フランスの映画監督。パリ生まれ。父の見習いで高級家具の製造を学ぶが、のち夜学で映画撮影の技術を学び、20歳でジョルジュ・ペリナールの撮影助手となる。またジャック・フェデー監督の助手として『外人部隊』『ミモザ館』『女だけの都』などについた。フェデーがイギリスに招かれて『鎧(よろい)なき騎士』を撮る際、フランソアーズ・ロゼー主演で準備されていた脚本による『ジェニーの家』(1936)で監督となり、女性心理の描写に師匠譲りの才能を発揮した。『霧の波止場』『北ホテル』(ともに1938)、『悪魔が夜来る』(1942)などにみるように、運命的なドラマを好んで描き、ペシミスティックな人間観察を得意とした。最大の力作は、19世紀のパリ歓楽街に出入りする特異な人間群像をとらえた『天井桟敷(てんじょうさじき)の人々』(1945)。またゾラ原作の現代版『嘆きのテレーズ』(1953)では悲運な女の赤裸々な姿を冷静にとらえて秀作とし、これらの最盛期には詩的リアリズムの名手とうたわれた。が、その後は振るわず『危険な曲り角』(1958)で現代の若者像に挑んだが古風なドラマ作風から抜け出せず、ヌーベル・バーグの台頭以降は時代に取り残された観がある。晩年はテレビに移り80歳を超えてなお製作を続けた。
[登川直樹]
ジェニイの家 Jenny(1936)
霧の波止場 Le quai des brumes(1938)
北ホテル Hôtel du Nord(1938)
陽は昇る Le jour se lève(1939)
悪魔が夜来る Les visiteurs du soir(1942)
天井桟敷の人々 第一部:犯罪大通り 第二部:白い男 Les enfants du paradis(1945)
夜の門 Les portes de la nuit(1946)
港のマリィ La Marie du port(1950)
愛人ジュリエット Juliette ou La clef des songes(1951)
嘆きのテレーズ Thérèse Raquin(1953)
われら巴里ッ子 L'air de Paris(1954)
遥かなる国から来た男 Le pays, d'où je viens(1956)
危険な曲り角 Les tricheurs(1958)
広場(ひろっぱ) Terrain vague(1960)
マンハッタンの哀愁 Trois chambres à Manhattan(1965)
若い狼たち Les jeunes loups(1967)
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