アラビア語(読み)アラビアご

精選版 日本国語大辞典 「アラビア語」の意味・読み・例文・類語

アラビア‐ご【アラビア語】

〘名〙 南西セム語に属する言語で、アラブ諸国の公用語イラクシリアアラビア半島北アフリカ諸国などに分布する。話し言葉では地域により方言差が大きい。文語は古典アラビア語と呼ばれ、イスラム教聖典コーラン」はこの古典アラビア語で書かれている。単語は一般に三個の子音から成り、基本的な意味がこれで決まり、間に入る母音によっていろいろな意味が派生するという特徴がある。

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デジタル大辞泉 「アラビア語」の意味・読み・例文・類語

アラビア‐ご【アラビア語】

セム語族に属する言語で、アラブ諸国の共通語イラクシリアやアラビア半島・北アフリカなどで広く使用される。長いあいだ中近東世界の国際語であったため、ペルシア語をはじめ周辺の諸言語に大きな影響を与えた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラビア語」の意味・わかりやすい解説

アラビア語
あらびあご

セム語族(アフロ・アジア語族)南西分派に属する一大語群。4世紀以降約15世紀間にわたるきわめて多数の文献をもち、また今日では一億数千万人の使用者が数えられる。アラビア語は当初アラビア半島における地方語であったが、イスラム教の興隆とともに聖典コーランの用語として尊重され、イスラム教を支える言語として発展した。その過程で用法が多様化し、使用人口が増大し、今日では全世界にわたるイスラム教徒の主要用語となっている。

 アラビア語は正則アラビア語(フスハー)と民間アラビア語(アンミーヤ)に大別される。「正則アラビア語」はコーランのアラビア語を規範としつつ、イスラム教の発展とともにつくりあげられた多少とも人工的な言語で、古典アラビア語文学の大半はこれで書かれている。きわめて複雑な文法体系をもち、イスラム諸学および外来諸学の高度の思想や科学的知識を表現することができた。また近代になると、新聞、雑誌、一般書籍の用語として用いられるとともに、ラジオ、テレビにおけるニュース、講演などにも用いられている。本来は文語であったが、口語的要素が取り入れられるようになっているため、今日では「標準アラビア語」ともよばれている。「民間アラビア語」はアラブ世界の各地で日常言語として用いられており、使用範囲の広い方言群とみなされる。大別してイラク方言、シリア方言、エジプト方言、北アフリカ方言とに分けられ、さらにこれらが細分されるが、ほかにも多数の方言群が認められる。民間アラビア語は、発音、語彙(ごい)および表現法、若干の文法の点で正則アラビア語と異なり、また方言群の間でかなりの相違がある。今日では遠隔地に住むアラブ間の交流が増大したために、共通民間アラビア語といえるものが形成されつつある。

[矢島文夫]

文字

最古期アラビア語の文献としては、328年の日付をもつナマーラ刻文、512/513年の日付をもつザバド刻文、568年の日付をもつハッラーン刻文が知られているが、これらはアラム系ナバタイ文字で記されており、アラム語の影響を強く受けている。しかしイスラム以前のアラビア語刻文遺物はわずかしか知られていない。イスラム暦第1世紀(西暦7世紀)末に南イラクのクーファ地方で、クーフィー体とよばれるアラビア文字が使われるようになり、次の世紀に東方から紙の製法が伝えられるとともに、今日も用いられている筆写用の書体が生じた。一般的な書体はナスヒー体で、日常にはしばしばルクア体が使われ、ほかにも多くの書体が生じた。今日のアラビア語活字はこれらをもとにしてつくられている。他のセム諸文字と同じく、アラビア文字は主として子音のみを記し、母音およびその他の判別記号は必要に応じてのみつけ加えられる。またアラビア文字で記されるのは主として正則アラビア語であって、民間アラビア語は通常、表記されないが、最近は新聞、雑誌の会話体に使われ出している。

[矢島文夫]

文法

正則アラビア語では28個の子音、8個の母音(u、a、i、u-、a-、i-、au、ai)が使われている。民間アラビア語では子音のいくつかに地方的変差が認められるほか、母音も複雑化していることが多い。

 アラビア語の本来の単語の特徴は、3個か4個の語根(子音群)が基本的意味を決定し、母音および付加的要素がその単語の意味の細部を示すところにある。たとえば、d‐r‐sは「学ぶ」という意味をもち、darastuは「私は学んだ」、yadrusは「彼は学ぶ」、darsは「学ぶこと」「学課」、madrasaは「学ぶ場所」「学校」を表す。動詞には13の人称変化があり、また各種の派生変化形があるために、理論上は一つの語根から1000個以上の語形が生じうる。それらの派生語は新語として用いられることもあり、この造語力の豊かさが正則アラビア語をラテン語と並ぶ中世の一大文語にしたといわれる。

 正則アラビア語の本来の語順は「述語+主語+補語」である(たとえば「彼は彼の学課を学んだ」はdarasa huwa darsa-hu「学んだ・彼・学課・彼の」)。しかし現代の標準アラビア語においては、語彙(ごい)とともに文法面でもヨーロッパ近代諸語の影響が増えており、この語順も厳格には守られなくなりつつある。

 西暦8世紀後半以後のイスラム諸学の興隆とともに、きわめて多くの正則アラビア語文献が学者、文人によって生み出されたが、その一部門に文法学および辞典の作製があった。ハリールの『アインの書』、シーバワイヒの『キターブ』、イブン・マンズールの『アラブの言語』などが知られている。ヨーロッパでは中世スペイン、近世オランダでアラビア学が生じ、イギリス、フランス、ドイツが主流となって今日に及んでいる。

[矢島文夫]

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百科事典マイペディア 「アラビア語」の意味・わかりやすい解説

アラビア語【アラビアご】

広義には南北両アラビア語をさすが,普通は北アラビア語をさす。南アラビア語,アムハラ語とともに南セム語(セム語族)に属する。ベドウィンの共通詩語とメッカ方言を土台として古典アラビア語が7世紀ごろ成立。イスラムとともにコーランの言語として広まり,今日でもアラビア語各方言にかぶさる共通標準語として用いられる。古典アラビア語は音韻・文法の点で原セム語の姿を最もよく反映している。現在はイラク,シリア・パレスティナ,アラビア半島,エジプト,マグリブ,マルタの諸方言があり,1億人以上の話し手がいる。最古の文献は,南・北アラビア語でおのおの前8世紀および前5世紀。→アラビア文字
→関連項目アラブイスラム文化ウルドゥー語カシミール語シリア語ペルシア語マルタ語

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世界の主要言語がわかる事典 「アラビア語」の解説

アラビアご【アラビア語】

セム語族の南セム語派に属する言語。西南アジアから北アフリカにかけての広い地域で用いられ、公用語としている国・地域は24、話者数は2億3000万人に及ぶ。国際連合の公用語の一つでもある。古くは4世紀の碑文(ひぶん)が知られるが、アラビア砂漠遊牧民の共通の詩語をもとに古典アラビア語が成立。7世紀、ムハンマドに下った啓示がコーランにこの言葉で書かれたことから、聖典の言語として文法的な規範が整えられ、イスラム教の伝播によって各地に広がった。また、ギリシア古典の翻訳等を通じて高い表現能力や豊かな語彙(ごい)を獲得した。アラブ世界では今日も、多くの方言と並んで、古典アラビア語が共通の標準語として用いられている。文字は28字からなるアラビア文字が使われる。単語は、3子音からなり基本的な意味を与える語根と、接辞・母音からなり文法的意味を与える型とを組み合わせてつくられる。語順は、動詞が先頭に立つなど、日本語と逆であることが多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アラビア語」の意味・わかりやすい解説

アラビア語
アラビアご
Arabic language

セム語族に属し,単独で南西セム語をなす言語。アラビア半島,エジプト,リビア,チュニジア,モロッコ,ヨルダン,シリア,レバノン,イラク,マルタ島などのアラブ諸国で母国語として話されている,互いに著しく異なる口語アラビア語と,そのうえにかぶさっていて,より広くイスラム圏全体で使われている古典アラビア語とから成る。約 8000万人の話し手をもつ古典アラビア語はイスラム教徒の聖典『コーラン』 (650年頃) の言語であるが,7世紀にイスラムの言語と定まって以来,実に保守的にその姿を維持している。上述のアラブ諸国では今日でも書き言葉はもちろん,改まったレベル (文学,政治,学術,宗教など) の話し言葉としても使われ,非アラビア語イスラム圏 (イラン,マレーシアなど) では宗教上の共通語として使われている。アラビア語のおもな特徴は,喉頭音や強勢音の多いこと,3子音を基本とする語根に母音の型が加わってその語彙的=文法的意味を表わすこと,動詞の活用体系が豊富でしかも規則的であることなど。アラビア文字を使用する。

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世界大百科事典 第2版 「アラビア語」の意味・わかりやすい解説

アラビアご【アラビア語 Arabic】

セム語族中,エチオピア語と共に南セム語派に属し,広義には北アラビア語と南アラビア語に分かれるが,普通は前者のみを指す。アラビア語ではアラビーヤal‐‘Arabīya。現在,シリア,イラク以南の西南アジア諸国はもちろん,エジプト,スーダン,リビア,チュニジア,アルジェリア,モロッコ等の北アフリカ諸国で公用語と定められ,その他の北アフリカ各地,中央アジアのウズベクや地中海のマルタ島でも話されており,総人口は1億以上と推定される。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アラビア語」の解説

アラビア語(アラビアご)
al-‘Arabīya

アラブ人の言語で,南セム語に属する。最古の文献はコーランで,その結果アラビア語はムスリムの共通語となり,現在イスラーム圏の,モロッコからイラクにわたる地域で使用される。

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旺文社世界史事典 三訂版 「アラビア語」の解説

アラビア語
アラビアご

セム語系の1つで,アラブ世界の共通語
イスラームの聖典『コーラン』によって正しい形が確定し,イスラームとともにアラビア半島外に広まった。現在,東はイラクから西はモロッコに至るまでのアラブ−イスラーム世界で使用されている。

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世界大百科事典内のアラビア語の言及

【アラブ】より

…アラブがもともとアラビア半島に住んでいたかどうか,もしそうでないとすれば,彼らはどこから来たのかという問題は,現在なお未解決である(図)。彼らの言語アラビア語はセム系言語の一つで,古代南アラビア語およびエチオピア語からなる南セム語と,ヘブライ語,ウガリト語,アラム語からなる北西セム語との中間に位するという。現在アラビア語を母国語とする人々は,約1億5000万と推定される。…

【書】より

…それは,主として啓示宗教であるイスラムの基本的性格に基づいている。アラビア語は単なる人と人との実用的な伝達手段であるばかりでなく,神と人との間のコミュニケーションの手段でもあった。つまりアラビア語とアラビア文字がもつ特殊な性格は,神の啓示がアラビア語で下され,しかも,それがアラビア文字でつづられたことから生まれたものである。…

【スワヒリ語】より

…ニジェール・コルドファン語族の,ベヌエ・コンゴグループの下位グループである,バントゥー諸語に属する言語。この言語はアラビア語のṣāḥil〈海岸〉に由来する名称が示すように,オマーンやイエメンのアラブ商人たちが,東アフリカ海岸の商業根拠地で地元のバントゥー諸語を話す人々との接触の過程で,ピジン言語(交易上の混交言語)として成立,その後,スワヒリ語のみを話し,またそれを母語とする人々のグループが数を増して定着(クレオール)化し,版図をひろげていった。すでに15世紀ころには相当整った形のスワヒリ語が話されていたといわれる。…

【チュルク諸語】より

…たとえば,ハカス語で,Min(私は)ib‐de(家‐から)pičik(手紙(を))al‐dy‐m(受けとった〈私が〉);Kičig(小さい)pala‐lar(子ども‐たち)となる。語彙(ごい)にはロシア語とアラビア語からの借用語が目だつ。前者は比較的新しいことで,トルコ共和国語にはロシア語からの借用語はない。…

【トルコ語】より

…(4)語彙のきわめて多くの部分を外来語が占めている。従来からアラビア語がきわめて多く(たとえばTürk Cumhuriyeti〈トルコ共和国〉のCumhuriyetはアラビア語,Türkと‐iはトルコ語),ペルシア語もかなりあり,近代になってはフランス語が多く入っている(例:sinema〈映画〉,istasyon〈駅〉)。 トルコ語の歴史は,10~11世紀に小アジアへ移住したセルジューク族とオグズ族の言語(チュルク諸語の一つ)に始まり,14世紀以後のオスマン帝国時代の言語を経て,1923年,共和国の誕生とともにトルコ共和国語が確立した。…

【ペルシア語】より

…この政治的変動を契機に,ササン朝の公用語であり,当時の国教であったゾロアスター教の宗教用語であった中期ペルシア語(後に一般にパフラビー(パフラビー語)と呼ばれる)は,書かれた言語としての支持基盤を失った。新しい体制のもとで,イラン人が官職に就き,また学問・芸術の諸分野で活動するためには,アラビア語を習得する必要に迫られた。イスラム期の最高の哲学者,科学者の中に,イブン・シーナー(アビセンナ),ビールーニーをはじめとする多くのイラン人を数えることができるのもこのためである。…

【マルタ語】より

…マルタ人の母語で,現在マルタ共和国では英語とともに公用語とされ,言語人口は約30万。マルタ語の形成に決定的な役割を果たしたのは,870年から220年間続いたイスラム教徒の支配で,その文法,語彙の根幹をなすのはアラビア語である。したがってマルタ語は系統的には南セム語に属し,アラビア語西部(=マグリブ)方言に最も近い。…

※「アラビア語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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