知恵蔵 「はやぶさ」の解説
はやぶさ
はやぶさのミッションは市民の間でも大きな注目を集めていた。打ち上げに先立ち、03年5月には「星の王子様に会いに行きませんか」というキャンペーンが行われた。これは、小惑星着陸に際し、目標地点を定めるターゲットマーカーにはやぶさを支援する人々の名前を刻むというもの。キャンペーンには世界各国から80万人を超える応募があり、名前が刻まれたマーカーは無事イトカワに届けられた。
はやぶさは、将来の本格的な「サンプルリターン・ミッション」を達成するために必要な技術を開発し、それが使えることを実証するための探査機。サンプルリターンとは地球以外の天体から採取した試料を持ち帰ることをいう。「はやぶさ」ミッションの主な目的は、このために必要なイオンエンジン、自律誘導航法、小惑星のサンプル採取、地球スイングバイ、再突入カプセルについての技術を実証することにあった。はやぶさによるイトカワからのサンプルリターンは、月以外の天体の固体表面からのものとしては人類初となる。太陽系の初期のころの物質を知る上で、小惑星は惑星誕生期の記録を比較的よくとどめていると考えられ、はやぶさの成果が期待されていた。
イオンエンジンは、イオン(電気を帯びた原子団)の加速を利用して推力を得るエンジンで、燃料の重量に比べて大きな推力を得られることから、旧来のヒドラジン系の燃料に代わって人工衛星や探査機に採用されてきている。はやぶさが搭載するイオンエンジンは、マイクロ波放電を利用する方式としては初めて実用化されたものである。実際の運用では様々なトラブルに遭遇したが、トラブル発生とその対応策を探ること自体が実験目的でもあり、巧みな操作で多くの問題を解決してきたことが高く評価されている。
はやぶさの設計は、イトカワで採集した資料を入れたカプセルのみを回収し、本体の探査機はさらに運行を続けることも可能なものだったが、帰還時の安定性に問題があったため、大気圏外でカプセルを分離後、本体も再突入した。カプセルは成層圏でパラシュートを開き、オーストラリア南部のウーメラ区域に着陸し無事回収された。
数々の苦難を乗り越え、満身創痍(そうい)になりながらも長期にわたる航行を続け、最後には本体は燃え尽きながらもミッションを果たしたことから、「あきらめなければ、いつか必ず願いはかなう」ことの表象として人々の共感を呼んだ。
(金谷俊秀 ライター / 2010年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報