改訂新版 世界大百科事典 「アツシ」の意味・わかりやすい解説
アツシ
attus
アイヌの織物,またその布で仕立てた衣服をいう。アイヌ語のアットゥシの転訛で,厚司とも書く。シナノキやニレ科の落葉高木オヒョウの樹皮をはぎとり,水に浸し柔らかくして日にさらし,繊維を細く裂いて麻を紡ぐようにして撚りをかける。こうしてできた糸を,アイヌ語でアットゥシカルペと呼ぶ原始的ないざり機(ばた)で織る。樹皮そのままの茶の濃淡で風合いの硬い布ができる。この布で筒袖,膝丈,衽(おくみ)なしの着物を作り,襟,背,袖口,裾回り等に黒または紺木綿の裂(きれ)を用いて特殊な形の文様を切付け(アップリケ)またはししゅうをしたものを,アットゥシアミプと呼ぶ。アツシの着物の意味で,伝統的なアイヌの晴着,平常着として使用される。これらの衣服に施される独特のアイヌ文様は,かっこ文,渦巻文等の左右対称文で構成され,18世紀末ころに原形ができ上がったもので呪術的・信仰的な祈りから魔除け的な意味をもつ。現代では日高,胆振地方で袋物,敷物等の小物に加工され土産品として使われる。明治中期以降,内地で綿糸を使って紺地や白黒の大名縞に織られた厚司織は,アツシを模したもので,丈夫なため職人,漁師などの労働着に使われた。
執筆者:宮坂 博文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報