEB〕松井一彦「WTOドーハ・ラウンドの意義と課題」(『立法と調査』266号・2007・参議院調査室) https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2007pdf/20070406080.pdf(2024年1月閲覧)』『〔WEB〕河合真樹「WTOの交渉停滞下で増加するFTAと我が国の取組」(『RESEARCH BUREAU 論究』第18号・2021・衆議院調査局) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Shiryo/2021ron18-10.pdf/$File/2021ron18-10.pdf(2024年1月閲覧)』『〔WEB〕経済産業省通商政策局編『2021年版 不公正貿易報告書』(2021) https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/report_2021/honbun.html(2024年1月閲覧)』

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改訂新版 世界大百科事典 「関税」の意味・わかりやすい解説

関税 (かんぜい)
customs
customs duties
tariff

税関を通過する貨物に対して課される税を関税といい,輸出品に課される〈輸出関税〉,輸入品に課される〈輸入関税〉,国境を通過するだけの貨物に課される〈通過関税〉とに分けられる。関税は貿易政策の代表的手段と考えられているが,財政収入を主たる目的とする関税と,産業保護を主たる目的とする関税とがある。前者を〈財政関税〉,後者を〈保護関税〉という。中世以前の関税や第1次大戦前のイギリス,オランダ等の自由貿易主義国の関税は,もっぱら財政収入を目的としていたし,19世紀前半のアメリカでは,財政収入のうちの90%近くを関税収入が占めていた。重商主義以降は,主として国内産業保護,貿易収支の黒字が関税賦課の目的となった。財政収入を目的とする場合には,輸出関税や通過関税も用いられるが,産業保護を目的とする場合には,もっぱら輸入関税が中心となる。今日では,関税といえば輸入関税を指すのが一般的となっている。

古代都市国家の時代から,貨物の通過あるいは貿易に対して,手数料や道路・港湾などの使用料を徴収する慣習があった。それらはクストムスcustomsとよばれ,関税の語源となっている。中世都市や荘園領主も財政収入確保のため,使用料・手数料を設けていたが,時とともに,使用料的性格は薄れ,反対給付のない強制徴収的なものに変化していく(〈通行税〉の項目を参照)。近代国家の成立とともに,国内のある地域を通過する貨物に賦課された内国関税はしだいに姿を消し,国境線を通過する貨物に課される国境関税が一般的になると同時に,関税が貿易政策の重要な手段として認識されはじめる。重商主義の時代には,輸出を奨励し輸入を制限することによって,国家の富の蓄積が図られたが,この目的のために保護的な関税政策が積極的に活用された。しかし,産業革命以後,工業化が急速に進展してくると,市場の拡大が重要な課題となり,自由貿易の考えが登場する。イギリスでは,1786年に英仏通商条約イーデン条約)が結ばれ,1846年には保護貿易主義の核心であった穀物法が廃止されるとともに自由貿易時代へと突入する。すでに1834年にはドイツ関税同盟が成立しており,60年の英仏自由通商条約(コブデン=シュバリエ条約)以降,つぎつぎと通商条約,関税協定が結ばれ,ヨーロッパ各国へ貿易自由化の波が広がっていった。英仏自由通商条約は,最恵国条項(最恵国待遇)が採り入れられ,差別関税が防止された点でとくに重要である。

 しかし自由貿易体制は,工業先進国イギリスをさらに発展させたが,工業後進国の発展にとっては必ずしも望ましい結果がもたらされなかった。このためドイツやアメリカでは,工業化を図るために幼稚産業の保護を目的とする高関税政策がとられることになり,その後フランスにも波及する。高関税による保護貿易は,第1次大戦後の不況のなかで一層の拍車がかけられ,幼稚産業のみならず斜陽産業にまで保護貿易政策が広がった。自由貿易を守っていたイギリスも,1932年の輸入関税法によって,ついに自由貿易政策を放棄し,同年にはオタワ協定によってイギリス連邦特恵関税制度を確立する。これを契機として,世界経済は排他的なブロック経済体制へと進展し,第2次大戦を招くことになる。同大戦が終りに近づくにつれて,ブロック経済体制と高関税・輸入制限政策が深く反省され,国際協調のもとに世界経済を立て直そうとする体制づくりが模索されはじめる。その第一歩が,国際金融面でのブレトン・ウッズ協定(1944)であり,通商面での〈関税・貿易に関する一般協定〉(GATT(ガツト))である。45年,アメリカによって提案された新しい国際貿易機構International Trade Organization(ITO)を設立するための〈国際貿易憲章〉(ITO憲章,ハバナ憲章)が48年に調印された。しかし,あまりに理想的にすぎたためアメリカ等多くの国で批准が得られず,ITOは失敗に帰すが,その精神を継承するものとして,GATTが1947年に調印され,48年1月発効した。戦後,社会主義国以外の諸国では,GATTを中心に多角的自由貿易が推進された。GATTは,自由貿易体制の推進のため,1947年の第1回から73-93年の第8回まで,大規模な国際通商交渉(一般関税交渉)を行ってきた。第6回までは,関税引下げ交渉が中心であったが,なかでも1964-67年の第6回の一般関税交渉(一般にケネディ・ラウンドと呼ばれる)は,平均35%の関税引下げを行うという画期的なものであった。第7回の東京ラウンドでは,関税引下げのみならず,非関税障壁の撤廃,農産物問題,開発途上国への優遇措置など幅広い交渉が行われた。1986-93年のウルグアイ・ラウンドでは,貿易のなかで比重の高まったサービス貿易や知的所有権,保護主義的傾向の強い農業などが対象とされ,これにより日本も米の輸入(部分開放)を受け入れることになった。さらにウルグアイ・ラウンドの合意により,GATTに代わる機関として,94年のマラケシュ協定にもとづき95年1月世界貿易機関(WTO)が設立された。

関税率には,国内法によって定められる〈国定税率〉と,外国との条約によって個別的に決められる〈協定税率〉とがあり,国定税率によって課される関税を〈国定関税〉(自主関税),協定税率によって課される関税を〈協定関税〉(条約関税)という。現在,日本での協定関税は,GATT(ないしWTO)によるものだけであるため〈GATT関税〉ということもある。GATTでは,加盟国相互の関税交渉の結果,関税引下げなどが決まると,原則として,その協定税率は交渉相手国だけでなく,すべてのGATT加盟国にも同様に適用される。これを〈最恵国待遇〉という。協定税率が存在し,それが国定税率よりも低い貨物の場合には,協定税率が優先して適用されるが,協定税率適用国以外の国からの貨物や協定税率が設定されていない貨物には,国定税率が適用される。実際に課される税率を〈実行税率〉という。

 関税はなにを課税標準(関税額算定の基礎)とするかによって,〈従量税specific duty〉と〈従価税advalorem duty〉とに分けられる。従量税の場合,物理的数量(重量,容積,長さなど)を基準として税額が示され,従価税の場合には,輸入品の価格に関税率を乗じて関税額が求められる。従量税は輸入価格にかかわりなく一定であり,従価税は輸入価格に依存して変化する。従価税の基準となる価格は,輸入税の場合,運賃・保険料等を加えたCIF価格(FOB-CIF)が通常用いられる。従価税は,輸入品の価格変動に対する適応に優れているが,価格が低下すると関税額も低くなるため,産業保護の機能が減殺される。一方,従量税は,煩雑な価格の算定が不要であり,保護機能を強くもつが,価格の変動に適応できない欠点をもつ。両者の欠点を補うために,数量と価格の両方を課税標準とする混合税が用いられることもある。

輸入に対して関税が課されると,一般に輸入国では当該商品の国内価格が上昇する。輸出国の供給価格を一定とすれば,国内価格の上昇幅は関税額に等しい。国内価格の上昇が,当該商品の需要を抑制し,輸入量を減少させるならば,輸出国の供給価格は下落するかもしれない。この場合,国内価格の上昇幅は関税額よりも小さくなり,関税の一部は輸出国の生産者が負担することになる。輸出国の生産者が関税に等しい価格切下げを行えば,国内価格はまったく上昇しない。このように一般に関税は,輸入国における国内価格の上昇と,輸出国の供給価格の下落とによって吸収されるが,上昇・下落の程度は,輸入国における当該商品の需要条件と輸出国での供給条件に依存して変わる。課税国における当該商品の輸入量が世界全体の取引量に比較してきわめて少ない場合,あるいは当該商品の需要弾力性が小さいため国内価格の上昇にもかかわらず輸入量がそれほど減少しない場合には,輸出国の供給価格には大きな変化はみられない。逆に,当該商品の輸入量が相対的に多く,国内価格の上昇が輸入量を大幅に減少させる場合には,関税の賦課は輸出国の供給価格に大きな影響を与える可能性が強まる。輸入関税の経済的効果には,いろいろなものがある。

 第1に,国内産業の保護効果がある。関税賦課の結果,輸入品の国内価格が上昇するため,その分だけ国内企業の競争力は高まり,当該商品の国内生産量は増加する。保護の程度は,関税が国内価格をどれほど引き上げるかに依存しており,輸出国の供給価格の下落が大きければ,保護の効果は減殺される。一般に輸入関税率が高いほど国内産業の保護効果は大きくなるため,関税率が産業保護の程度を計る指標となりうる。しかし当該商品の原材料を輸入に頼っている場合には,原材料に対する輸入関税率の大きさによって,当該商品産業が保護される程度が影響を受ける。原材料に対する関税を考慮し,当該商品の実質的な保護の程度を表す関税率を〈有効関税率〉(有効保護率)という。第2に,関税額だけ財政収入が増加するという効果がある。財政収入額は関税率が高いほど多額になるわけではない。高関税は輸入量を減少させ,かえって関税額を減少させるからである。第3に,当該商品の消費抑制効果がある。どれだけ消費が抑制されるかは,国内価格の上昇幅と需要の価格弾力性とに依存している。第4に,関税賦課が輸出国の供給価格を引き下げる場合には,課税国の交易条件(輸出財と輸入財の交換比率。通常は輸出物価指数を輸入物価指数で除した値)が改善される。すなわち,関税賦課は,これまでよりも少ない輸出財で多くの輸入財と交換できるようになるという利益をもたらす。しかし一方で関税の賦課は,外国との貿易を抑制し,国際分業からの利益を減少させる効果をもつ。この両者の得失を比較衡量し,輸入国の利益が最も大きくなるように決められた関税率を〈最適関税率〉という。関税がすべて国内価格の上昇によって吸収されてしまうときには,交易条件はまったく改善されないため,最適関税率はゼロ,すなわち自由貿易が最適な政策となる。以上の四つが関税の主たる効果であるが,それだけにとどまらず,国際収支や所得分配に対しても少なからぬ効果をもっている。
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日本では関税に関する主要な法律として,関税法(1954公布),関税定率法(1910公布)および関税暫定措置法(1960公布)がある。このうち,関税法は,関税の確定・納付・徴収および還付,船舶・航空機の入港と出港,貨物の輸入と輸出の許可等について規定しており,したがって租税法(関税の賦課・徴収に関する法律)としての性格と通関法(入出港・輸出入の管理に関する法律)としての性格をあわせもっている。関税定率法は,関税の課税標準・税率,関税の減免等について定めており,関税暫定措置法は,特定の輸入貨物について,暫定的な減免措置や関税法の定めとは異なる暫定税率を定めている。なお,関税定率法は,必要に応じて,政令の定めるところにより便益関税,報復関税,不当廉売関税等を課しうる旨を定めている。したがって,関税は,輸入貨物に対し,関税定率法や関税暫定措置法の定める課税標準および税率(条約に特別の定めがある場合にはそれによる。関税法3条但書)に従って関税法によって賦課・徴収されることになる。なお,関税に関する法律およびその運用は,GATTおよびその後身としての世界貿易機関(WTO)によって影響されるところが大きい。
関税自主権
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百科事典マイペディア 「関税」の意味・わかりやすい解説

関税【かんぜい】

外国からの輸入貨物または外国への輸出貨物に課される租税,すなわち輸入税と輸出税の総称。日本には後者はなく,輸入税と関税は同義。消費税の一種。古くは封建諸侯等の課する内国関税もあった。国内産業の保護を目的とする保護関税と財政収入を目的とする財政関税に大別されるが,今日では前者が主。ほかに対外的駆引きのための差別関税特恵関税,報復関税等もある。関税率は関税定率法GATT等の国際協定で定められる。1997年4月の消費税変更により,CIF価額に関税を加算した金額に消費税がかけられることとなった。→関税自主権関税法
→関連項目関税譲許表間接消費税国税消費税スムート・ホーレー法通関業保護貿易主義保税地域

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知恵蔵 「関税」の解説

関税

輸入品に対して通関時に徴収される税。関税の目的は、財政収入に充てることを第一義とする財政関税と、国内産業保護・育成を主目的とする保護関税の2つに分けられる。今日でも発展途上国においては関税は財政収入の重要な部分を占めている。関税率は、ガットにおける多国間交渉によって大きく下がり、特に日本の関税負担率(関税収入額の総輸入額に対する比率)は、2005年度は1.7%で先進国の中でも最も低い国の1つとなっている。関税には輸入品の価格を課税標準とする従価税と、輸入品の数量(重量、容積など)を標準として課税する従量税、および両者を組み合わせた複合税がある。従価税は輸入価格が変動しても関税負担の程度が変わらない、インフレの下でも安定した関税収入が得られる、などの特徴がある。一方、従量税は課税標準の決定が容易なこと、輸入品の価格が下がっても関税額は変動せず、国内産業保護の目的に合致するなどの特徴がある。世界的に見ると従価税を主とする国が多く、日本の関税もCIF(運賃・保険料込み値段)価格を課税標準とする従価税が基本となっている。また関税率は、国内の法律によって定められている国定税率と、外国との条約中の規定による協定税率とに大別できる。日本の場合、国定税率は関税定率法による基本税率と、関税暫定措置法による暫定税率、さらには発展途上国からの輸入品を対象とする特恵税率の3つに分けられる。これらの税率は、原則として特恵税率、協定税率、暫定税率、基本税率の順に優先して適用され、これが実行関税率となる。なお、協定税率は暫定税率、または基本税率よりも低い場合に限り適用される。なお、発展途上国の輸出を促進する目的で、先進国が途上国からの輸入品に対して、一方的に低い関税率を供与する一般特恵関税制度(GSP:generalized system of preferences)もある。特恵関税はガットの無差別待遇の原則に反するが、一般特恵関税制度は、その趣旨から例外的に承認されている。日本の場合、鉱工業製品に関しては、例外品目を除き、原則として特恵税率は無税である。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「関税」の解説

関税(かんぜい)
customs/tariff

領主が領内を通過する商品に課した貢納金に始まり,商品の輸出,輸入,あるいは再輸出に際して課されるようになった税金をいう。国家が関税を課す目的としては,まず財政への貢献,ついで発達途上の産業(幼稚産業)の保護があげられる。19世紀後半に入って独占企業が強力になると,彼らの利益を保証するためにカルテル関税が採用されるようになった。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「関税」の意味・わかりやすい解説

関税
かんぜい
tariff, duty, customs

国境を通過する貨物に通常輸入国の政府によって課せられる租税。国内産業の保護をおもな目的とする保護関税と財政収入をおもな目的とする財政関税とがあるが,日本をはじめ多くの国の関税は前者の見地から課せられている。日本の場合,貨物を輸入する者を納税義務者とし,輸入貨物を課税物件として,貨物の価格または数量を課税標準として課せられる。

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会計用語キーワード辞典 「関税」の解説

関税

輸出や輸入の際に課せられる税金のことで、主に輸入国が課す関税をさすことが多い傾向にあります。関税は、財源調達手段としての関税(財政関税)と国内産業保護(保護関税)の機能を有しています。

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普及版 字通 「関税」の読み・字形・画数・意味

【関税】かんぜい

通関税。

字通「関」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の関税の言及

【最恵国待遇】より

…多くの場合には,通商,航海,経済活動,内国課税,領事に関する事項などについて与えられる。このうちとくに重要なのは関税に関するもので,この条項が含まれている場合には,それぞれ相手国産品の輸入に際しては第三国産品に課している関税率の中で最も低いものを適用することを義務づけられる。最恵国待遇がヨーロッパ諸国で広くみられるようになったのは17世紀の中ごろからで,19世紀以後にはほとんどすべての2国間通商航海条約に含まれるようになった。…

【通行税】より

…また渡津の際の人間や通過船舶それ自体も通行税支払いを義務づけられた。明・清もほぼ同様だが,船舶通行税は鈔関税,竹や木材のそれは工関税などと別称された。【梅原 郁】
[ヨーロッパ]
 中世の遠隔地商人は,遠方の市場を訪れるために多くの異なった支配の領地や都市を通過しなければならず,その際,領内や都市内の通行について規制を受けたり,通行税を徴収されたりした。…

※「関税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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