改訂新版 世界大百科事典 「タマネギ」の意味・わかりやすい解説
タマネギ (玉葱/葱頭)
onion
Allium cepa L.
ユリ科の二年草。鱗茎は直径10cm内外で,扁球形,球形または楕円形などがあり,外皮は灰白色,銅黄色または紫紅色など。根は鱗茎の底部にひげ状について,浅く土中に伸びる。葉は濃緑色の円筒形で,基部は肥厚した鱗片となり,これが重なり合って鱗茎を形成する。低温にあうと花芽を形成して,春先に円筒状の花茎を伸ばし,とう立ちして頂部に球形の花序をつける。鱗茎の形成は温度と日長とに影響され,温度は15.5~21℃,日長は11.5~16時間でよく結球する。とくに早生の品種では短い日長で結球する。
原産は北西インド,タジク,ウズベク,天山の西部地区などの中央アジアとされている。古代エジプトには早く伝わり,一般的な食物として普及した。ピラミッド建設の際には,奴隷に食べさせ労働に従事させたという記録がある。その後,地中海地方で発達し,ヨーロッパ全域に広まった。とくにドイツやイギリスでは重要野菜として扱われ,1347年にヨーロッパで疫病が大流行したときに,ロンドンのタマネギとニンニクを売っている店では伝染を免れたといわれている。アメリカには16世紀以後,スペイン人によって導入された。その後品種改良が盛んに行われたことにより,著しくタマネギ栽培が発達した。東洋ではインドで古くから重要野菜として栽培が盛んで,マレー,ミャンマー,スリランカ,香港などに輸出も行われている。日本では1627-31年に長崎での栽培記録があるが,当時のものは土着せず,その後1871年に欧米から種子が導入され,北海道で土着した。第2次大戦後,食生活の洋風化とともに栽培,利用ともに著しく伸び,明治初期の導入以後約100年を経過して,日本は中国,インド,アメリカなどに次ぐタマネギ生産国となっている。主産地は北海道,兵庫,佐賀,愛知などで,その他各都府県でも多く栽培されている。
タマネギの品種は起源を異にする甘タマネギと辛タマネギとに分けられる。甘タマネギはスペインやイタリアなど主として南ヨーロッパ系のタマネギで,葉は断面が丸く,細葉で,葉に蠟質を生じない。鱗茎は銅黄色または紫紅色で,球はやや大きく,外皮は薄い。辛みに乏しく,貯蔵性は劣る。辛タマネギはオーストリアやドイツなどの東ヨーロッパ系のタマネギで,葉は太く,断面はやや扁平で,葉の節間は短く,蠟質があり,濃緑色である。鱗茎の外皮は厚く銅黄色で辛みが強い。アメリカでは初めに東ヨーロッパ系の品種が土着し,後にヨーロッパ系のものも入り,品種改良が進み,固有のアメリカ系の品種が作られた。日本の導入種はおもにアメリカ系のものが多く,一部にフランス,イタリア,スペインの品種も導入された。甘タマネギの品種はあまり多くはないが,スペイン系やアメリカ系のものが順化してできた黄魁(きさきがけ)群やアメリカ系のものから選抜された湘南レッドなどがある。黄魁は日長13時間程度で結球をする中生種で,とう立ちや分球も少ない。辛みは少なく生食用に適する品種である。湘南レッドは外皮および内部の各鱗片の表皮が紫紅色で鮮やかな色をしており,日長13時間程度で球を肥大する。甘みや水分が多く,辛みや刺激臭も少なく,輪切りにすると同心円状に紫紅色の輪が美しく見える。生食用の専用種として栽培されるが,貯蔵性は低い。生食以外の用途に主として利用される辛タマネギはタマネギ栽培の主流をなし,多くの品種群が成立している。愛知白群は極早生系の白色種で,イタリア,フランス系品種からの改良種である。泉州群は早生種から晩生種まで含まれ,外皮は銅黄色のアメリカ系品種である。札幌黄群は晩生種で銅黄色のアメリカ系品種である。F1群は一代雑種を利用するもので,1960年代の初頭からは新しい品種はしだいにF1品種に代わりつつある。
タマネギの繁殖は種子によるもので,栽培は春まき栽培,秋まき栽培,冬採り栽培の3型に分けられる。春まき栽培は主として北海道で行われている。秋まき栽培はタマネギ栽培の90%以上を占める。冬採り栽培は昭和40年代に開発された技術で,オニオンセット栽培ともいわれ,春まきして小球を生産し,貯蔵してから,秋植えして冬から早春に収穫する栽培法である。また最近では,ベビーオニオンまたはペコロスなどといって,小球のタマネギを利用するための栽培法も行われるようになってきている。用途は生食用,油いため,煮食,スープ,シチューに利用されるほか,加工してソースの原料やオニオンパウダーとして調味料とする。また外皮を乾燥したものは更紗用の茶色の染料としたり,媒染剤を利用して黄色,黒色の染料としても使われる。
執筆者:平岡 達也
料理
きわめて用途が広く,とくに洋風料理の場合は副材料として欠かせぬものである。オムレツ,コロッケ,ハンバーグステーキにはみじん切りにして加え,スープやシチューにはみじん切りをよくいためて使い,料理の味と香りに奥行きを与える。タマネギそのものの料理では,薄切りにして生のままサラダにする。これをオニオンスライスと呼ぶこともあり,和風に鰹節としょうゆをかけて食べてもよい。てんぷらその他の揚物にも薄切りを使う。オニオンスープは,薄切りにしたタマネギをあめ色になるまでいため,スープストックで煮込むもので,これによく焼いたバゲットなどのパンをのせ,おろしチーズをたっぷりかけてオーブンで焼いたものが,オニオングラタンである。以上のほか,上部を切り落として中をくりぬいたところへ,調味したひき肉などを詰めてオーブンで焼いたり,煮込んだりするスタッフドオニオン,小タマネギをひたひたの水に入れてバター,砂糖,塩,コショウを加え,よく煮込んでてりをつけたグラッセなどにする。
執筆者:橋本 寿子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報