グレリン(読み)ぐれりん(英語表記)ghrelin

デジタル大辞泉 「グレリン」の意味・読み・例文・類語

グレリン(ghrelin)

胃などから分泌されるホルモン一種下垂体に働いて成長ホルモンの分泌を促進し、視床下部に働いて食欲を増進させる。また、循環器系やエネルギー代謝にも機能することが明らかになり、心機能の改善COPD慢性閉塞性肺疾患)の栄養障害改善などに効果が期待されている。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

知恵蔵 「グレリン」の解説

グレリン

主に胃から分泌され、強力な成長ホルモン分泌促進作用などを有するペプチドホルモン。1999年12月、国立循環器病センター研究所生化学部の寒川賢治博士らが、ラットの胃から単離・構造決定に成功した。
それまで成長ホルモンの分泌制御は、主に脳の視床下部から分泌されるホルモンが担うと考えられていたが、一方でGHS受容体と呼ばれる受容体を介する機序も存在することが知られていた。しかし、この受容体に結合する物質(リガンド)は長らく特定されず、GHS受容体は「(結合する相手=親がいない)孤児の受容体」の意味からオーファン受容体と呼ばれて、世界中でリガンドを探す研究が行われてきた。
グレリンはN末端から3番目のセリン残基が脂肪酸(n-オクタン酸)でアシル化された特徴的な構造を持ち、この状態で初めて構造が安定化し活性を表す。グレリンの発見が遅れたのは、ペプチドの精製過程で脱オクタン酸化されて不活性型となってしまうことが多いためだった。胃からグレリンが発見されたことにより、消化管が関与する新たな成長ホルモン分泌調節系の存在が明らかになった。
その後の研究で、グレリンには成長ホルモン分泌促進作用の他、強力な摂食促進作用があり、筋肉増強、体重増加をもたらすことが分かってきた。この作用は、脂肪細胞から分泌されるホルモンであるレプチンと拮抗的である。また、エネルギー代謝調節作用や、血圧降下等の循環調節作用も明らかとなってきた。
グレリンは、本来、生体内で作られる内因性ペプチドであり、多様な生理活性作用を持つことから、小人症や神経性摂食障害の治療、心臓血管内科での応用などに向けて安全性の高い治療薬・診断薬として活用が期待され、現在、京都大学医学部附属病院・探索医療センターのグレリン医療応用プロジェクト(プロジェクトリーダー 赤水尚史 同センター教授、顧問 寒川賢治)でトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)が進められている。

(葛西奈津子  フリーランスライター / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

化学辞典 第2版 「グレリン」の解説

グレリン
グレリン
ghrelin

主として摂食行動の制御にかかわるペプチドホルモンで,3番目のセリンが脂質修飾を受けてはじめて活性型となる.胃粘膜下層の内分泌様細胞で合成され,迷走神経刺激および血流を介して,脳の摂食中枢制御を行うとともに下垂体からの成長ホルモン放出を促進する.28個のアミノ酸残基よりなる.[CAS 304853-26-7]

GSS(octanoyl)FLSPEHQRVQQRKESKKPPAKLQPR

(一文字記号はアミノ酸の項参照)

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「グレリン」の解説

グレリン

 成長ホルモン分泌促進因子として胃から分離されたアミノ酸28個のペプチドホルモン.食欲促進作用がある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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