はしか(麻疹)(読み)はしか(ましん)(英語表記)Measles

六訂版 家庭医学大全科 「はしか(麻疹)」の解説

はしか(麻疹)
はしか(ましん)
Measles
(子どもの病気)

どんな病気か

 (せき)高熱発疹を特徴とする小児期の急性ウイルス性疾患です。伝染力が強く、体の免疫が強く侵され、重い合併症も多い病気です。最近の小児の急性疾患では重症度の最も高い疾患のひとつです。

原因は何か

 麻疹ウイルスが原因で、麻疹患児から離れたところにいても、うつってしまいます(空気感染)。

症状の現れ方

 潜伏期は10~12日で、発熱、カタル症状(咳、鼻みず、涙がたくさん出る)で発症します。図46に臨床経過を示しますが、病期をカタル期(前駆期)、発疹期、回復期の3期に分けます。

 カタル期は2~3日で、強いウイルス血症(血液中に麻疹ウイルスがたくさんいる)があり、ウイルスはこの時期に全身に広がります。発熱、くしゃみ鼻汁、咳、流涙(りゅうるい)(うる)んだ目)、目やに、羞明(しゅうめい)(光がまぶしい)などの症状があります。この時期の後半には、(きょう)粘膜臼歯に面する部位に小さな白斑(白い粘膜疹で、まわりが炎症のため赤くなっている)が現れます。小児科医はこのコプリック斑と呼ばれるものを見て、麻疹の発疹が出る前に麻疹の診断をします。

 発疹期は3~4日で、ウイルスによる皮膚の感染と炎症の時期になります。カタル期の終わりに熱が一時下がり、また上がり始める時に発疹が現れます(図47)。発疹は耳後部から始まり、顔面、胴体、四肢に広がります。この時期は高熱が続き、咳もさらに強くなります。

 熱が約1週間続いたあと、下降し回復期に入ります。発疹は現れた順に退色し、褐色の色素沈着を残します。

 麻疹の異常経過や合併症には重いものが多く、麻疹の内攻(発疹は現れず、病変が体内だけにある)、出血性麻疹、脳炎などがあります。頻度の高い合併症として中耳炎肺炎喉頭炎などがあげられます。

検査と診断

 末梢血の白血球数がかなり少なくなります。麻疹の診断は検査をしなくても難しくありません。麻疹患者との接触が10~12日前にあり、潤んだ目や咳がかなり強いことも参考になります。小児科医はコプリック斑を確認し、発疹が現れる前に診断します。

 区別するものとして、風疹突発性発疹症猩紅熱(しょうこうねつ)薬疹(やくしん)多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)川崎病敗血症(はいけつしょう)など、多くの熱性発疹性疾患があります。

治療、予防の方法

 麻疹ウイルスの特効薬はありません。発病したらもちろん小児科医にかからなければなりませんが、安静、水分と栄養補給解熱薬鎮咳薬(ちんがいやく)など対症療法が中心になります。細菌感染症を合併すれば抗菌薬が使用されます。ビタミンAを補給する場合もあります。

 麻疹患者に接触しても6日以内であればγ(ガンマ)­グロブリンを注射し、麻疹の予防、軽症化を図ることができます。いちばん重要なことは1歳の誕生日を迎えたらすぐに麻疹ワクチン接種を受けることです。

 現在、麻疹ワクチンは麻疹・風疹混合(MR)ワクチンとして接種、第1期(1歳児)と第2期(小学校入学前年度の1年間にあたる子)に計2回接種します。これは1回の接種では免疫が長く続かないため、2回目を接種し免疫を強め、成人になってから麻疹や風疹にかからないようにするためです。

 2008年4月1日から5年間の期限付きで、麻疹と風疹の予防接種対象が、第3期(中学1年生相当世代)、第4期(高校3年生相当世代)にも拡大され、接種機会を逸し1回しか接種されていない子も2回接種が可能になります。

 麻疹は伝染力が強く、重い病気で、合併症も重いものが多いため、麻疹ワクチンの接種を受けることが大切であることを強調しておきます。

病気に気づいたらどうする

 すぐに小児科を受診する必要があります。熱は約1週間続きます。とくに消耗の激しい病気ですから、脱水や合併症には注意してください。解熱後3日を経過するまでは登園、登校はできません。

浅野 喜造


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

百科事典マイペディア 「はしか(麻疹)」の意味・わかりやすい解説

はしか

麻疹(ましん)とも。麻疹ウイルスによる小児の急性伝染病。まれに成人もかかる。伝染力は強いが,終生免疫となる。10日前後の潜伏期を経て発熱,咳(せき),鼻流,結膜炎が現れ(カタル期),3〜4日めごろ熱がいったん下がってからさらに上昇するとともに顔・躯幹(くかん)・四肢に紅色斑点状の発疹が生ずる。発疹は3〜4日で最高潮となり,解熱とともに漸次消退する。カタル期には頬(きょう)部粘膜のコプリック斑(青白色のやや隆起した斑点)と口内疹とが特有。治療は対症的。肺炎中耳炎などの合併病に注意。母親の血清γ(ガンマ)‐グロブリンが予防に用いられたが,1960年,アメリカの細菌学者エンダーズによりワクチンが開発され,1978年以降生後12ヵ月から90ヵ月の間に定期接種が実施されて患者(児)数は減少している。→対症療法
→関連項目エマージング・ウイルス学校伝染病届出伝染病風疹予防接種ラージー

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知恵蔵 「はしか(麻疹)」の解説

はしか

麻疹ウイルスによる感染症で、発熱と発疹を特徴とする。日本では「はしか」と呼ばれることが多い。感染経路には空気感染、飛沫(ひまつ)感染、接触感染があり、ヒトからヒトへとうつる。感染力は強く、免疫抗体を持っていない人が麻疹ウイルスに接触するとほぼ100%が発病する。
潜伏期間は10~12日。発熱を伴う風邪のような症状に続いて、赤い発疹が現れ、40℃前後の高熱になるが数日で熱は下がり、発疹も退色する。発症後には特別の治療法はなく、死亡や後遺障害のリスクのある脳炎や肺炎などの合併症を防ぐためには、予防接種によって免疫抗体を獲得する必要がある。
麻疹の致死率は、我が国を含む先進諸国では0.1~0.2%だが、発展途上国の中には乳幼児で20%を超えている国もあり、世界全体ではなお年間十数万人の死亡者が報告されている。事態を改善するため世界保健機関(WHO:World Health Organization)は世界麻疹排除計画に沿って生ワクチンの接種率向上に取り組んでいる。2005年、同機関の日本を含む西太平洋地域委員会(WPR:Western Pacific Region)はその一環として「2012年までに地域から麻疹を排除する」という目標を発表。この計画を受けて日本では、乳幼児期に2回の定期接種を実施することになり、患者数も一部の小児科からの定点報告ではなく全数報告で把握するようになった。結果、08年に年間1万1000例に上った症例が、09年には740例へと激減。その後も年々減り続けている。また、10年6月から国内の流行株による麻疹の伝搬がないことなどをもって、13年9月に厚生労働省は、我が国が麻疹排除状態であるとの報告をまとめWPRに認定を求めることを決めた。

(石川れい子  ライター / 2013年)

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世界大百科事典 第2版 「はしか(麻疹)」の意味・わかりやすい解説

はしか【measles】

麻疹ともいい,届出伝染病の一つ。非常に感染力の強い疾患で,だれでも一度はかかると考えられている。三日ばしかと呼ばれるのは風疹であって,はしかではない。日本では1978年の秋からはしかワクチンの定期接種が始められ,九十数%に生涯免疫が得られているので,患者は減少している。
[疫学]
 ほとんどの母親がはしかにかかって抗体を保有しているので,その抗体が胎盤を通って胎児に入るため,生後3~4ヵ月までの乳児ははしかにかかることはまれである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「はしか(麻疹)」の意味・わかりやすい解説

はしか

麻疹

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「はしか(麻疹)」の解説

はしか

 →麻疹

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「はしか(麻疹)」の意味・わかりやすい解説

はしか

麻疹」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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