モクセイ(読み)もくせい

改訂新版 世界大百科事典 「モクセイ」の意味・わかりやすい解説

モクセイ (木犀)
Osmanthus fragrans Lour.

中国原産のモクセイ科の常緑小高木。庭園木として秋に開花し芳香を放つ。花色に変異がある。中国名は木犀,桂花。高さ3~6mとなり,幹が何本にも分かれて楕円状の樹形をなす。樹皮灰褐色。葉は対生し,葉身は革質で深緑色,長楕円形で長さ8~15cm,先は急にとがり,縁に粗い細鋸歯がある。雌雄異株で,9~10月,葉腋(ようえき)に短い柄で散形状に花を束生する。花は径約5mm,萼は4浅裂,花冠は4深裂し,短い花筒の口に雄花では2本のおしべ雌花では1本のめしべと2本のおしべがある。紫黒色の核果を結ぶというが,日本には雄株しか入っていない。中国の暖帯に分布し,中国では伝説,詩歌,絵画などによく登場する。また花を集めて密閉保存し残香を楽しむという。材は堅くて重く緻密である。香りの良い花と整った樹形を愛でて,世界各国で庭園に植えられる。中国では花色によって品種を分け,白色,橙黄色,淡黄色のものをそれぞれ銀桂,丹桂,金桂という。日本ではふつうそれぞれをギンモクセイvar.fragrans Makino,キンモクセイvar.aurantiacus Makinoおよびウスギモクセイvar.thunbergii Makinoに当てる。ギンモクセイはやや香りが乏しく,ウスギモクセイは中国,インドのほか九州南部にもあるという。いずれも大気汚染の著しいところでは花をつけない。

 モクセイ属の学名Osmanthusは〈匂う花〉の意である。アメリカに2種とアジアにヒイラギなど20数種がある。リュウキュウモクセイO.marginatus(Champ.ex Benth.)Hemsl.(中国名,月桂)は琉球列島,台湾,中国南部に分布し,6月に白花が咲く。ヒイラギモクセイO. × fortunei Carr.はヒイラギとギンモクセイの雑種とみなされ,温暖地の生垣などによく利用されるようになった。

双子葉植物。世界に27属約600種があり,ジャスミンの香料,ライラックの花,オリーブの実,トネリコ類の材など生活とのつながりは深い。高木ないし低木,まれにつる性で,常緑または落葉性。葉は通常は単葉,一部のものが奇数羽状複葉になる。ふつう対生する。花は放射相称で,両性花をもつか単性花が別株あるいは同株につく。しばしば芳香を放つ。花序は腋生(えきせい)または頂生。花は2の倍数からなり,ふつう萼片花弁は4枚ずつが基部で合生し,おしべは2本,めしべは子房上位で2室が各2個の胚珠をもつ。モクセイ属などは核果,トネリコ属は翼果,ハシドイ・レンギョウ両属は蒴果(さくか)を結ぶ。世界の温帯から熱帯に分布し,日本にはうちヒトツバタゴ,モクセイ,イボタノキ,トネリコ,ハシドイレンギョウの6属約20種が分布する。小さい花が群がり咲いて美しいので,花木,庭園木として植えられる。一般に材が強靱で弾性に富み,特にトネリコ属のものは,運動具,ベニヤ材などとして用途が広い。イボタノキ類などからは虫蠟を採る。ジャスミンやレンギョウは漢方や香料としても重要である。一方,オリーブは地中海地方における重要な果樹および油料作物である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モクセイ」の意味・わかりやすい解説

モクセイ
もくせい / 木犀
[学] Osmanthus fragrans Lour.

モクセイ科(APG分類:モクセイ科)の小高木。広義にはキンモクセイ(金木犀)、ウスギモクセイ(淡黄木犀)などを含めた総称名。和名ギンモクセイ(銀木犀)。中国原産。高さ3~5メートル。樹皮は淡灰褐色でよく分枝する。葉は対生し、卵状狭長楕円(だえん)形で、長さ8~15センチメートル、幅3~5センチメートル、先は急にとがる。縁(へり)にやや粗くて細かい鋸歯(きょし)があるが、全縁のものもある。表面は深緑色で革質、裏面の細脈はややはっきりしている。雌雄異株。9~10月、葉の付け根に白色の小花が散形状に集まって開く。芳香はキンモクセイよりは少ないが、甘く香る。花冠は径5ミリメートルで四つに深裂し、萼(がく)は四つに浅裂する。雄花には不完全な雌しべ1本と雄しべ2本がある。日本には結実しない雄株が広く植栽される。

[小林義雄 2021年7月16日]

種類

変種のキンモクセイvar. aurantiacus Makinoは中国原産。葉は狭長楕円形で長さ5~10センチメートル、縁にわずかに細かい鋸歯があるか、または全縁で、ギンモクセイよりやや薄く革質。9~10月、芳香の強い橙黄(とうこう)色の小花が集まって開く。日本には結実しない雄株が広く植栽される。また、ウスギモクセイf. thunbergii (Makino) T.Yamaz.は九州南部から中国、インドに生え、別名をシキザキモクセイ(四季咲木犀)という。葉は狭長楕円形または長楕円状広披針(ひしん)形。縁の上部にすこし細かい鋸歯があるか、ほとんど全縁で、やや薄く革質。花は白黄色の両性花または雌花で、芳香はキンモクセイより弱い。雌しべは子房が発達し、翌年の5月ころ、楕円形で長さ約2センチメートルの果実が暗紫色に熟す。

 東北地方南部以西の本州の暖地でよく栽培され、陽地または半陰地の肥沃(ひよく)地でよく育ち、刈込みに耐える。繁殖は挿木、接木(つぎき)、取木による。

[小林義雄 2021年7月16日]

文化史

モクセイの名は、幹が動物のサイ(犀)の肌に似ているというので、名づけられたという。その名は中国では唐代から知られ、『西渓叢話(せいけいそうわ)』には花を客に例えた一つに、木犀を岩客として載せる。日本では『下学集(かがくしゅう)』(1444)に「木犀桂也(けいなり)」と初見する。桂を万葉の時代から平安時代にはカツラとあて違えていた。この間違いは後代まで尾を引く。『下学集』の著者の東麓破衲(とうろくはのう)がそれを看破していることからすると、当時モクセイが中国から渡来していたとみられる。江戸時代にはキンモクセイももたらされ、『広益地錦抄(こうえきちきんしょう)』(1719)は、キンモクセイを丹桂(たんけい)とし「花の色柿紅(かきべに)いろ丹のいろ」と白花のモクセイと明瞭(めいりょう)に区別した。

[湯浅浩史 2021年7月16日]


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世界大百科事典(旧版)内のモクセイの言及

【桂】より

…中国では,ニッケイ(肉桂)あるいはモクセイ(木犀),また月にあると考えられた木。日本のカツラやゲッケイジュとは別物。…

※「モクセイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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