ワーグナー作曲のオペラ。北欧の幽霊船伝説に基づく自作の台本による。1843年ドレスデン初演。三幕物であるが、今日では当初の構想どおり、休憩なしの一幕形態で上演されることが多い。後の楽劇とは異なり当時の慣習に従ってアリア、重唱、合唱などが分離・独立した「番号付きオペラ」の形式をとっているが、レチタティーボ風の旋律構成や示導動機の活用など、彼独自の作風もすでに明確な形で現れている。また、神を畏(おそ)れぬことばを吐いたために永遠に海の上をさまよう運命となったオランダ人が、一女性ゼンタの犠牲的な死によって救済されるという筋書きも、『タンホイザー』など以下の作品と共通するワーグナーの根本思想を反映したものである。その意味でも、この作品を彼の創作活動の実質的な出発点とみることができよう。なおドレスデン初演は不評であったが、しだいにドラマの内面性が理解され、19世紀末までに上演回数は200を超えた。
[三宅幸夫]
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