改訂新版 世界大百科事典 「アビ」の意味・わかりやすい解説
アビ (阿比)
diver[イギリス]
loon[アメリカ]
アビ目アビ科Gaviidaeの鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。アビ科の鳥は沿岸や内湾,河口などにすみ,潜水しておもに魚類を食べる。全長は約60~90cm。潜水生活に適応して,体は細長く,くびは太く,翼は体に比べて短く先が細い。尾は短い。脚は体のもっとも後方につき,あしゆびには水かきがある。くちばしはまっすぐでとがっている。魚類のほかに水生昆虫やカエル,また海では甲殻類や軟体動物など海産無脊椎動物を餌にする。潜水と遊泳は巧みだが,すぐには飛び立てず,水面をけって助走する。空中に浮いてからはくびをのばし,脚を後方につき出し,翼を強くはばたかせ直線状に飛翔(ひしよう)する。
アビ科の鳥は世界に1属5種いて,日本近海ではアビGavia stellata,オオハムG.arctica,シロエリオオハムG.pacifica,ハシジロアビG.adamsiiの4種が記録されている。他の1種はハシグロアビG.immerで,北アメリカに分布する。羽色は一般に背面が黒く,下面は白い。しかし繁殖期には頭頸(とうけい)部は種に特徴的な色と模様になる。すべて北半球高緯度地方の海に近い湖沼や河口域で繁殖し,冬季には海岸にそって南に移動する。水ぎわに水生植物を低く積み重ね巣とし,黄褐色に黒斑のある目だたない色の卵を産む。1腹の卵数はふつう2個。雌雄交替で4~5週間抱卵し雛をかえす。雛はまもなく巣から離れ,親の背にのせられて運ばれる。両親から養育され,9~10週間でひとりだちする。
瀬戸内地方の豊島,斎(いつき)島では,アビ,シロエリオオハムの習性を利用した〈鳥持網代(とりもちあじろ)〉という漁法が冬季に行われる。回遊してきたイカナゴの群れを追ってこれらの鳥が集まる。この小魚はまた深いところにいるマダイやスズキにもねらわれる。漁師は鳥が群れさかんに潜っているところに舟を寄せ,釣糸をおとし,魚群を追って浮上してきたマダイやスズキを釣りあげるのである。古来,この海ではアビ,シロエリオオハムはたいせつに保護されてきた。近海は〈アビ渡来群游海面〉として天然記念物に指定されている。
執筆者:長谷川 博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報