〈ももんじ〉は江戸時代にイノシシ,シカ,タヌキなどの野獣を総称した語で,そうした野獣・野鳥の肉を売り,あるいは食べさせた店を〈ももんじ屋〉といった。獣店(けものだな),獣屋(けだものや)ともいい,江戸には寛文(1661-73)ころから麴町五丁目,のち同所に隣接する平河町にそうした店があり,イノシシ,シカはもとよりキツネ,ネコ,ヤマイヌ,カラス,トビなどまで売っていた。牛馬などの家畜は食用にすべきではないとする観念は強かったが,それらも当然売られていたと思われる。薬食(くすりぐい),つまり保健,治病をうたって,店主はその薬効を説いたものらしく,〈けだもの屋藪医者程は口をきき〉(《柳多留》第3編)という川柳がある。また,蕪村に〈くすり喰人に語るな鹿ヶ谷〉の句があるので,京都にも同種の店があったようである。5代将軍徳川綱吉の時代の江戸では獣店の名を避けて,〈麴町の鳥屋〉と通称されていたが,化政度(1804-30)ころから寺門静軒のような肉食愛好派はおおいにその効用をたたえ,それに対して小山田与清(ともきよ)のような保守派は声高にその非をののしった。《守貞漫稿》によると,幕末ころまで江戸の獣肉店は麴町の店1軒だけであったというが,それ以後牛肉の食用が普及するに伴って牛なべ屋や馬肉屋が分化し,現在では野獣肉を食べさせる店のみが〈ももんじ屋〉と称されている。
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執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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