フランスの映画監督。舞台の俳優、監督を経て、映画の助監督から1919年『アセルダマ』で監督になった。サイレント時代にめぼしい作品は残さなかったが、トーキーになってから技巧派の面目を発揮し、多様な作品を発表した。『にんじん』(1932)、『白き処女地』(1934)、『地の果てを行く』(1935)、『我等(われら)の仲間』『望郷』(1936)、『舞踏会の手帖(てちょう)』(1937)、『旅路の果て』(1939)などの最盛期に日本ではとくに好評を得た。第二次世界大戦中はアメリカで製作、戦後はフランスに戻って『巴里(パリ)の空の下セーヌは流れる』(1951)、『陽気なドン・カミロ』(1952)、『埋もれた青春』(1953)、『殺意の瞬間』(1955)など旺盛(おうせい)な製作活動を続けたが、ヌーベル・バーグの台頭と入れ替わるように後退した。題材もスタイルも多様で、悲劇も喜劇もサスペンス劇も宗教劇も職人的によくこなしたが、根底にはペシミズムを宿し、期待に始まり絶望に終わるドラマが主流を占めた。
[登川直樹]
アセルダマ 血の代償 Haceldama ou Le prix du sang(1919)
資本家ゴルダー David Golder(1930)
五人の悪い紳士 Les cinq gentlemen maudits(1931)
カイロの戦慄(せんりつ) Die fünf verfluchten Gentlemen(1931)
巴里・伯林(ベルリン) Allo Berlin? Ici Paris!(1932)
にんじん Poil de carotte(1932)
モンパルナスの夜 La tête d'un homme(1933)
商船テナシチー Le paquebot Tenacity(1934)
白き処女地 Maria Chapdelaine(1934)
ゴルゴダの丘 Golgotha(1935)
巨人ゴーレム Le Golem(1935)
地の果てを行く La Bandera(1935)
我等の仲間 La belle équipe(1936)
シュヴァリエの流行児 L'homme du jour(1936)
望郷 Pépé le Moko(1936)
舞踏会の手帖 Un carnet de bal(1937)
グレート・ワルツ The Great Waltz(1938)
旅路の果て La fin du jour(1939)
幻の馬車 La charrette fantôm(1939)
リディアと四人の恋人 Lydia(1941)
運命の饗宴(きょうえん) Tales of Manhattan(1942)
わが父わが子 Untel père et fils(1943)
肉体と幻想 Flesh and Fantasy(1943)
逃亡者 The Impostor(1944)
パニック Panique(1946)
アンナ・カレニナ Anna Karenina(1948)
神々の王国 Au royaume des cieux(1949)
巴里の空の下セーヌは流れる Sous le ciel de Paris(1951)
陽気なドン・カミロ Petit monde de Don Camillo(1952)
アンリエットの巴里祭 La fête à Henriette(1952)
ドン・カミロ頑張る Le retour de Don Camillo(1953)
埋もれた青春 L'affaire Maurizius(1953)
わが青春のマリアンヌ Marianne de ma jeunesse(1955)
殺意の瞬間 Voici le temps des assassins…(1955)
殺人狂想曲 L'homme à l'imperméable(1957)
奥様ご用心 Pot-Bouille(1957)
私の体に悪魔がいる La femme et le pantin(1959)
自殺への契約書 Marie-Octobre(1959)
並木道 Boulevard(1960)
フランス式十戒 Le diable et les dix commandements(1962)
火刑の部屋 La Chambre ardente(1962)
めんどりの肉 Chair de poule(1963)
悪魔のようなあなた Diaboliquement vôtre(1967)
フランスの映画監督。映画史家ジョルジュ・サドゥールが〈詩的リアリズム〉と名付けたスタイルによって,ルネ・クレール,ジャン・ルノアール,ジャック・フェデル,マルセル・カルネと並ぶ1930年代の〈フランス映画の五大巨匠〉の一人に数えられ,国際的もに評価が定着している。とくに日本では圧倒的な人気と高い評価で,《にんじん》(1932),《白き処女地》(1934),《地の果てを行く》(1935),《我等の仲間》(1936),《望郷》《舞踏会の手帖》(ともに1937),《旅路の果て》(1939)などはフランス映画の珠玉の名作として多くの人々に記憶されている。
第2次世界大戦中はアメリカに渡って,オムニバス映画の傑作として知られる《運命の饗宴》(1942)などをつくり,戦後ヨーロッパにもどってフランス,イギリス,ドイツで監督をつづけたが,フランス・イタリア合作の《陽気なドン・カミロ》(1952)で面目を保ったにすぎず,とくに〈ヌーベル・バーグ〉以後は,戦後社会の時代の流れに取り残された〈職人作家〉とみなされるに至り,かつての成功作はシャルル・スパーク(1903-75)やアンリ・ジャンソン(1900-70)のシナリオの力によるものであり,デュビビエの最大の功績はジャン・ギャバンのスターとしてのイメージをつくりだしたことであるという程度に片づけられてしまっているほどフランスでは評価が低い。
執筆者:柏倉 昌美
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…1937年製作。《地の果てを行く》(1935),《我等の仲間》(1936)につづくジュリアン・デュビビエ監督作品。パリ警察の元警部の小説をもとにしてアンリ・ジャンソンが脚本を書き,ジャン・ギャバンが主演したデュビビエの代表作の一つ。…
※「デュビビエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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