メリエス(その他表記)Georges Méliès

デジタル大辞泉 「メリエス」の意味・読み・例文・類語

メリエス(Georges Méliès)

[1861~1938]フランス映画製作者・監督奇術師として出発したが、リュミエール兄弟の映画に出会い映画製作を開始トリックを使った幻想的な映画を開拓し、特殊撮影創始者となる。作「月世界旅行」「海底二万里」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「メリエス」の意味・わかりやすい解説

メリエス
Georges Méliès
生没年:1861-1938

フランスの映画製作の先駆者であるとともに,世界の映画のパイオニアの一人でもある。〈魔術師〉としても知られ,数々の〈トリック映画〉を考案した。パリ生れ。多趣味多才で,トリックをとり入れた幻想劇やマジックショーの演出家,興行師となるが,1895年,リュミエール兄弟の〈シネマトグラフ〉の歴史的なプレミアを見て心うたれ,96年,ロンドンでロバート・W.ポール(1869-1943)の〈バイオスコープ〉映写機エジソンの〈キネトスコープ作品を買い入れて映画の上映を始め,さらに〈バイオスコープ〉のメカニズムをもとにしたカメラを作り,〈スター・フィルム〉社を設立して実写映画の製作を始めた。97年には,パリ郊外のモントルイユの邸宅の庭にヨーロッパで最初のグラス・ステージを中心とした撮影所を作り,手工業的であった映画作りを改め,職能を分化した映画の製作システムを確立,トリックを自在に使った荒唐無稽な喜劇や幻想的な映画を作った。

 ジュール・ベルヌの冒険科学小説からヒントを得て作った《月世界旅行》(1902)がその代表作の1本で,トリックの効果を高めるために,単なる実写ではなく〈ストーリー〉を導入したことは,映画史でも特筆される重要な足跡である。しかし,やがてトリック映画のものめずらしさが薄れ,また,シャルル・パテー(1863-1957)やレオン・ゴーモン(1864-1946)に代表される近代的な映画企業に圧倒されて,1923年に〈スター・フィルム〉社は破産する。メリエスは不遇の晩年を送ったが,映画の草創期における開拓者としての功績はのち28年に近況が知られたとき改めて高く評価され,31年にレジヨン・ドヌール勲章が贈られた。チャップリンは,メリエスを〈光の錬金術師〉と評し,D.W.グリフィスは,〈映画のすべてはメリエスのおかげである〉と語っている。ジョルジュ・フランジュ監督による短編伝記映画《偉大なるメリエス》(1952)がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「メリエス」の意味・わかりやすい解説

メリエス
めりえす
Georges Méliès
(1861―1938)

映画創成期に活躍したフランスの映画製作者。12月8日パリに生まれ、1月21日同地に没。奇術を愛好し、1888年にパリのロベール・ウーダン劇場を買い取って奇術や夢幻劇を上演していたが、1995年12月、初めて有料で一般に公開されたリュミエール兄弟のシネマトグラフを見て映画に注目。翌年から撮影に着手し、1997年にはパリ郊外に世界最初のスタジオを建設、そこで自ら製作、監督、脚本、美術、そしてときには出演をも兼ねた多数の作品を生み出した。

 彼は、実写を中心としたリュミエールとは対照的に、偶然発見した「止め写し」や「重ね写し」などの豊富なトリックを駆使して空想的世界を描き出し、物語映画の父ともみなされている。しかし、彼の発想は根本的に演劇的であり、また同じ手法の繰り返しが飽きられたこともあって、1910年ころを境に急速に不振となり、晩年は不遇であった。代表作に『月世界旅行』『ガリバー旅行記』(ともに1902)、『妖精(ようせい)の王国』(1903)など。

[武田 潔]

資料 監督作品一覧

月世界旅行 Le voyage dans la lune(1902)
ガリバー旅行記 Le voyage de Gulliver à Lilliput et chez les géants(1902)
妖精の王国 Le royaume des fées(1903)
シンデレラ Cendrillon ou La pantoufle merveilleuse(1912)
雪山の騎士 Le chevalier des neiges(1913)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メリエス」の意味・わかりやすい解説

メリエス
Méliès, Georges

[生]1861.12.8. パリ
[没]1938.1.21. パリ
フランスの映画制作者。映画草創期に活躍。劇映画の父といわれる。リュミエール兄弟の発明したシネマトグラフが実写だけに頼っていたとき,さまざまな特殊撮影を用いて,映画による空想の世界をつくり上げた。本職が奇術師でもあったため偶然のきっかけで最初のトリック映画となった,『ロベール・ウーダン劇場における婦人の雲隠れ』Escamotage d'une dame chez Robert Houdin(1896)を発表。ストップ・モーションクロース・アップ微速度撮影(コマ落とし),スーパーインポーズ(二重焼き付け)などの手法を駆使して,『月世界旅行』Le Voyage dans la Lune(1902),『不可能世界の旅』Le Voyage à travers l'impossible(1904)などの空想物のほか,『ドレフュス事件』L'Affaire Dreyfus(1899)など歴史的事件の再現映画も手がけた。(→映画SF映画フランス映画

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百科事典マイペディア 「メリエス」の意味・わかりやすい解説

メリエス

フランスの映画監督,興行師。幻想劇やマジック・ショーを手がけていたが,1895年にリュミエールシネマトグラフを見て映画製作をはじめる。作品にはトリック撮影応用の幻想劇が多く,また〈ストーリー〉を導入し,映画表現の開拓者となった。J.ベルヌSF小説にヒントを得た《月世界旅行》(1902年)が代表作。
→関連項目映画特撮

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世界大百科事典(旧版)内のメリエスの言及

【SF映画】より

…これは一種の疑似体験としての世界最初の視聴覚メディアの実験でもあった。次いで1902年,フランスの奇術師G.メリエスがJ.ベルヌの空想科学小説から初の〈SF映画〉《月世界旅行》を完成した。 第1次世界大戦直後の19年,ドイツ表現主義映画の最初の傑作として名高いR.ウィーネ監督の《カリガリ博士》が,マッド・サイエンティスト(狂った科学者),その実験から生まれた怪物,怪物に襲われる美女という〈怪奇映画〉のパターンを創造した。…

【月世界旅行】より

…無声。SF(空想科学)映画の元祖とみなされると同時に,〈シナリオ〉にもとづいて演出された最初の作品として映画史上画期的なジョルジュ・メリエスのトリック映画。ジュール・ベルヌの同名の小説から着想を得て,天文学者の一行がロケット砲に乗って月に着陸し,月世界の人間たちと戦い,捕虜になるが,脱出して海に落ち,帰国するまでの物語を30画面に分割し(カット割り),それを総合(すなわち編集)するという,それまでにない〈映画的な〉技法を用い,845フィートの作品にまとめあげたもの。…

【撮影所】より

…このエジソン撮影所の建設費は637ドル67セントで,ここで撮影される映画の製作費は,特別大作が150ドル,普通作品が100ドルくらいであった。 97年,G.メリエスがパリ郊外のモントルイユ・スー・ボアにヨーロッパ最初の撮影所をつくり,人工光線を使って屋内での映画製作を始めた。メリエス自身の設計で,間口が7m,奥行きが17mあり,人工照明が不十分だったため,太陽光線をとり入れる必要から壁面がガラス張りの温室に似た建物,いわゆる〈グラス・ステージ〉であった。…

【特撮】より

… 特撮の歴史は,映画の誕生とともに生まれたともいえる。ファンタジー映画の開祖ジョルジュ・メリエスが,1896年にパリのオペラ座前広場の実景を撮影中,カメラの故障で撮影を数分間中断し,あとでそのフィルムを現像してみると,バスが葬儀車に,道を横切る男が女にパッと変身した。つまり,偶然によって手品と同じ消去=変身の効果を生むストップモーション撮影法を発見したというのは有名な〈伝説〉である。…

【フランス映画】より

…リュミエール兄弟が1895年12月28日に,パリの〈グラン・カフェ〉で彼らが発明した〈シネマトグラフ〉(撮影機兼映写機)の成果を世界で初めてスクリーンに映写して有料上映会,すなわち興行を行ったときから,真のフランス映画史が始まる。写真家出身のルイ・リュミエール(弟)は実写フィルム(《赤ん坊の食事》《工場の出口》《列車の到着》等々いずれも1895年の製作)を撮ったが,これに対して,〈シネマトグラフ〉の発明に魅せられた奇術師ジョルジュ・メリエスは,数々の夢幻的なトリック映画(《呪われた洞窟》1897,《水上を歩くキリスト》1899,《魔法の本》1900,《月世界旅行》1902,等々)をつくった。リュミエールの写実性とメリエスの幻想性という二つの傾向を根底に受け継いでいるのがフランス映画であるとみる映画史家が多い。…

※「メリエス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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