キク科の1属で,ほとんど多年草であるが,二年草もある。分布は地中海沿岸,北アメリカ南西部,東アジアなど,北半球の暖帯から寒帯までと広く,約250種ある。日本にはとくに多く,70~80種あり,海岸から高山帯にかけて生育する。いくつかの種が花が美しいところから,いけばなに利用され,根はゴボウと同様,みそ漬,粕漬,きんぴらなどとして食用にされる。ヤマゴボウ,キクゴボウなどの名でも知られ,栽培されている種もある。葉は厚く,鋸歯が鋭く,先端はかたいとげになっており,羽状に深く裂けているものや,浅く裂けているものがある。葉の裏面にはくも毛を密生しているものもある。春から秋にかけて花を開く。花は多数の筒状花が集合した頭花で,総苞は筒形または鐘形である。総苞片にはいろいろな形があり,この総苞と総苞片の形は多くの種を見分ける場合の特徴となる。とげのある葉をもち,アザミに似た花をつけるキク科の植物を英名でthistleと呼ぶ。
日本産のアザミの中で,開花時期が早く,よく知られているのはノアザミC.japonicum DC.である。本州,四国,九州の山野で普通にみられ,開花時には根出葉が枯れずに残る。5~6月に開花し,頭花の直径は4~5cmである。頭花は上向きに咲く。総苞は扁球形で,粘るのが特徴である。頭花は淡紅紫色のものが多いが,白色のものもある。頭花が大きく,紅色や紫紅色または濃紫色のものを選び栽培したハナアザミ(ドイツアザミ)は,切花としてよくつかわれている。また中国では全草を薬用にし,肺結核,高血圧などに効果があるといわれる。ノアザミと同様,開花時に根出葉が残っており,頭花が上向きに咲くものにノハラアザミC.tanakae(Fr.etSav.)Matsum.,オオノアザミC.tanakae ssp.aomorense(Nakai)Kitam.がある。ノアザミとは開花期が8~10月で,総苞が粘らない点などでも区別される。
日本産のほとんどのアザミは,夏から秋に花を開く。その中で最もりっぱな花を咲かせるフジアザミC.purpuratum(Maxim.)Matsum.は中部,関東地方の山地に生える。とくに富士山腹に多くみられるので,この名がある。頭花は大きく,直径6~9cm,紅紫色で下向きに咲く。茎は高さ1m前後で,葉が基部に集まっている。根出葉は花時にもあり,羽状中裂し,長さ90cmに達する。根は食用にされる。
北陸,東北,北海道南部の川辺,湿地に生えるサワアザミC.yezoense(Maxim.)Makinoはやわらかい多年草である。茎は高さ1~2m,ときに3mになるものもある。葉はうすいが,大型で,長さ60cm,幅30cmにも達する。9~10月,紅紫色で,直径5cm内外の頭花を下向きにつけ開く。
東海地方以西,四国,九州の太平洋側には海岸の砂浜にハマアザミC.maritimum Makinoが生えている。茎の高さは15~60cmくらいで,下部でよく分枝する。根出葉は花期にも残っていてやや厚く,葉の表に強い光沢がある。8~12月に上向きに花を開く。根は食用にされる。
本州,四国,九州の湿原には茎が花茎状になるキセルアザミC.sieboldi Miq.が生えている。茎の高さは80cm内外。根出葉は両面無毛で,羽裂し,花期にも残っている。9~10月に横向きに花を開く。名前は花をつけた様子が煙管(きせる)を連想させるところからつけられた。
地域的にごく普通に見られるアザミとして,北海道ではチシマアザミC.kamtschaticum Ledeb.がある。草丈が2m近くなる大型のアザミで,葉の基部が茎に延下しているのが特徴である。本州の東北地方にはナンブアザミC.nipponicum(Maxim.)Makinoがあり,これも大型で,草丈は2m近くある。葉の基部は茎に延下しない。関東地方ではトネアザミC.nipponicum var.incomptum (Fr.et Sav.) Kitam.が最も多い。総苞片がナンブアザミより鋭く開出する。近畿地方にはヨシノアザミC.nipponicum var.yoshinoi(Nakai)Kitam.がある。総苞片があまり開出しないし,葉の表に白斑がある。九州の秋に最も多いのはツクシアザミC.suffultum(Maxim.)Matsum.である。草丈が1m内外とやや小型であるが,頭花は幅2~3.5cmと大きい。近畿地方以西にはヒメアザミC.buergeri Miq.がある。
大部分のアザミは果実が麦わら色一色であるが,モリアザミC.dipsacolepis(Maxim.)Matsum.とヤナギアザミC.lineare(Thunb.)Sch.-Bip.の果実は上半分が黄白色,下半分が黒紫色と2色に染め分けられている。いずれも西南日本に多い。モリアザミの根は垂直に伸び,太く,食用になる。三瓶ゴボウ,菊ゴボウ,山ゴボウなどと呼ばれているのは,栽培したモリアザミの根を粕漬にしたものである。また,多くのアザミは多年草であるが,タカアザミC.pendulum Fisch.は二年草で,やや湿った草地に生え,大きいものは2m近くなる。東北地方以北に多く,花冠狭筒部が広筒部の2倍くらい長い。
執筆者:小山 博滋
日本では〈アザミの花も一盛り〉とのことわざがあり,地味でも盛りにはそれ相応に美しくなることのたとえに使われる。西洋では聖母マリアが十字架から引き抜いた釘を埋めた場所から生じたというので,キリスト教の聖花とされる。北欧ではとげが魔女を追い払い,家畜の病気除けや結婚成就のまじないにも効くと信じられた。また,北欧神話の雷神トールの花とされ落雷除けになるという。10世紀半ば,マルカム1世の時代にデーン人の攻撃を受けたスコットランドでは,敵の斥候が素足で踏みつけて悲鳴を発したために奇襲が発覚したという伝説があり,以来スコットランド王家の紋章とされてきた。そのため今もガーター勲章に次ぐアザミ勲章が存在する。花言葉は〈厳しさ〉。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
キク科(APG分類:キク科)の一属で、ほとんどが多年草であるが、越年草もある。アザミの仲間は地中海沿岸、北アメリカおよび東アジアなどの暖帯から寒帯まで広く分布し300種以上ある。生育地は海岸から高山帯にまで及ぶ。日本には100種以上も生育し、分類のむずかしい植物群である。しかしいずれの種も葉や茎に鋭い刺針があり姿形がよく似るので、アザミの仲間であることは容易に見分けられる。ただし、キツネアザミ属、ヒレアザミ属などのようにアザミに似るがアザミ属でないものもある。葉は厚く、羽状に深く裂けるものから浅く裂けるものまであり、いずれも鋸歯(きょし)が鋭く、先端に刺針がある。葉の裏面はほとんど無毛のものからノリクラアザミC. norikurense Nakaiの葉のように白綿毛で密に覆われるものまである。いずれも根出葉をつけるが、花期にも根出葉の残るものと枯れるものとがある。
アザミの花は多数の小花からなる頭花で、春に咲くノアザミを除いてほかはすべて秋に咲く。総包葉は筒形、鐘形または扁球(へんきゅう)形で、径1~4センチメートルほどのものが多い。フジアザミの総包葉はぬきんでて大きく、径9センチメートルぐらいにもなる。いずれも総包葉片は多数あって、輪状に多数の列となる。外側の総包葉片が短くなって覆瓦(ふくが)状になるものや、長くて鋭くとがり、外に曲がるものなどいろいろあるので、種を見分ける特徴の一つとなる。
頭花を構成する多数の小花はすべて両性で、同形の筒状花であり、いずれも結実する。果実は普通、麦わら色であるが、ヤナギアザミC. lineare (Thunb.) Sch.Bip.とモリアザミは上半分が麦わら色、下半分が黒紫色である。
じみではあるが美しい花なのにとげがあるためか、あまりいけ花として用いられない。しかし江戸時代には「紅筆」「ふじの雪」「あけぼの」「うすすみ」「くろべに」「かば色」「つま白」「つま紅」「白るり」「つまむらさき」など、ノアザミの園芸品種があったとされる。現在では濃紅色の花をつけるノアザミの改良品種であるドイツアザミの変種が栽培されている。根はゴボウと同様にみそ漬け、粕(かす)漬け、きんぴらなどにすると美味で食用となる。
[小山博滋 2022年1月21日]
園芸種としては、寺岡アザミが多くつくられている。本種は短日下でも温度のみで抽苔(ちゅうたい)開花するので、5~6月播(ま)きで大株につくり、12月から加温して1~3月出荷も可能である。また、このなかから優良系を選抜して栄養繁殖した標野(しめの)などは品質が向上し、促成のみならず普通栽培でも安定した切り花市況が期待できる。オニアザミやフジアザミなど大形種の直根を切って鉢でつくると、30~40センチメートル程度となり栽培しやすい。庭植えの場合も抽苔後、摘芯(てきしん)して草丈を抑えて横に張らせると、変わった観賞価値を生む。
いずれの品種も栽培は容易で、戸外で越冬し、土質は排水と日当りのよい所にする。繁殖は株分け、実生(みしょう)いずれも可能であるが、実生は取播(とりま)きがよい。肥料は窒素、リン酸、カリの等分比、8・8・8を1平方メートル当り150グラム程度とし、基肥に3分の2、残りは追肥とする。促成栽培の場合は前年の種子を5~6月上旬に播くか、前年株を分けて利用する。
[魚躬詔一 2022年1月21日]
アザミの名は『万葉集』にはみあたらず、10世紀初頭の『新撰字鏡(しんせんじきょう)』に阿佐弥(あさみ)と出る。その語源には諸説があるが、山中襄太(じょうた)(1895―1996)の『続語源博物誌』では、葉のギザギザの切れ込み「ギザ」から「ガザ」がおこり、さらに「アサミ」に転じたとしている。「ミ」は実のことであろう。また『琉球(りゅうきゅう)列島方言集』(1979)では、シマアザミの方言を37拾っているが、そのうちの16はアザ、アダ系統のことばで、沖縄では「アザ」とは「刺」を意味すると指摘している。
[湯浅浩史 2022年1月21日]
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…ふつう草本を主体として木本植物やシダ類の一部を含めるが,より広く菌類や藻類を包含させることもあり,山菜と呼ぶ植物の範囲は一定しない。また,アザミのように平安期には栽培されていたが,今ではまったく野草にもどってしまったものや,セリやフキのように栽培→野生→栽培という歴史をもつものもある。現在セリ,フキ,ウド,ワラビ,アシタバ,タラの芽などは栽培に移されて量産が進み,とくにワラビは促成・抑制栽培が確立されている。…
…大部分の種は東アジアの山岳地帯に生育し,25種が日本にある。トウヒレンの〈飛廉〉はヒレアザミに用いられた日本の漢字名であるが,トウの由来はよくわかっていない。分類が困難なこともあって,〈ヒゴタイ〉〈アザミ〉などの名が,いくつもの近縁属にわたって混乱して使用されている。…
※「あざみ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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