ウイグル(読み)ういぐる(その他表記)Uighur

精選版 日本国語大辞典 「ウイグル」の意味・読み・例文・類語

ウイグル

  1. 〘 名詞 〙 ( Uighur ) モンゴリアトルキスタン系の一部族。外モンゴリアに原住し、八世紀に興隆。突厥その他を滅ぼして漠北一帯を支配した。九世紀中頃、キルギスに攻められて四散、のち、その一派はウイグル文字を用いるようになった。現在、中国新疆ウイグル自治区の主要住民。ウイグルには、回紇、回鶻などとあてる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウイグル」の意味・わかりやすい解説

ウイグル
ういぐる
Uighur

トルコ系諸族の一つ。漢文史料では廻紇(かいこつ)、回鶻(かいこつ)、畏吾児(ウイグル)などと記され、20世紀になってからの中国語では維吾爾(ウイグル)と表記される。中国領内の人口は1006万9346(2010)。モンゴリアから南シベリアに広く散開していた古代チュルク系遊牧民族の一つとして、突厥(とっけつ)の後を継いで744年から840年までモンゴリアに遊牧国家を築いた。初代キョル・ビルゲ・カガン(懐仁可汗(かいじんかがん)。?―747)がウテュケン山麓(さんろく)を根拠地としたところからそれは始まる。2代目カガン磨延啜(まえんチョル)(葛勒(かつろく)可汗。?―759)のとき、安史の乱(755~763)鎮圧に協力して派兵したことから、唐朝に対して一時期優位にたった。

 彼らは遊牧生活を基本としながらも、領内にバイバリク(富貴(ふうき)城)、オルドゥ・バリク(カラ・バルガスン)などの都城を建設して、支配層は定居生活も知った。文化の面では、第8代の保義(ほぎ)可汗(?―821)の紀功碑「カラ・バルガスン碑文」が注目される。これは、突厥文字のチュルク語のほか、漢文、ソグド文字ソグド語でも刻文された。このことは、遊牧ウイグル社会のなかに突厥以来の国際的文化が継承され、ソグド人の文化がいっそう深く入り込んでいたことを示している。3代目の牟羽(ボグ)可汗のとき以降、従来のシャーマニズムとは別にソグド人のマニ教が信奉されたこともその一例である。

 840年、天災、内乱と北方キルギス人の圧迫でウイグル遊牧国家は崩壊し、南下した一部は唐の北辺に入り、河西地域に入ったウイグルは甘州を中心に展開した(甘州回鶻=960~1028)。他の一部は西部天山山脈一帯のカルルク人の地に入り、後のカラ・ハン朝成立にかかわったと思われる。別の主力部分は、東部天山山脈の北庭(ビシュバリク)、焉耆(えんぎ)、高昌(こうしょう)一帯を掌握した。この天山北麓草原とトゥルファン農耕地を中心とする「天山ウイグル王国」(西ウイグル王国)の内部では言語、住民構成のウイグル化=チュルク化が進み(トルキスタンの成立)、従来の漢文化やイラン系アーリア系文化と混交した定着ウイグル仏教文化が形成された。12世紀カラ・キタイへの従属を経て、13世紀にはチンギス・ハンモンゴル帝国に率先して臣従し、半独立的地位を保ったこの王国も13世紀末には崩壊した。この間、ウイグル人はソグド人にかわって内陸通商ルートを抑え、元朝統治にも人的、文化的に深く関与した。

 その後、中央アジアのウイグル人はチャガタイ・ハン国の支配を受けてイスラム化を深め、民族的にも変容し、ウイグルという民族自称名を失った。現在ロシア領内や、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区に採用されているウイグルの名称は1920年代以後のものであり、言語的要素を除き、かならずしも古代から連続した実体をさすものではないが、ウイグル人としての民族意識をもつに至っている。

[梅村 坦]

『羽田亨著『羽田博士史学論文集 上巻 歴史篇』(1957/再刊・1975・同朋舎出版)』『安部健夫著『西ウィグル国史の研究』(1955・彙文堂書店)』『山田信夫著『トルキスタンの成立』(『岩波講座 世界歴史6』所収・1971・岩波書店)』『高崎通浩著『世界の民族地図』(1997・作品社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウイグル」の意味・わかりやすい解説

ウイグル
Uyghur

中央アジアに住むチュルク系(→チュルク語系諸族)の民族。漢字では回鶻,廻紇,畏兀児,維吾爾などと記される。史上に初めて姿を現すのは 6世紀末で,外モンゴルセレンゲ川(→セレンガ川)流域で遊牧生活を送り,突厥に服属していた。744年突厥を打倒して,部族長クトルク・ボイラがウイグル帝国の初代カガン(可汗)となる。755年の安史の乱では唐朝を援助して反乱の鎮圧に介入した。シルクロードを支配し,ソグド商人の往来によってマニ教を信奉した。839年キルギス人の侵入で帝国は崩壊し,ウイグル人は四散したが,甘粛,天山方面に移ったものはそれぞれ王国を建て,ことに天山のウイグル王国は長く繁栄した。10世紀にはサーマン朝のもとでイスラム化した。12世紀にはモンゴル帝国に服属して自治を保ったが,のちチャガタイ・ハン国に併合された。17世紀の初め,預言者ムハンマドの子孫と称するホージャ家 (→カシュガル・ホージャ家) がカシュガルに移住してきて教権を握り,白山党,黒山党に分かれて対立抗争した。18世紀にの支配下に入り,19世紀にはカシュガルのヤクブ・ベクの指導下に大反乱を起こしたが鎮圧され,1884年,ウイグル人統治のために新疆省が置かれた。1944年ウイグル人はカザフ人らとともに東トルキスタン共和国を建てたが,1950年中国に吸収され,1955年シンチヤン(新疆)ウイグル(維吾爾)自治区を形成した。人口は約 1516万 (1990) 。

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百科事典マイペディア 「ウイグル」の意味・わかりやすい解説

ウイグル

トルコ系の民族。漢字で回【こつ】,回鶻,維吾爾。モンゴル高原,のちトルキスタン,中国の新疆ウイグル自治区などに居住。住民の半数弱がウイグル族である新疆ウイグル自治区では,中国名〈新疆〉を嫌い〈東トルキスタン〉という地域呼称を用い,漢族の流入と圧力を拒否して中国からの分離独立を目指すウイグル族住民も多い。チベット問題とともに,中国の少数民族政策のアキレス腱となっている。セレンガ川付近に興り,6―7世紀ごろ突厥(とっくつ)の支配下にあったが,744年突厥に代わってゴビ砂漠北部を支配。安史の乱では唐を助け,チベットに進出して吐蕃(とばん)と対立した。9世紀に内乱のため衰亡し,キルギスの侵入により四散。10世紀以降はイスラム化が進んだ。→ウイグル語ウイグル文字
→関連項目カラ・キタイ新疆ドイラ突厥突厥碑文トルコ系諸族ユーグ(裕固)族

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ウイグル」の解説

ウイグル
Uyghur

廻紇(回鶻)(かいこつ),畏兀児(維吾爾)(ウイグル)モンゴル高原に遊牧し,のち中央アジア方面に移住,定着したトルコ民族。セレンゲ川上流域から興り,6~7世紀には突厥(とっけつ)に支配されていたが,744年にこれを滅ぼして建国し(東ウイグル可汗(カガン)国),安史の乱では唐に援軍を送るなど強盛をきわめた。ソグド人の影響のもとでマニ教を受け入れ,草原に都城を建設して遊牧社会の変容をもたらしたものの,天災と内乱に乗じたクルグズ人の侵入を受けて滅亡した(840年)。四散したウイグルは天山方面に西ウイグル王国,河西地方には甘州ウイグル王国を建てた。後者は11世紀にタングートの支配下に入った。西ウイグル王国では仏教文化が繁栄し,内陸交易も活発だった。12世紀にカラキタイの支配を受け,13世紀の初めチンギス・カンに帰順し,モンゴル帝国形成と元朝統治に文化・人材面で貢献した。16世紀までにほぼイスラーム化し,ウイグルの名は失われたが,1920年代以降オアシス住民と言語の呼称として復活した。現在,新疆(しんきょう)ウイグル自治区の主要住民である。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ウイグル」の解説

ウイグル
Uighur

モンゴル,のちトルキスタンに移住したトルコ系民族。中国で回鶻・回紇 (かいこつ) ・維吾爾とも書かれる
隋代から知られ,セレンゲ川上流域にあって突厥 (とつけつ) に服属し,一時は唐に帰服した。8世紀の半ばごろから1世紀間全盛期を現出させ,安史の乱では唐を支援して乱の鎮圧に貢献した。また,唐の文化にもなじみ,唐との交易,東西通商上の利益も大きかった。9世紀の半ばごろ,内部の反乱からトルコ系キルギスの侵入を招き,敗れて四散。一部は甘州に,一部はビシュバリク・高昌に拠り,天山山脈の南北にわたる王国を形成し,他はイリ盆地にはいってカラ−ハン朝の樹立に一役買った。

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世界大百科事典(旧版)内のウイグルの言及

【モンゴリア】より

…しかし682年(永淳1)突厥が復興し,741年までモンゴリアを支配した。突厥のあとをうけて744年,トルコ系鉄勒(てつろく)の一派ウイグル族(回紇,回鶻)がモンゴリアの盟主となった。唐とも緊密な関係を持ち,とくに755年(天宝14)に起きた安史の乱においては唐を助けて乱の鎮圧にあたった。…

※「ウイグル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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